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57【モノリス】

 俺とチルチルが首都パリオンからフラン・モンターニュのピエドゥラの村に旅立つ前日の話である。


 俺たち二人は郊外のコメルス邸に招かれていた。母のマリマリが娘のチルチルをお茶に誘ったのである。


 壁外のコメルス邸は、麦畑と葡萄園に挟まれた屋敷である。その敷地は野球場がすっぽりと入るほどの広さで、四階建ての豪華な建物が建っていた。敷地の広さだけで金持ちだと分かるほどだった。


 俺は二階の客間の窓から広い庭先を見下ろしていた。薔薇園に囲まれた庭にはガゼボが建てられ、中にはお茶を楽しめるように白い丸テーブルと白い椅子が用意されている。


 ガゼボにいるのはチルチルとマリマリの親子と、それに執事の爺さんとメイド長の婆さんだけである。全員がコメルスの関係者だ。


 なんでも旅立つ前に親子で話しておきたいことがあるらしく、俺は遠慮してくれとのことだった。


 そのような訳で俺は仲間はずれにされたのだ。


 ちょっぴり寂しい……。


 二階の窓から見る親子の会話は、淡々としている。どちらも笑顔をこぼさない。無表情で何かを話していた。


 まあ、母親のマリマリは冷徹な女性のようだから仕方ないのかもしれない。


 しかし、普通の感情を持ち合わせているチルチルまで笑わないのは不思議だった。もしかしたら、あの親子はいつもああなのかもしれない。


 それも仕方がないのかも――。


 何せ、家族関係なんぞ、家庭によっていろいろあるだろう。他人の俺が、他人の家庭環境をとやかく言う権限はない。


『チルチル……大丈夫かな……』


 トントンっと背後の扉がノックされた。若い執事が布に巻かれた薄い板状の物を持って客間に入ってくる。


「シロー様、こちらが拝見したいとおっしゃっていましたモノリスでございます」


『おお、それがモノリスなのですね!』


 執事は布をめくると、中身をテーブルに置いた。それは黒い板状の物体。サイズは12インチのタブレットぐらいだった。


 モノリスとは、この異世界で作られたマジックアイテムらしく、各人物のステータスを映し出す物品らしい。


 そして、高価な一品らしく、その値段は大金貨五枚と高額だ。金持ちしか所有できないアイテムだろう。


 そのアイテムをコメルス商会で所有していると聞いたので、見せてもらえないかと頼んだのである。


 テーブルに置かれたモノリスを見下ろしながら俺が問う。


『モノリスとは、どのように使うのですか、ジュンヌ殿?』


「モノリスの表面に手をかざして、ステータスを映し出すように念じれば良いのです」


『早速、試してみても宜しいですか?』


「どうぞ――」


 俺は軍手をはめた手を黒い板の上に乗せると、ステータスを映すように念じてみた。しかし、待てど暮らせど何も起きない。黒板は黒いまま沈黙している。


『…………』


「……あれ〜?」


 二人の間に沈黙が流れた。窓の外から小鳥のさえずりが虚しく聞こえてくる。


『ジュンヌ殿、何も起きませんぞ……』


「……ああ、たぶん手袋が妨げになってますね。素手でお願いします」


 俺は軍手を外して素手を彼に見せた。


『骨しかありませんが、大丈夫でしょうかね?』


 スケルトンジョークである。


「どぉ〜でぇしょう……。とりあえず、試してみてください」


『はい……』


 俺は骨だけの手をモノリスに乗せる。すると、一瞬だけ黒板が光り、文字が浮かび上がってきた。


「おお、成功のようですな。骨だけでもイケますね!」


『それじゃあ、俺のステータスは、どんなかな〜』


 自分のステータスは知っている。何せ、ウロボロスの書物に表示されているからだ。


 しかし、この異世界にも人々のステータスを映し出すマジックアイテムがあると聞き、どれだけの差があるのか知りたくなったのだ。


 ウロボロスとモノリス。どちらが高性能なのか知りたかっただけである。


 そして、モノリスに映し出される俺のステータス―――。


【名前】シロー・シカバ

【種族】オーバーロード

【筋力】10

【耐久】9

【敏捷】9

【器用】8

【知力】2

【魔力】6

【信仰】5

【幸運】5

【魅力】5

【体力】∞

【精神】7


 これが、モノリスが映す俺のステータスだった。


 それは、ウロボロスの書物が示す俺のステータスとは若干ながら違っていた。だが、良くも悪くも似ている。


 まず、名前がフルネームで記載されている。ウロボロスの書物は名前だけだった。


 それに種族がアンデッドではなく、オーバーロードとなっている。モノリスのほうは、なんとも物騒な名前だった。個人的にはやめてもらいたい違いである。


 そして、レベルと職業の表示がなかった。しかし、その他のステータス欄はそのまま同じである。


 最後にスキルや魔法の表示なのだが、それはまったくなかった。そこが明らかに違う点だ。


 これでは、明白なぐらいウロボロスの書物とモノリスでは類似点が多い。おそらく、創造者が同じ可能性があると思った。


 もしかしたら、モノリスの制作にゴールド商会が絡んでいるのではないかと予想する。


「こ、これは凄いステータスですね……」


『そうなのか?』


 俺のステータス値を見たジュンヌが目を剥いて驚いていた。声が震えている。


「だいたい成人男性の平均値が5だと言われていますが、知力以外はすべて5を超えていますよ。何より体力の∞ってなんですか!?」


『ち、知力には触れないで……』


「それに種族オーバーロードって、なんですか!?」


『それは私も聞いてみたいところですよ……』


 本当にオーバーロードってなんだろう?


 あとで現代に戻ったらスマホで調べてみないとならないな……。単語の意味だけでも知っておきたい。




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