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尋ねた手紙  作者: すごろくひろ
都会編

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11/23

おひるねタイム

 午前授業が終わると、直は後ろの席の健に声をかけた。

「健、学食行くか?」

「そうだね、お弁当持ってきてないし」

 そう言って、直は健を連れて学食へと向かった。後ろから生地が追いかけてくる。

「山井、一緒に飯食おうぜー」

「悪い、今日はちょっと」

 直は申し訳なさそうに謝る。

「そっか、今日は転校生くんと一緒なんだっけ?」

「あっ……、そしたら行きなよ。一人でも大丈夫だから」

 健はそう言って直と生地を見送ろうとした。そのとき生地は健に言った。

「せっかくだし一緒に食べようぜ」


 そして三人は学食に向かい、それぞれ食券を購入する。生地はカツカレーを注文するため、後で合流する旨を告げて別のレーンに移動していった。健は直に券売機の使い方やおすすめのメニューを聞きながら、食券を購入する。二人は麺類のコーナーに移動すると、直はうどん、健はそばを注文して受け取った。その後、生地と合流して近くの席に陣取った。生地は二人のメニューを見ると、少し考えた後にこう尋ねる。

「……山井家って、夏に『冷やしたぬきシリーズ』でも食べるしきたりでもあるのか?」

「あるわけないだろ」

 直は少し強めに答える。

「六科島だっけ? 離島だとそういう文化があるの?」

「いや、冷たくておいしくてすぐ出てくるからって勧められたよ」

 生地は乾いた笑いを送る。そして、生地は六科島について健からいろいろと聞いていた。直はその二人の様子を見て少し安堵したものの、冷やしたぬきうどんの味が少し薄く感じた。

「山井、彼にそんな食べさせて大丈夫か? このあと『シエスタイム』だろ?」

「そうだった。あまり食べすぎないようにしないと」

「し、『シエスタイム』って何?」

 健はその聞きなれない言葉に思わず、直に尋ねた。

「おひるねタイム」

「ひ……、昼寝? 学校で?」

 健は思わず目が点になる。その様子に生地は笑いながら答えた。

「そうそう。なんか集中力の向上に繋がるんだってさ」

「そんな効果があるんだねえ」

 そう言いつつも、健は頭の中が『???』でいっぱいのまま、冷やしたぬきそばを機械的に啜っていた。

「でも、すぐ寝たら太るんじゃないかな……。直くんも僕も少しお腹出てきちゃったみたいだ――いっ!」

 ふと背中からの痛みに苦悶する健を見て生地は心配そうに見つめる。健がその出所を確認すると、直が健の背中をつまんでいたのだった。直が大丈夫だからと答えると、生地は食器を片づけるために席を立つ。

「少しは口を慎みたまえよ?」

「なんか、スケちゃんに似てきたね」

「お前こそブンに似てきたな」


 その後、三人は教室に戻るとシエスタイムの準備に入る。直はロッカーからフカフカな枕を持って来ると、机の上に乗せる。

「どうしよう。そんな本格的に昼寝するなんて知らなかったから枕なんて持ってきてないよ……」

「いや、せいぜい三十分くらいだから気にしなくてもいいよ。ってか枕持って来るのはコイツくらいだし」

 健は胸を撫で下ろすが、直は少し不機嫌そうな顔をしていた。

「これがないと寝れないんだよ」

「はいはい」

 もうじき『シエスタイム』の時間が迫ってきたため、生地は自分の席に戻る。そしてチャイムが鳴り終わると、クラシック音楽が流れてくる。すると生徒たちはゆっくりと机に伏せながら、一時的に眠りの世界に入っていく。直もまわりの生徒と同じくすんなりと寝息を立てていった。ふかふかな枕の上で眠っているせいか、一番リラックスした顔になっていた。

 その一方で、健はなかなか眠ることができない。転校初日で少し疲れているはずなのに、かえって眠れなくなってしまった。

『どうしよう、少しでも眠りたいのに……』

 そう思いながら、健は頑張って目を瞑りながらどんな夢を見ようか考えていた。少しすると、健にも少しずつ眠気が現れ、だんだんウトウトしてくる感覚を覚える。

『ふぁあ……。もうたくさん寝ちゃいたいな……』

 そう思った瞬間、健も眠りについた。その物陰から何者かが視線を向けていたことには気づかぬままに。


 *


 健は気がつくと、かの魔法少年のような化け狸に変身していた。そして見覚えのある海岸に打ち上げられていた。そこは故郷の六科島の海岸だった。健はゆっくりと起き上がって辺りを見渡す。隣には、同じく変身していた直の姿が横たわっていた。健は内心焦るも、頬をつねってみる。

「……痛くないや。やっぱり夢の中だよね」

 そう呟きながら、今度は直の頬をつねり始めた。

「……何してんの?」

「痛い?」

「……痛くない」

 直はふてくされながらも起き上がる。すると直は、静かに健を取り押さえると、きつく締めあげていく。

「まったく夢の中までついてきやがって!」

「これは不可抗力だもん、仕方ないじゃん!」

 二人は、かの化け狸のごとくじゃれ合いながら、次第に技を互いに仕掛けていく。健は、持っていたパチンコ玉を直に向けて発射したり、直は、健の動きを留めたりと戦いさながらの行動をしていた。

「人の身体で遊ばないでよ!」

「危ないものを人に発射するな!」

 そして直は健を追いかける。しかしその二人の表情は、だんだん和らいでいくようだった。


「ツイニミツケタ……」


 突然、健の耳におどろおどろしい声が届いた。その瞬間、健は足を止めてしまう。直はそんなことを露知らず、動かなくなった健に飛び込んで捕まえた。

「さっきはよくも!」

 直はそう言いながら、またも健を取り押さえる。健がいきなり肩を震わせるなど様子がおかしいことに気づき声をかける。

「健、どうした……?」

「あ、あれ……」

 健が指さす方向に直は目を向けると、ブラックホールのようなものが見えていた。そしてエコーやらビブラートやらがかかったあの声が二人を恐怖へ堕としていく。


「ツイニミツケタ……。ユルサヌ……」


 その瞬間、レーザーのようなものが二人を目掛けて放たれていった――。



 *


 チャイムが喧騒のごとく鳴り響く。生徒たちは、その合図とともにむくりと起きだす。

「ふぁあ……。よく寝た、よく寝た」

 そう言いながら、直は後ろに振り向く。そこには、少し表情が険しくなっていた健の姿があった。

「……」

「健?」

 直は健の目の前で手を振ってみた。健はそれに気づくとハッとして直に返事した。

「あっ、ごめん。ちょっとうまく眠れなかったよ。ははは」

 健はそう言うと、次の授業のために教室を移動していった。

 そして、ようやく午後の授業や帰りのホームルームが終わると、クラスメイトたちは部活動やら委員会やらで教室を出ていく。直は健と一緒にそのまま下校していった。一緒に駅まで歩いていたが、直は思い立ってある話を切り出してみた。

「なあ、健」

「どうしたの?」

健の不思議そうな表情を見た直は、言葉を飲み込むことにした。

「……早く戻らないと、あの狸たちはうるさそうだな」

「そうだね」

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