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91【三匹のゴブリン】

 破壊された砦の門。力任せに正門を突破されて太い閂がへし折れ、二枚の扉が倒れていた。その扉を踏みしめながら三人の戦闘メイドが砦内に侵入する。それを三匹の異形ゴブリンが瓦礫の上から鬼畜な眼差しで見下ろしていた。


 その砦内にリビングアーマー部隊が雪崩込むと、雑魚ゴブリンたちと剣を交えて大混戦になっていく。


「「「キョォエエエエエエ!!!」」」


 三匹の異形なゴブリンたちが立ち尽くす瓦礫の陰から、数匹のゴブリンがメイドたちに向かって飛びかかった。


「雑魚は引っ込んでやがれ!!」


 ティグレスがスレッジハンマーの一振りでゴブリン一匹を打ち払う。横振りの一打でゴブリンの胸板を殴ると、数メートル先まで打ち飛ばした。


 さらに、二匹目のゴブリンはソフィアがガントレットを嵌めた拳で殴り飛ばす。拳に棘の付いた鉄拳がゴブリンの顔面を砕くと同時に、頭部ごと木っ端みじんに吹き飛ばした。汚い花火のように肉片が散る。


「ふっ、悍ましいですわ……」


 そして、最後の一匹はシアンがレイピアで素早く刻む。縦に三振り、横に四振り、おまけに左右の袈裟斬りが二往復。計九太刀の斬撃は、微塵切りのようにゴブリンを細かく刻んだ。


「ふぅ――」


 ゴブリンの肉片が周囲に散らばると、シアンは瓦礫の上でメイドたちを睨みつけている異形のゴブリンたちを睨み返した。大将レベルのゴブリンだろう。


 戦闘メイド三名と、異形ゴブリン三匹の間で火花が散る。


「アノ娘タチ、強イゾ」


「ソシテ、旨ソウダ」


「ソウダナ。食ベテヨシ。犯シテヨシダ」


「言ってくれるねぇ〜。ゴブリン風情が調子に乗るなよ。骨ごとミンチにしてやるぜ!」


「こんなところで時間を食ってる場合じゃあないわよ。もっと先に進んでコアを見つけ出さないといけないのだから」


「シアン、ティグレス。ここは私に任せてくれないかしら。二人は先に洞窟を攻略していてよ。あのゴブリンたちを折檻してやるわ」


 ソフィアが大きな拳の指関節をポキポキ鳴らしながら言うと、ティグレスが抗議する。


「おいおい、ソフィア。独り占めは良くないぞ!」


「それじゃあ、ティグレス。あなたも残りなさい。洞窟内の掃除はわたくし一人で済ませますわ」


 言うや否や、シアンが三匹のゴブリン目がけて走り出す。だが、攻撃をしないで三匹の頭上を飛び越えると、背後の洞窟を目指して走っていってしまう。


「行カセルカ!!」


 鎖分銅を回しながら振り返ったゴブリンが、分銅をシアンの背中に投擲しようとした刹那だった。ゴブリンの後頭部に殺気が突き刺さる。その殺気に反応して頭を下げると、その頭上をゴリラ鉄拳が猛スピードで過ぎていった。


「ウォォオオ!?」


「ちっ――」


 ゴリラフックを空振ったソフィアが舌打ちを溢した。


「ヌヌヌヌッ!!」


 地面を三回転しながら間合いを築く鎖鎌ゴブリン。そして、不意打ちをかけてきたメイドを睨みつける。


「クソ……」


「よそ見は禁物ですよ、ゴブリンさん」


「ギグギグギグッ!!」


「おらぁ! こっちも行くぜ!!」


 スレッジハンマーを頭よりも高く振りかぶりながら、ティグレスが大斧ゴブリンに殴りかかった。しかし、巨大な斧を盾に使われ防がれる。鉄槌と戦斧のぶつかり合い。周囲に耳障りな金属音が鳴り響いた。


「ナイス、パワーだぜ!!」


「ソチラコソ!!」


 パワー系の両者が鉄槌と戦斧を振り回し、ぶつけ合う。力と力の激しいぶつかり合いが繰り返された。鋼と鋼がぶつかり合うたびに金属音が木霊する。


「パワーは百点だな。だが私のほうは万点のパワーだぜ!!」


「ググゥ!!」


 力いっぱい振るわれたティグレスの鉄槌を、ゴブリンが戦斧で受け止める。しかしパワーに押され、一歩後退した。そこに隙を見出したティグレスが、メイド服のスカートをなびかせながらローキックを放つ。


「それっ!」


 その下段回し蹴りはやや不格好だったが、ゴブリンの太腿をとらえて体を揺るがせた。


「カァッ!」


 ゴブリンは痛みに顔を歪める。それはさらなる大きな隙を生み出した。


 ティグレスはそれを見逃さず、下から昇る軌道でスレッジハンマーを振り上げる。アッパーカットのような一撃が、ゴブリンの顎を打ち上げた。


「どうでぇ〜い!!」


 顎をかち割った感触にティグレスが微笑む。


「ブゥホォオオオオ!!!」


 口の中から折れた歯を吹き出すゴブリンが、よろめきながらのけぞった。そこに体を回転させながらスレッジハンマーを再び振りかぶったティグレスが追撃に出る。


「喰らえ、極楽ホームラン!!」


 横なぐりの一打がゴブリンの胸板を強打し、力任せに振り切られる。その一撃で吹き飛ばされたゴブリンは高々と舞い、瓦礫の向こうに落下して消えた。十メートルは飛んでいただろう。


「どうでえい。私の攻撃スキルは特大だろう!!」


「隙アリィ!!!」


 勝利のガッツポーズを決めていたティグレスに、十字槍を構えた別のゴブリンが突っ込んだ。槍先はティグレスの腹へと突き立てられる。それをティグレスは回避できなかった。十字槍を腹に受ける。


「ドウダ、糞女ガ!!」


「ふっ――」


 だが、槍の刃は彼女の分厚い腹筋で止められていた。皮膚すら貫けていない。メイド服に穴を開けた程度だった。


「バカ……ナ……」


 驚愕に震える槍ゴブリン。その隙を逃さず、ティグレスはスレッジハンマーを地面に置き、両手で十字槍を掴む。それはまるで万力で刃先を固定されたかのようだった。僅かにも動かない。


「ウ、動カナイ……!」


「お前さんは、非力だな〜」


 そう言って、ゴブリンの十字槍を掴んだティグレスが腕力だけで槍ごとゴブリンの体を持ち上げる。槍を脇の下に挟みながら持っていたゴブリンの両足が浮いた。そのまま天高くまで持ち上げられてしまう。


「ナナナナッ!?」


「頭から叩きつけてやる!」


 高さは2メートルはあっただろうか。その高さからゴブリンは、スープレックスのように後方へ投げ飛ばされる。


 顔から勢い良く地面に落下するゴブリンは、槍ごと叩きつけられた。顔面を地面に激突し、痙攣して動かなくなる。鼻が潰れて、顎が割れていた。大量の鮮血を流している。死んだかも知れないだろう。


「チョロい野郎だぜ!」


 愛用のスレッジハンマーを回収して立ち上がったティグレスは、仲間の様子を確認する。まだ瓦礫の上では、ソフィアと鎖鎌ゴブリンが戦っていた。その様子を黙って見守る。



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