50【首都バリオン】
サン・モンの町を旅立って三日が過ぎていた。
首都パリオンに向かう道中。俺たち一行は、騎獣で草原を走り続けている。
俺は、新しい仮面を新調した。それは、実家から持ち出した能面だ。黒式尉と呼ばれる黒い老人の仮面である。ちょっと怖いが、これしかなかったので今は我慢だろう。パリオンに到着したら、何か手頃な仮面を買ったほうが良いと思う。
他にも近所の祭りで小さな頃に買ってもらった戦隊物の仮面があったが、それは流石に却下した。俺が恥ずかしい……。
そして、旅は続く。すると、ただただ草原と森ばかりが見える景色の中、不思議な光景が目に入ってきた。
『あの平たい山は、なんだ?』
草原を走る俺たちの右側前方に、特徴的な形の山が見えた。全周が絶壁に見え、頂上は包丁で真っ平らに切り取ったかのように平たい岩山。その水平な頂上に緑色の草木が森のように生えていた。まるでプリンだ。
遠くに見えるから全長は分からないが、それでも巨大に見える。絶壁の高さは約100メートル。頂上の直径は、野球場に例えれば数個分だと思われた。
俺の質問に、後を走るティルールが答えてくれた。
「フラン・モンターニュだね。この辺の名所だな。麓に小さな村があるはずよ」
『へぇ〜』
「昔は遺跡がないかと冒険者に隅々まで探索されたが、結局なにも出てこなかったシケた山なのよね」
「探知魔法で鉱石も探されたが、それすら探知されなかったらしいぜ〜」
『そうなんだ〜』
俺はこのとき軽く流してしまったが、後にこの山が俺の領土になる。それはもう少し先の話なので、またの機会に話すことになるだろう。
とにかく今はパリオンを目指す。
その目的はチルチルの母親に会うためだ。
そもそも暁の冒険団がサン・モンの町に来た理由は、奴隷として捕まっているだろう彼女を救い出すためだった。
それで、なんやかんやあったが、今は暁の冒険団と俺は行動を共にしている。個人個人の差はあるが、だいぶ仲良くなっていた。マブダチに近い。
旅の道中、俺が奢る三食が利いていたのだろう。五人は嬉しそうに、俺が用意した現実世界の食事に舌鼓を打っていた。
カップラーメン、惣菜パン、コンビニ弁当、カレーライス。どれも評判が良かった。料理文化が現代と比べて底辺に近い異世界の住人なのだ。その感激っぷりは凄かった。
たぶんこいつらは、俺と別れたら普段の食事なんて食べられなくなってしまうのではないかと、こっちが心配してしまうぐらいだった。
そして、旅はさらに順調に進む。初日にゴブリンの襲撃があったが、それ以降はトラブルらしいトラブルはなかった。草原を走る景色の中、魔物の姿がちらほらと見受けられたが、俺たちを襲ってくるところまでは来なかったので、俺たちは無視して旅を急ぐ。
「あれが、首都パリオンだ!」
『おお〜!』
少し高台から見える遠くの景色。そこに巨大な町が伺えた。
中央に大きな城があり、その城壁の周りに町がクモの巣のように築かれている。
その町を二つ目の防壁が囲んでいた。さらに、壁から溢れた民家が周囲の麦畑に混ざって見て取れる。
それに、町を割るように大きな川が流れている。リセーヌ川と呼ばれる大河だ。
パリオンは大都市である。サン・モンの町の数倍は大きい。おそらく数千から数万の人が暮らしていると思われた。
『大きな町だな』
エペロングがドヤ顔で言う。
「俺たちのホームグラウンドなんだぜ!」
ティルールが続く。
「フランスル王国の首都パリオン。この国で一番大きくて、盛んな町なのよ。お母さん、元気にしていたかな〜」
エペロングもティルールも、自分の故郷を自慢したいらしい。
しかし、チルチルの表情は少し暗かった。俯いて町の景色を見ようとしない。
『んん〜……』
「……………」
この町にいるのだ。彼女を捨てた両親が――。
それを思うと、笑ってもいられない。
だが、会わなくてはならない。
そして、話さなければならない。
何を?
それは、脳筋の俺には分からない……。
しかし、進まなければならないのは間違いないだろう。それが彼女の道なのだから――。




