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55【結果オーライ】

「ですが――」


 マリマリは煎餅を皿に戻し、鋭い眼差しで俺を見据えた。さっきまでの柔和な雰囲気は消え、商人としての冷徹な表情に変わっている。こういう顔を持つ女は侮れない。


「あなたの話は、まこと興味深いですわ。しかし、それだけでは終わらないのでしょう?」


『……どういう意味ですか?』


「あなたが持つ塩は、確かにこの国では貴重な品。そして、金塊は、あなたの国では貴重品。しかし、何年もかけてドラゴンで旅をしながら、貴方が金を集める理由が、まだ見えてきませんの」


 鋭い。やはり只者じゃない。ただ欲しいからでは、許してもらえないらしい。


『私の祖国では、金はただの富の象徴ではありません』


「では何なのです?」


『――命です』


 俺の言葉に、部屋の空気がピンと張り詰めた。チルチルは不安そうに俺を見つめている。


『我が国には黄金の契約という掟があります』


 そんな物は無い……。


『私は、この体を維持するのに、一定量の黄金を捧げなければ、命を失うのです』


 それは本当である。


「命を……失う?」


『私はこの異国にたどり着き、金を集めなければなりません。さもなくば、私の存在そのものが消滅するのです。貴方がたも食事は取るでしょう。それが、私にとって金なのです』


 マリマリは息を呑み、二人の執事も硬直している。


「なるほど、それで塩を対価に金を求める商売を始めた、と」


『その通りです。あなた方のような目利きに理解してもらえるなら、私としては幸いですね』


 マリマリはしばらく目を閉じて考え込んだ。そして、ゆっくりと目を開き、静かに口を開いた。


「……シロー殿。一つお聞きしてもよろしいかしら?」


『どうぞ』


「あなた、私の娘を娶る気は本当にございませんの?」


『えっ!?』


 話の流れが急に戻ってきやがった。思わず目を丸くする俺を見て、マリマリはクスクスと笑う。初めて微笑みを見た。


「冗談ですわ。でも、あなたの秘密を知ったからには、何かしらの形で協力を申し出ないわけにはいきませんわね」


『協力、ですか?』


「ええ。あなたの商売、お手伝いさせていただきます。条件は一つ――私の娘を悲しませないこと、これだけですわ。それと、コメルス商会へ、定期的に荷を降ろすこと」


 一つじゃない。二つだ……。


 俺は驚いた。てっきり脅されるか、何か裏をかかれると思っていたのに。それが商売の契約だったのだ。


 まあ、結婚の方は断る。


『……いいんですか。俺のような得体の知れない存在と手を組むなんて』


「得体が知れないからこそ、興味が湧きますのよ。あなたが本当に信用できるかどうかは、これから見極めますけれどね」


 マリマリは涼やかに言ってのけた。その姿に、俺は内心で舌を巻く。やはりこの女、相当な切れ者だ。


『わかりました。では、改めて――よろしくお願いします、マリマリさん』


「こちらこそ、シロー殿」


 俺とマリマリは、固く握手を交わした。チルチルは満面の笑みでこちらを見ている。


 さて、これで商売の道筋はできた。あとは俺の腕次第だな――。


 本当は、親子の再会が目的だった訪問だが、結局俺の商売の話になってしまった。


 しかし、話し合いは上手く進んだ。結果オーライである。



 ちなみに、今日の儲け。


 電卓×五個、大銀貨三十五枚=35000ゼニル。

 鉛筆×二十五本、大銅貨百七十五枚=1750ゼニル。

 消しゴム×五個、大銅貨三十五枚=350ゼニル。

 ボールペン×十本、小銀貨七十枚=7000ゼニル。

 塩500グラム一袋、小銀貨三十七枚=3700ゼニル。

 胡椒15グラム一瓶、小銀貨十五枚=1500ゼニル。


 合計49300ゼニル、約小金貨五枚分の儲けでした。


 ……に、しても。数字ばかりで頭が痛くなる。脳筋の俺には難しすぎるよ。




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