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54【シローの正体】

 冷たい眼差しのまま巫山戯たことを言い出すマリマリ。それにチルチルまで乗っかってやがる。


 どうやら、この母親は娘と俺をくっつけたいらしい。しかも、チルチルのほうも満更ではないようだ。


 しかし、俺はキッパリと断った。


『すみません、私では娘さんをもらえません……』


「何故ですの?」


 俺はチラリと後方に立つ二人の執事に目をやった。それにマリマリが気付く。


「シロー殿、安心してください。彼らは私に忠義を誓っています。ここで話したことは、他言無用が守られますわ」


 俺が何か言い難いことを語ろうとしているのに気付いてくれたようだ。本当に察しの良いマダムである。


『はぁ〜……』


 俺は溜め息を吐いてから話し出す。


『私の祖国は、遥か東の隅にある小国です』


「お国の名前は?」


『太陽の国と呼ばれています』


 日の国――日本。だから太陽の国。なんちゃって。


「失礼ながら、聞いたことがない国ですわ」


『小さな島国ですからな。それに、フランスル王国からは、鉄のドラゴンに跨り何年も飛ばなければ辿り着けない距離に在ります』


「あなたは、ドラゴンに乗って旅してきたのですか?」


『片道切符の鉄の飛竜です。既にドラゴンは国に戻りました』


「信じ難い話ですわね。だとするならば、あなたはどうやって品物を国から仕入れているのですか?」


『我が祖国で開発されたゲートマジックです』


「ゲートマジック?」


『祖国と私の間を繋ぐ次元のトンネルですね。それを使うと一瞬で祖国と行き来ができます。証拠をお見せしましょう。――ゲートマジック!』


 すると客間に扉が現れる。しかし、やはりながら俺以外には扉が見えていない様子だった。


 マリマリは目を凝らしながら後の執事に問う。


「ヴィエヤール、何か見えまして?」


 奥方の質問に老執事が答える。


「何も見えませぬが、何か魔力の壁を感じます」


 この老紳士、どうやら魔力だけは感じ取っているようだ。


『それでは、少しお待ちください』


 俺はソファーから立ち上がると扉をくぐる。そして、実家の台所から煎餅が盛られた木の皿を持って異世界に戻った。


『ただいま〜。これ、お土産です』


 俺は客間に戻るとテーブルに煎餅盛りの皿を置いた。マリマリや執事たちは驚いている。彼らには、俺が一度消えたように見えていたはずだ。


『これは、我が国の茶菓子で、煎餅と申します。お一つどうぞ』


「………」


 マリマリは煎餅に手を伸ばすのを躊躇っている。するとチルチルが言った。


「お母様、毒なんて盛られていませんわ。安心してください。それに美味しいですよ」


 その言葉を聞いてマリマリは煎餅を一枚手に取った。まずは匂いを嗅いでいる。


「甘くない、硬くて塩っぱいお菓子です。硬かったら紅茶と一緒に頂いてください。私も好物ですわ」


 チルチルがニコリと微笑んだ。それを見てからマリマリが煎餅に齧りつく。ボリボリと音を立てないようにお上品に食べていた。


「これは、なかなか美味しいですわね」


『私も好物ですから』


「まあ、分かりました。あなたは、そのゲートマジックで国と国を行き来しているのですね」


『ただし、このゲートマジックには、大きな欠点があります……』


「欠点とは?」


『生きた者が、このゲートをくぐることができないのです』


「なるほど。我々は、そのゲートマジックをくぐれないと言いたいのね」


『はい』


「ですが、シロー殿は通過できるではありませんか?」


 やはり、気付くよね。


『それは、私が生きていないからです』


 そう言いながら俺が仮面に手を掛けるとチルチルが止めに入る。


「シロー様!!」


『いいんだ、チルチル。いずれはバレることだ。ならば、早めにバラしておいたほうが得策だと思うんだ』


「で、ですが……」


『大丈夫――』


 そう述べて俺は仮面を外した。髑髏の素顔を三人に晒す。


「「「ッ!!!」」」


 マリマリと二人の執事は、俺の素顔を見て、声にならない声を上げながら驚いていた。三人の顔色が少し白く変わる。


 そりゃあ、そうだろう。眼前の男がスケルトンだったのだ。多少はビビッてもらわなければ嘘である。


 それから俺は、フードを脱ぎ、軍手を外し、ウェアのファスナーを腹まで下ろして全身の骨を見せびらかした。


『これが、生きた者が通れないゲートマジックを通れる最大の理由です』


「――………」


 まだマリマリは、冷徹な女性として振る舞っていたが、その頬が僅かに引きつっていた。動揺は隠しきれていない。


「シロー殿。あなたは、アンデッドなのですか?」


『正確にはアンデッドではありません。太陽の下も歩けますし、教会にも入れますから』


 たぶん教会にも入れるはずだ。試していないけど……。


 ここで初めて後の若い執事が口を開いた。


「古代から存在するアンデッドで、リッチと呼ばれる亡者が存在するとか。リッチは骸骨の姿だが、日の下にも出れるし、会話が成立するほどの理性を持ち合わせているとか――」


『私が、そのリッチかどうかは知りませんが。私には理性があります。それに、私はなんの罪もない人は襲いません。ただし、私に敵意を向けてくる者とは、徹底的に戦いますがね』


 俺が三人を睨むと黙り込む。


『そして私が祖国を離れて、はるばる遠くの国に来たのには理由があります』


 マリマリが首を傾げた。


「何かしら?」


『それは、金塊集めです』


「金塊?」


『私の国では、昔はたくさんの金が採れましたが、今はほとんど採れません。それを求めてやってきたのです』


「金が目的の商売――」


『それに、私の国の海は、こちらの国と違って海水に塩が含まれているのです』


「海水に塩が?」


『ええ。精製に時間と手間はかかりますが、塩は無限に手に入ります。ソルトフィッシュから塩を取らなくても、簡単に手に入るのですよ』


「所変われば品変わる……まさか塩がそんなに簡単に手に入るとは――」


『私は、その塩を簡単にこちらの国に持ち込めます。その代わりに、我が国では貴重な金塊が欲しいのです』


「話はだいたいわかりましたわ」


 さすがは頭の回転が速い商人だ。理解力が優れていて助かった。


「ですが――」


 まだ何かあるようだ。



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