表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

77/263

72【ピエドゥラ村】

 ゲートマジックでバイクを異世界に持ち込んだ俺は、後ろにチルチルを乗せると暁の冒険団に言った。


『それじゃあ、俺たちは先に出発するからな』


「「「「「えっ!!」」」」」


 すべての騎獣たちが二日酔いで立てない暁の面々は、俺の言葉を聞くと眼球を飛び出させながら驚いていた。


「マジで先に行くのかよ!」


『行くよ』


「ブラン殿は、どうするのだ!?」


 ブランは柔軟体操で足腰の腱をほぐしながら、平然と言ってのける。


「当然、走りまスだ!」


「マジか、こいつ!?」


「シロー殿の鉄騎獣は、普通の騎獣と同じ速度で走れるのだぞ。置いていかれるに決まっておろうが!!」


 それを聞いてもブランは平然と笑顔で言ってのける。


「大丈夫だス。わたスは、野生の騎獣を走って捕まえられまスだ。そのぐらいには足に自信がありまスだ」


「そんな、アホな……」


「でも、何キロも走る体力がないだろう?」


「それも大丈夫だス。昔っからアン・ファス村からパリオンまで、走って買い物に行ってたんだス」


「おいおい、待て待て。アン・ファス村からパリオンまで、騎獣でも一日はかかる距離だぞ……」


「わたスは、半日で到着できまスだ」


「嘘つけ!」


「嘘じゃあないだス。本当だス!」


「こいつ、体力の化け物なのか……」


「腹筋が、バッキバキに割れているわけね……」


「か、怪物かよ……」


『そんなわけだから、俺らは先に行くわ。たぶん、お前たちの騎獣が回復したら追いつかれるだろうから、そのときに合流しようや』


「わ、分かった……。先に進んで追いつくのを待っててくれ……」


『よ〜し、出発だ〜』


 こうして俺たちは、ヴォワザン村を先に旅立った。俺がチルチルを後ろに乗せてバイクで走る背後を、ブランが走って追ってくる。


 ブランの走る速度は、俺が思っていたよりも速かった。バイクのスピードメーターで見るからに時速20キロ近くは出ている。


 時速20キロで走る速度がどのぐらい速いかと例えるならば、箱根駅伝で走るランナーの速度がそのぐらいだ。


 しかも、俺たちが走っている街道は、舗装されていない生土の道である。もしもこの道が舗装されて走りやすかったら、ブランは箱根駅伝のトップランナーレベルの時速22キロの速度で走れたかもしれない。


 俺も一日で30キロぐらいの道のりを、時速15キロくらいの速さで走れるが、この速度では走りきれないだろう。軽量系のブランらしいと言えると思う。


『これは、マジで素晴らしい原石を掘り当てたかもしれんな……』


 これから弟子の成長が楽しみだった。どのような危険な技を、どのように厳しく教えようかワクワクしてくる。


 そんなこんなで、俺たちは一日に八時間走って160キロぐらいの距離を目指して旅をした。その間に、暁の冒険団が追いついてくることはなかった。そしてそのまま二日を過ぎ、目的地であるフラン・モンターニュのピエドゥラの村に到着してしまう。


「暁の方々は、結局追いついて来ませんでしたね……」


『そうだな。ブランの足が、思っていた以上に速かったんだよ』


「ハァハァ。良い運動になりまスた!」


「化け物ですね……」


『可愛いやつではないか』


「むぅ〜〜……」


 俺の言葉になぜかチルチルが膨れ上がる。何か悪いことでも言ったかな……。


『さて、とりあえず、当主のヴァンピール男爵殿に挨拶に出向きますか。マリマリの紹介で、家を貸してくれる段取りになっているはずだからさ』


「はい、シロー様」


 フラン・モンターニュ近隣のピエドゥラ村。そこは平原に麦畑が広がる片田舎だった。麦畑と麦畑の間に茅葺き屋根の家が何軒か見えた。その奥にフラン・モンターニュが聳えて見える。そこから小川が村の中央を割るように流れてきていた。


 おそらく、あまり人口が多い村ではないだろう。所々に大岩などが突き出し、畑を邪魔している。森もけっこう邪魔そうだ。それらが土地を不便にしているのが一目で分かった。この村が、町まで繁栄しない理由は、その辺にあるのだろう。


 そして、少し高台の丘の上に小城が見えた。周りは堀のように水辺になっている。たぶんあれが当主ヴァンピール男爵の城だろう。


『それにしても、なんだか不気味な古城だな……』


「お化けが出そうですね……」


『チルチルは、お化けを信じるタイプなんだ〜』


「シロー様がお化けですよ……」 


『そうだった。俺はスケルトンだったんだ。忘れてたぜ……』


 俺はバイクをゲートマジックで実家に返すと、歩いて男爵の城を目指した。三人で麦畑の間を進む。


 その途中、数人の村人たちの姿を見かける。そして、気付いたことがあった。それは、村人の全員が獣人だったのだ。耳や尻尾を生やしている。中には完全に獣の頭まで変化している者もいた。


 畑に見える村人を眺めながら歩く俺は、隣のチルチルに言った。


『どうやらこの村は、獣人が多い村らしいな――』


「ヴァンピール男爵は、獣人に寛大な貴族様だと聞いたことがあります。その影響でしょう」


 村の景色を眺めながら俺は、これならばチルチルも少しは過ごしやすいだろうと思った。


 チルチルと話している俺の後ろに続くブランが訊いてきた。


「スロー様は、この村でお店を開店させる予定なのでスよね?」


『ああ。だから二人には店員としても働いてもらうからな』


「それは構わないのでスが、わたス、読み書きも計算もできませんだ……」


『それは勉強してもらう。仕事の合間にチルチルに習いなさい』


「はいだス」


『済まないが、チルチルもブランに勉強を教えてやってくれないか』


「畏まりました。しかし、条件があります」


『なんだ?』


「彼女には、先輩への絶対的な服従を誓ってもらいたいです。もしも彼女が暴力に訴えてきたら、私では何もできませんから」


『分かった。それはブランにも約束させよう。――ゴホン』


 俺は咳払いをしてから真面目な口調でブランに言った。


『いいか、ブラン。チルチルの言葉は、先輩であり、先生の言葉として、俺の言葉だと思って従うんだ。俺の言葉が一番で、チルチルの言葉が二番目に優先されるからな。もし破ったら、三食飯抜きで地下室に監禁だからな』


「は、はいだス!」


 この数日でブランが一番恐れることが分かってきていた。それは、飯抜きと監禁である。


 彼女の幼少期に、それらを体罰として受けていたのだろう。飯抜きと監禁をトラウマのように恐れていた。相当、非常な両親だったのだと思われる。


 だから彼女は、飯抜きと監禁を話に出されると大人しくなってしまうのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ