62【バイク】
フランスル王国、首都パリオンとサン・モンの町の中間にあるフラン・モンターニュの麓にあるピエドゥラの村に向かうために俺とチルチル、それに暁の冒険団の面々は旅の支度を行っていた。
俺とチルチルは離れの前で旅の荷物を確認している。その横でバンディ、プレートル、マージの三人が騎獣の手綱や鞍の調子をチェックしていた。
今はエペロングとティルールの二人が町に食品を買いに行っている。
何せ今回の旅は、同じ方向に旅立つと言う理由だけでの同行だ。だから食事は別々である。
それに関しては暁の面々からはブーイングが飛んできていたが、そんなの知らん。何故に俺がこいつらの食事まで用意しなければならないのかが分からない。
しかも、金を要求したら「負けて」の一点張りである。そんな奴らに何故に俺が飯を振る舞わなくてはならないのかが理解不能だった。図々しいにも程がある。
だからこいつらには負けたくない。特にこいつらには絶対に負けたくないのだ。とにかく敗北は許されない。
「さてと――」
俺は荷物を積んだバイクを押してゲートマジックをくぐる。
現在ゲートマジックは現実世界の自宅横の倉庫に繋いである。
燻銀ゴブリンに勝利。それにコメルス商会との取り引きを終えて、俺はレベルが二つ上がってレベル7になっていた。
これで消費ポイントの貯蓄が11点になっていたので、ゲートマジックのレベルを二つ上げたのだ。
ゲートマジックをレベル2に上げると現実世界でのゲートマジックの発生場所を変えられるようになった。以前は茶の間に固定されていたのだが、それが別の場所に出せるようになったのだ。
そして、さらにレベル3に上げると、ゲートマジックの大きさが少し広くなった。扉が大きくなったのだ。それでバイクを異世界に持ち込んだのである。
レベル2だと、若干ながらハンドルが引っ掛かって通れなかったのだ。それが今はスムーズに通れる。
最初は車を持ち込もうかと考えたが、それは無理だった。車を持ち込めるほどにゲートマジックを広げるには、もっとレベルアップガ必要そうだからだ。
今現在では軽自動車すら無理である。バイクが限界だった。
『お待たせ〜』
「シロー様、それは?」
俺が待ち帰ったバイクを見てチルチルが質問してきた。自転車すら見たことがないのだ、二輪のバイクを見ても、それが何かすら想像できないのだろう。
250ccのオフロードバイク。以前、何となくオフロードで格好良く走ってみたいと思って買ったバイクだが、すぐに飽きて倉庫の肥しになっていた物である。中古バイク屋に売ろうかと思っていたが、面倒くさくて忘れていたのだ。
それがまさか日の目を見る日が来るとは思わなんだ。しかも、まだエンジンも掛かるしバッテリーも上がっていなかった。少し走らせてみたが調子も悪くない。
『これはバイクと言う乗り物だ。機械の騎獣って感じかな』
「機械の騎獣……?」
チルチルが可愛らしく小首を傾げた。その背後で暁の面々も首を傾げている。
『まあ、ちょっと見ていろ』
そう述べると、ヘルメットを被った俺はバイクに跨った。キーを回してエンジンを掛ける。するとその爆音に見ている者たちが身を引いて驚いていた。
「うわっ!!」
「な、なんだ、この音は!?」
初めて聞くバイクのエンジン音に皆が度肝を抜かれていた。俺がアクセルを蒸すと、さらに驚く。
「う、五月蝿い!!」
「獣の咆哮か!!」
『じゃあ、ちょっと走らせてくるね〜』
そう言うと俺はバイクで敷地から飛び出した。離れの周りをバイクでグルグルと回って見せる。
「なんじゃ、あれは!?」
「騎獣より動きが速くないか!?」
「なんか、格好いい!!」
俺が離れ前に戻ってくると面々が俺を取り囲むように集まって来た。そこから質問攻めがはじまる。
「この子は、なんて名前の騎獣なんだ!?」
『バイク族のオフロードかな〜』
「こいつ、何を食べるんだ!?」
『ガソリン』
「この丸いのが頭か!?」
『それはヘッドライトだ。光るぞ』
「うわ、光った!!」
「なんでこいつは尻から煙を吐いてんだ!?」
『それはオナラだ。走るときに漏れるんだよ』
「ユルユルの尻じゃな……」
「こいつは、いくらぐらいするんだ?」
『んん〜……』
悩ましい質問だった。それは、バイクなんて売って良いのだろうかと言う疑問からである。
まあ、売ってもガソリンが異世界では手に入らないから、いっそ無理な金額でも提示しておけばいいかな。異世界人では、バイクを維持できないはず。
『そうだな〜。大銀貨五百枚ぐらいかな〜』
「「「「大金額五百枚!!!」」」」
全員が絶叫した。そりゃあそうだろう。目玉が飛びてるほどの高額だからだ。冒険者では、一発ドデカイお宝でも当てない限り無理な金額である。




