69【どうする?】
狂気的なウェイトレスをノックダウンした俺は、ゲートマジックで実家に戻ると、恵比寿の能面を取って顔に被り、異世界にすぐ戻る。
そして、酒場の中央にある大黒柱に気絶しているウェイトレスを縛り付けた俺は、裏口前で倒れていた女将さんの縄を解き、店内まで腕を貸して椅子に座らせた。
俺に助けられた女将さんは、頭がクラクラするのか顔をしかめていた。一人で歩けない様子である。
「す、すまないね、お客さん……」
『大丈夫かい、女将さん?』
「ああ、大丈夫だよ……。すまないが、お客さん、亭主が地下倉庫に閉じ込められているから、助けてもらえませんかね……」
『分かった。ちょっと見てくる』
気絶しているウェイトレスを横目でチラチラと見ながら警戒する女将さんが、カウンターの横にあるもう一つの入口を指差した。俺はその扉を開け、地下室に向かう階段を下りる。
どうやら女将さんは、俺の素顔を見たことを忘れているようだ。髑髏の素顔が衝撃すぎて夢だと思っているのだろうか。そうだったら有り難い。
『お~~い、亭主はいるか~?』
俺は薄暗い地下への階段を下る。
そして、階段を下りきると、女将さん同様に縄で縛られ、猿轡をされた亭主を闇の中に見つける。俺は暗視スキルで闇が見渡せるのだ。
俺は、すぐさま亭主に駆け寄って助け出す。
「んーんんんーーんー!!」
『お、まだ生きてたか。今助けてやるぞ』
「ん~ん~ん~!!」
『騒ぐな。今、縄を解くって言ってるだろ!』
俺が亭主を地下倉庫から連れ出して酒場に戻ると、夫婦は抱き合い、大声を上げて泣き出した。相当怖かったのだろう。
「あ~ん~た~、無事だったのかい~!!」
「ちょっと、ちびっちまったよ~!!」
『うわ~。俺のズボンまで濡れてるよ……』
まあ、気持ちは分からんでもない。サイコパスな従業員に縛り上げられ、地下室に監禁されたら、死の恐怖を感じてもおかしくないだろう。そりゃあ、ちびるよね。
「シロー様、無事ですか!!」
『チルチル、お帰り』
そんなこんなしていると、チルチルが暁の面々を連れて酒場に帰ってきた。皆が血相を変えて状況説明しろと言ってくる。なので俺は、今起きたことを全員に説明した。
柱に縛り付けられているウェイトレスを見下ろしながら、バンディが述べた。
「こいつが騎獣を酔わせた犯人なのか。しかも、酒場の夫婦を監禁してしまうとは……」
「頭がおかしいのじゃろ。サイコパスという奴じゃわい」
すると消火剤で白く染まったウェイトレスの姿を見下ろしながらエペロングが問う。
「ところで、何故にこいつは真っ白なんだ?」
『俺の目眩まし攻撃で白くなっただけだ。燃え尽きて白くなったわけではないぞ』
「どんな攻撃で、ここまで白くなるんだよ……?」
ティルールが気絶しているウェイトレスの顔を覗き込みながら俺に問う。
「ところでさ~。どうするの、シロー殿。この娘を役所に突き出すのかい?」
『ん~、そうだな~。フランスル王国の法律だと、こいつを役所に突き出したらどうなる?』
マージが適当に答える。
「死刑じゃな。良くて国外追放か、投獄だろうさ」
『死刑は難儀な話だな……。誰も殺していないんだから大目に見れないのか?』
「それは、ワシらが決めることてはなきぞ。役人が決めることじゃ」
『んん~。チルチルはどう思う?』
「流石に死刑は可哀想かと……」
『だよね~。チルチルは慈悲深い良い子だね~。可愛い可愛い~』
俺がチルチルの頭を撫でていると、エペロングが白い目で見ながら言う。
「本当にシロー殿は、チルチルちゃんに甘いよな……」
エペロングの言葉にティルールが共感する。
「あ~、それ、あたいも思ってたわ~。もしかして、シロー殿はロリコンじゃないの~?」
その言葉を聞いたエペロングが頷いた。
「あ~、なるほどね~……」
勝手に納得するエペロングの頭に、俺は手刀を落とす。
「いでぇ!」
『誰がロリコンだ。俺は巨乳派だ!』
「ならば、ワシの乳が好みなんじゃな!」
言いながらはしゃぐマージが、俺の腕に抱きついてきた。豊満な両胸で俺の腕を挟み込む。
「どうじゃ~、ほれほれほれ~」
『あったか~~い』
俺が胸の谷間の温もりにデレデレしていると、チルチルが冷たい眼差しで俺の仮面を見上げてくる。完全に軽蔑の眼差しだった。
俺は慌ててマージの腕を振りほどくと、チルチルに言い訳を並べる。
『いや、これは違うんだ。俺が望んだことじゃなくて、マージが勝手に抱きついてきただけでね!』
「シロー様、最低……」
そう言ってチルチルは頬を膨らませて、プイッとそっぽを向いてしまう。完全に怒っている。
ここでバンディが話を戻した。
「そんなことよりも、このウェイトレスをどうするんだよ?」
『一番被害を受けた、酒場の夫婦はどうしたいんだ?』
俺が酒場の夫婦に問いかけると、カウンターの中に隠れていた夫婦が声を震わせながら言った。
「首でいいから出ていってくれ、二度と戻ってこないなら役所に突き出さないから。とにかく二度と戻ってこないでもらいたい!」
『なるほどね~』
仮面の顎を撫でながら、夫婦に問う。
『ならば、俺がもらって行っても構わないか?』
「「どうぞどうぞ!!」」
夫婦は揃って両手を突き出して、俺に持ち帰ってくれと懇願していた。
「シロー様、どういうことですか?」
まだ冷たい眼差しのチルチルが、俺に問いかけてくる。
「このような娘を預かってどうするつもりですか。もしかして、夜な夜な淫らなことを強要するおつもりですか?」
『俺がそんなことをしないのは、チルチルが一番よく知ってるだろ……』
「チルチルは、何も知りません!」
またチルチルがプイッとそっぽを向いてしまう。
なんだか話がややこしい方向に進んでしまっている。もう、厄介だな~。畜生が~。




