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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
都会編

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12/23

もう一人の転校生

「ただいま」

「ただいまです」

 直と健は帰宅すると、それぞれ部屋に直行する。健は制服から着替えると、さっそく机に向かって宿題をこなしていく。文は構ってほしいと言わんばかりに健に抱き着くが、そのまま抱きかかえられると部屋の隅の檻に閉じ込められてしまう。

「ひどいぞ!」

「宿題終わったらねー」

「むう」

 文は膨れっ面になりながら健を見つめていた。

 その一方、直はベッドの上で寝っ転がっており、亮も窓に佇んで日向ぼっこをしていた。しばらくすると、亮は直の姿にきづく。

「お前さんは宿題しないのか」

「疲れを取ってからじゃないとやる気が起きなくてね」

「まったく、お前というやつは……」

 その直後、隣の部屋からズシンと大きな音がする。直は亮とともに健たちの部屋に向かう。そこには、姿を大きくした文にのしかかられながらも、ちょっとじゃれ合っている健の姿だった。そして直は辺りを見渡すと、床の上のあるものを見て一言物申した。

「制服、ちゃんとハンガーにかけないとシワになるよ」

「えっ、洗濯するんじゃないの?」

 健は目を丸くしながら直に尋ねる。直は首を横に振ると、気だるげに制服をハンガーにかけていく。そしてブラシで埃を落とすと、シワをのばしながらスプレーをかけていく。健はへえと言いながらその様子を見ていたのだった。

「……中学とか高校とか、制服ってなかったの?」

「今までずっと私服だったよ。こんな大層なものはあまり着たことないよ」

「そうなんだ」

 こうして直は、健の制服を部屋のクローゼットにしまうと部屋を出ていこうとする。その時、亮が身体をピクッとさせて目を少し見開いたかと思うと、健に尋ねた。

「今日、変わったことあったか? 健」

「うーん……。でも気のせいかなって思うし……」

「とりあえずしゃべってみるんだ。少し違和感があってな」

 健は頷いて、亮たちに向けて淡々と話しだす。

「学校で、誰かに見られてる気がするんだ。シエスタイムもなんか変な夢だったし」

 健は、昼休み後のシエスタイムで見た夢について話していた。直とともに変身した状態で六科島にいたこと、何か黒い物から恨み言を聞いたこと、レーザーみたいなものを発射されかけたこと。鮮明に覚えていたことはすべて話していた。話が進んでいくうちに、直は顔をだんだん白くしていく。

「同じ夢だ……。いやでも最初は食べ放題でたらふく食ってから――」

「食べることが好きだなあ。こいつは」

 文が直に憎まれ口をたたく。そのお返しに彼は両頬を左右に引っ張られる。

「しばらくは気をつけたほうがいいな。何日も続くなら本当にあいつらが……」

 亮が神妙な面持ちになる。この話については、その後誰も口を開くことはできなくなり、その場で解散することになった。


「ミツケタ……、ミツケタ……」


 *


 二、三日経っても、二人の悪夢は依然続いていた。しまいには、一方が撃ち抜かれて倒れこんでしまうといった最悪のレベルまで到達してしまっていた。シエスタイムを終えた二人がより一層疲れてしまった様子に、クラスメイトたちは心配そうに目を向けていた。放課後になって、生地が二人のもとにやってきた。

「お前ら、大丈夫かよ?」

「全然大丈夫じゃない。悪夢しかみれん」

「いい夢が見られないんだよね……」

 そう言って、直と健は疲れ切った様子で彼に返事をする。生地は腕を組んで、うーん……と頭を悩ませるが、しばらくした後に二人に提案する。

「そうだ、銭湯にでも行こうぜ。近くにいいとこあるんだよ」

「えっ? 本当?! 行きたい行きたい!」

 健は食い入るようにその提案を飲む。直は渋っていたものの、二人の推しに負けて一緒に行くことにした。そして三人は教室を出る。生地がふと隣の二組の教室を覗き込む。

「なあなあ、見てみろよ。噂の黒髪美人の転校生だぜ」

 二人は彼に促されるように、教室の中を覗く。すると、そこには思わず息を飲むような美少女がそこに座っていたのだった。長い黒髪、ぱっちりした目、すらっとしたシルエット。これは一般の男子なら釘付けになることは間違いないだろう。

「いいなあ、二組は……」

 惚れ込んでいる生地とは裏腹に、直と健は淡白な反応しか示さなかった。その状況に生地は文句を言うが、

「いや、美人だけどさ」

「高嶺の花だよね。踏み入れたらだめだよ」

 二人の淡々としたコメントに、生地は少し悔しがっているようだった。

「黒部、いったい何してんの!」

「げっ、なごみ!」

「名前で呼ぶんじゃない!」

 突然、二組の女子生徒が生地に向かって飛び蹴りを喰らわせた。

「痛え……。何すんだよ。ってか旧姓で呼ぶな!」

「この変態が!」

 突然巻き起こった喧騒に、二人は頭が追いついていなかった。その女子生徒、三沢みさわなごみが直と健の姿に気づくと、慌てながら隠れてしまった。

「山井くん……と、そちらが転校生の?」

「山井健です。こちらの山井直のいとこになります」

健はこのみに軽く会釈すると、彼女も会釈を返した。

「黒部……じゃなかった。生地の幼馴染で、二組の三沢なごみです。よろしくね」

その後もなごみのペースは落ちず、生地と喧嘩しつつも、直に迷惑をかけてないか、健をいじめていないか尋ねられる。二人は若干引きながらも、問題ないということを伝えた。

「そういえば、転校したのこないだだよね? うちのクラスにもいるんだ。ちょっと呼んでくるね!」

なごみはそう言うと、その転校生、あの女子生徒を連れてきたのだった。

伏見ふしみ心寧(ここね)ちゃんです!」

そしてなごみは、心寧に健と直、そして生地を紹介していった。お互いに軽く挨拶を済ませると、心寧は健に話しかける。

「あなたも同じ時期に転校してきたのですね。お互いに頑張りましょうね」

「あっ、どうもどうも」

こうして男子三人は、女子二人と別れて銭湯に向かったのだった。

「く……、生地! 女子の風呂覗くんじゃないぞ!」

「覗かねえよ、バカ!」

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