64【白い憧れ】
わたスの名前はブラン・ノワ。酒場で働く十七歳の女の子。
わたスの仕事は、早朝から宿屋の貸部屋清掃から始まって、昼は酒場でウエイトレス業務。夜もこりずにウエイトレスの毎日なの。
ウエイトレス中は酔っ払ったクソ親父どもにお尻を触られながらお酒を運ぶ毎日だけど、いつか白馬にまたがった王子様が迎えに来てくれるって信じているの。
飲んだくれで働かないお父さんも、浮気スて家を飛び出して行ったお母さんも言っていたわ。
「どこの世界にお前のようなサイコパス娘を迎えに来るような頭のおかしい王子様がいるって言うんだ」って――。
それにしても、サイコパスってなんだろう?
わたスは学校に行ったこともないス、字も読めないから、サイコパスってなんだか分からないのよね。
さらにお父さんは、わたスを罵っていたわ。
「ふざけたことを言ってねぇで、金を稼いで来い。最近、稼ぎが少ねえぞ。遊んでないで働け!」
父は昔から厳スい人だった。だからわたスは実家を飛び出スて隣町まで逃げてきたの。だって、叩かれたくないもの。
そして、やっと働き先を見つけたわ。以前と同じ職種で酒場の仕事よ。
ここでわたスは以前と変わらない感じで仕事に励んでいるの。ただただ文句も言わずに頑張っているわ。
でも、以前とは違うわ。なぜなら、もうお父さんにお金を差ス出さなくてもいいから。殴られることもなくなったから。
だから今は幸せなの。
自分で稼いだお金で好きな物を食べる。着たい服を着る。遊びたいことをする。男性と話しても怒られない。まさに天国よ。
だからわたスは働くの。頑張るの。
そして、将来的には白馬に乗った王子様をゲットスて幸せにお城で過ごすのよ。
「ほら、ノワ。早く空き室の掃除をしてきなさいな。働かないと昼ご飯の賄は抜きになるよ!」
「は〜〜い」
また女将さんに怒られたわ。女将さんは短気だから困ったものよね。もっとゆったりと構えてもらいたいものよ。
でも、白馬の王子様が迎えに来てくれなかったら、この宿屋を乗っ取るの。
親方をこっそりと殺スて、女将さんは地下室に閉じ込めようかスら。
それで、飲んだくれのお客たちには毒を盛って、意識を失ったところで財布からお金をちょろまかすの。
ちょっとずつ抜けば、絶対にバレないわ。もスもバレたら井戸に落として証拠隠滅よ。それで完全犯罪成立なんだから。バッチリよね。
「ほら、ノワ。早く部屋の掃除をしてきなさい。何度言わせるの!」
「はいはい〜〜い」
「はいは一度!」
「はいはいは〜〜い」
「もう、この子ったら……」
女将さんがうるさいので、わたスは掃除をすることにスた。二階に上がって一つ一つ空き部屋を掃除する。
そスて、頑張って掃除に励んでいた私は、うっかりと間違えてお客さんがいる部屋に飛び込んだ。
すると、ベッドの上に座っていた女の子と目が合った。
「あっ」
「んん?」
ブルーの瞳の女の子。たぶん十歳ぐらいの女の子だった。わたスを見て、小首を可愛らスく傾げている。
スかス、彼女の身なりは普通じゃなかった。獣人だったのだ。スかも、メイド服。夕暮れに店の前でであった女の子だ。頭のてっぺんに獣の耳が生えている。
そんなことよりも、彼女は白髪だった。肩まで長い髪は純白。幼い柔肌も白くて美スい。まるで純白のお人形さんのようだった。
獣人――。わたスと同じ獣人だわ。
でも、ピンク色の私の髪より白髪のほうが美スい。純白のほうが美スいわ。
「あ、ああ……」
わたスは見惚れてスまった。
だが、次の瞬間に別の純白が目に入った。
それは、部屋の奥に立っていた。
「っ!!???」
『あっ……』
それは白い異国の洋服をまとい、立ち尽くスていた。
何より不思議なのは、それは頭が骸骨だった。白くて純白で、美スい白だった。
わたスは彼を見て、思った。
白馬に乗った王子様じゃなくて、王子様が白かったのだ。純白の王子様だったのだ。
白い骨骼は、まるで美術品そのものである。これ程までに美スい骨は見たことがない。
何度も何度も村の墓を掘り返スて人骨を眺めたが、ここまで白くて美スい骨は初めて見る。
『いや、これは!』
王子様は慌てて仮面を被る。白い素顔を黒い仮面で隠スてスまった。
スかス、わたスは冷静に物事を思考する。
「な、なんでスケルトンが!」
わたスは部屋を飛び出ス、一階に降りる。そスて、カウンターで洗い物に励んでいた女将さんに言った。
「女将さん、スケルトンが!」
女将さんは呆れながらため息を吐くと、わたスに次の仕事の指示を出す。
「部屋の掃除が終わったんなら、表の掃除でもしてきなさい。この子は本当に気が利かない子なんだから……」
「は、はい……」
わたスはしょぼくれながら表に出る。
せっかく見つけた純白の王子様だと思ったのに……。
あれは幻覚だったのかスら……。
わたス、また、お医者さんに診てもらわないとダメなのかスら……。
「純白は美スいのに……」
あの王子様も獣人も白かったのだ。美スかった。これが幻じゃないことをわたスは祈った。
美スい、美スい、舐めたい、しゃぶりたい、咥えたい。
あ〜、骨骨骨〜。あんなに白い骨………。
白、白白 白白白、純白――。




