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87【ゴブリン討伐の話し合い】

 一人、店外で佇むメイド長。両手をエプロンの前で組み重ねるシアンがクールな声色に述べる。


「冒険者なんて烏合の衆ですわ。我々ヴァンピール男爵様に仕える戦闘メイド十人衆のみで、ゴブリン風情は除去いたします」


 その台詞を聞いた暁の面々が、鋭い眼差しで威嚇するようにシアンを睨みつける。侮辱と受け取ったのだろう。青髪のメイドだけが、一人でアワアワと狼狽えていた。


 すると、倒れていたエペロングが立ち上がり、床に打ち付けた腰を擦りながら述べる。その口調は意外に穏やかでフレンドリーだった。


「ヴァンピール男爵に仕える戦闘メイドの話は、俺たち冒険者の間でも噂は広まっている。今のを見るからに、さぞかし戦闘力に自信があるのだろう。しかし、相手は百匹を超えるゴブリンの群れ。それだけの数をメイドだけで相手にできるのですか?」


 エペロングの話は御尤もな意見である。


 シアンは冷めた眼差しでエペロングを見詰めながら言う。


「我々の調査では、ゴブリンは森に砦を築いており、三百匹は居ると思われます。そして、砦の奥の洞窟に、おそらくジェネレーターコア水晶が湧いているのだと思われます。でなければ、短期間で三百匹を超えるゴブリンが出現するとは思えません」


「さ、三百匹……」


「そんなに湧いているのかよ……」


「それを知ってて、メイドの十人で対処しようと言ってるのか?」


 さも当たり前のように、シアンは述べる。


「討伐に当たるのは、戦闘メイド十人衆のうち五名のみ。それと包囲網にリビングアーマーを百騎ほど使います。それだけの戦力があれば十分でしょう。ゴブリンの壊滅は問題ありません」


 “リビングアーマー”という単語を聞いて、マージが口を挟んできた。


「リビングアーマーが百騎――。貴様らの戦力に傀儡使いがおるのかえ?」


 シアンは包み隠さず述べる。


「ヴァンピール男爵様はゴーレムマスターでもございます」


「なるほどのぉ。あの男爵は、バンパイアでありゴーレムマスターでもあるのかえ。まさに天才なのじゃな……」


『天才だなんて、そんなに凄いの。あの男爵は?』


「まず、禁呪であるバンパイア・トランスフォーメーションに成功しただけでも、天才中の天才じゃぞ。普通は土地狂ってモンスターの如く暴れ回るのがオチじゃわい」


『魔法使いの天才ってわけね』


 古城で面会した男爵は、やつれた優男といった感じだった。確かに体育会系というよりも文系だろう外見である。でも、そこまでの天才には見えなかった。しかし、バンパイアなのは確かだった。


『あの男がリビングアーマーを作ったのか……』


 境界線砦に並んでいた甲冑騎士の列を思い出す。あれらすべての傀儡を作ったのがヴァンピール男爵なのだろう。


「ですので、冒険者の方々はお帰りくださいませ」


 シアンが深々と頭を下げる。しかし、それで引くような冒険者たちではない。


「ちょっと待ってくれ。俺たちも任務で来たんだ。“お帰りください”と言われて安々と帰れるわけがないだろう!」


 すると語気を強めたシアンが怒鳴る。


「では、帰りやがれ!!」


「言い方を変えても帰らないよ!!」


「怒鳴っても駄目だからね〜!」


 眉をハの字にしたシアンが困ったように言った。


「では、どうしろと?」


「えっと、なに、ふざけてるの?」


「至って真面目です」


「嘘つけ!」


 そうは見えない。シアンは明らかに暁の面々をおちょくっているだろう。小馬鹿にしている。


『まあ、落ち着け、皆の衆。ここは間を取らないか』


「間と言いますと?」


『シアンさんも、別にゴブリン討伐の邪魔にならなければ、冒険者が居ても構わないだろう』


「はい、そうですが――」


『暁の面々も、ゴブリンが討伐されたのを確認できたら任務完了なのだろう』


「ああ、そうだが……」


『ならば、メイドたちでゴブリン討伐に向かって、暁の面々は村でゆっくりと吉報を待っていれば良いんじゃないか?』


「俺たち、そんなに楽してていいのかよ……?」


『構わないんじゃね。戦わなくっても済むなら、それで良くないか?』


「まあ、確かに……」


 その提案にシアンも乗っかった。


「我々は、それで構いません」


『よし、それで合意だな!』


「なんかいまいち納得できないが……」


『まあ、酒でも飲んで待ってればいいじゃあないか』


 酒という言葉を聞いて、暁の面々に歓喜の花が咲く。


「シロー殿、酒を振る舞ってくれるのか!?」


「ワシは日本酒が飲みたいのぉ~!」


『売ってやるぞ』


「くれ!」


『やだ!』


「「「「「ケチ!」」」」」


『ケチじゃない!!』


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