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51【親子の再開】

 首都パリオン――。


 俺たちは大河に掛かった長い石橋を渡って、麦畑を過ぎると防壁の正門に進む。


 そこにはゲートをくぐる多くの人々が集まっていた。行商人と思われる人々が門番に荷物をチェックされている。


 その列に俺たちも並んでいた。

 

 チルチルはメイド服の上にパーカーを着込み、フードで頭と顔を隠していた。


 この町はチルチルの故郷だ。知人に出くわしたくないのだろう。獣人になった姿を見られたくないに違いない。


 それよりも……。


『だ、大丈夫かな……』


 あの検問で、俺の正体が暴かれるのではないかと心配になってしまう。何せ門番が通行人を厳しくチェックしているからだ。鞄の中や、荷馬車の積荷まで調べている。


 こんなに人だかりができている場所で、俺がスケルトンだとバレたら大事件になるだろう。それが怖かった。


 しかし、俺が乗っている騎獣の背後に跨がるチルチルが、俺の緊張を察して声を掛けてきた。


「大丈夫です、シロー様。魔法使いとファミリアのフリをしたのならば問題ありませんよ」


『そ、そうなのか……』


「そんなもんです」


『チェックは厳しいのか?』


「商人だと言い張れば、問題ありません。チルチルを信じてください」


『あ、ああ……』


 チルチルに励まされて列に並ぶ俺たちに順番が回ってくる。騎獣を降りた俺たちに、門番が質問してきた。


「次の人、パリオンに何しに来ましたか?」


『私は魔法使いの商人です』


 少し言葉遣いが棒読みになってしまう。


『コメルス商会に荷を下ろしに来ました』


 コメルス商会とはチルチルの実家が営んでいる商業ギルドの名前である。コメルス商会と取引がある商人は信頼度が高いらしいのだ。だからわざとらしく名前を出したのである。


「商品はなんだ?」


『これです――』


 俺はアイテムボックスから塩袋を取り出して、中身の塩を見せてみる。


「おお、これは立派な白塩ですな!」


 門番は純白の塩を見て驚いていた。やはり白い塩は貴重品なのだろう。


 すると門番はにこやかに微笑むと俺たちを通してくれた。


「どうぞ、お通りください。ようこそパリオンへ」


『あ、ありがとう……』


 老人の黒仮面に、派手な白いウェアでもすんなり通れた。チルチルの言う通り問題はなかったのだ。


 おかしな格好でも、メイドを連れて、アイテムボックスを使用して、しかも扱う商品が高級品の白い塩となると、それだけで信頼を勝ち取れるらしい。


 メイドの所有、アイテムボックス、高価な商品、コメルス商会。この四拍子が強いらしいのだ。


『ここが、パリオン――』


 正門をくぐると、眼前には大都市のメインストリートが広がっていた。露店や商店が隙間無く並んでいる。そこを大勢の人々が川の流れのように行き来していた。


 建物は綺麗なレンガ造りで三階や四階建ての高い建物も多く見られる。路面も石畳だ。所々に木々や植木も見られて和む景観であった。モン・サンの町と比べて明らかに都会感に溢れている。


「お〜い、こっちだ〜、シロー殿〜」


 先に正門を通過していた暁の冒険団が手を振っていた。そこに俺も合流する。


『いや、ドキドキしたわ〜。門番に俺の正体がバレたらどうしようかと思ったぜ……』


「それは問題ないぞ」


『何故だ、エペロング?』


「あの門番は全員俺の幼馴染だ。顔見知りばかりだよ。だから先に話を通しておいた」


『何故にそれを先に言わん……』


「あれ、言わなかったっけ?」


 エペロングは薄っすらと笑っていた。たぶんわざとだ。俺をからかって遊んでやがったんだ。やはりこいつは根性が曲がってやがる。覚えてやがれよ。


「よし、早速だが、コメルス商会に向かおう」


『ああ、分かった』


 チラリとチルチルのほうを見てみると、彼女の表情は少し曇っていた。やはり自分を捨てた両親に会うのが心配なのだろう。


 そして、大通りを進み、やがて見えてきた四階建ての立派な建物の前に立つ。看板にはコメルス商会と書かれている。最終の目的地だ。


「ここだ――」


『よし、行くぞ、チルチル……』


「うん……」


 チルチルはパーカーを脱ぐと鞄に仕舞い込む。それから強く俺のズボンを握りしめてくる。そんなチルチルは少し震えている様子だった。


 俺たちが建物に入ると二階の客間に通される。暁の冒険団は別の部屋に通されたようだ。今頃、依頼の報酬を貰っているのだろう。


『誰も来ないな……』


「………」


 俺とチルチルは客間で待たされていた。三十分ぐらい過ぎたが誰も顔を出さない。メイドさんがお茶を出してくれたぐらいだった。


 チルチルがボソリと言う。


「たぶん、暁の方々に話を訊いているのでしょう。お母様は、慎重な方ですから……」


『娘に会うのに、そこまで警戒するのか?』


「私を警戒しているのではないですよ。シロー様を警戒しているのだと思います」


『俺を警戒?』


「ご自分の成りを忘れましたか?」


『あ〜、思い出した〜。そうだよね〜、怪しいよね〜』


「それに、暁の方々に、今頃、シロー様の話を訊いているはずです。異国から来た商人で、高価な品ばかりを扱う富豪。しかも、かなりの腕っぷし。それだけで母なら警戒しますよ」


『そ、そうですよね〜……』


 これは、俺が悪いのか。――たぶん俺が悪いんだろうな……。


 すると四十分ぐらい過ぎたところで客間に件の奥様が入ってきた。


「お待たせしました――」


 歳の頃は三十そこそこ。金髪の長髪をアップに纏め上げている。そして、チューリップスカートの赤いドレスに豊満な胸が誇張されていた。


 スマートで美しい女性である。しかし、チルチルと異なった美しさである。それはまるで氷の美女だ。無表情で冷めた眼差しが印象的である。


「ようこそ、コメルス商会へ。会長でチルチルの母のマリマリですわ」


 その自己紹介には冷気が混ざっていた。それは、鋭利な刃物のような氷である。


 俺は頭を下げながら名乗る。


『旅商人の……シ、シローと申します』


 既に押されている。俺は緊張で硬くなっていた。


「貴公の話は冒険者たちから聞きました。まあ、腰掛けてくださいな」


『そ、それでは、失礼します』


 俺はソファーに腰を下ろした。チルチルは俺の背後に回り込む。今回は自分が主役だと分かっていながらも主従関係を守ったのだ。


 そして、母親のマリマリも俺の前のソファーに腰掛ける。すると彼女の背後に執事が二人立ち並んだ。


 一人は老執事。もう一人は二十代くらいの若い執事。しかし、その立ち姿だけで俺には分かった。


 二人の佇まいには、太い芯が見て取れた。明らかに何らかの武術に長けている立ち姿である。特に老執事は達人級の使い手だろう。物腰が異常だった。


 緊張感が漂う中、チルチルの母親が口を開く。


「では、何からお話しましょうか?」


 その声は、冷たいだけでなく、威圧的だった。俺がソファーに腰掛けたのに、自分の娘が背後に控えたことが腹ただしいのかもしれない。



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