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49【お誘い】

 黒い仮面を失い髑髏の顔面を晒している俺は、唖然とする暁の冒険団と向かい合っていた。今は焚き火を囲んで戦いの疲れを癒やしている。


 暁の面々は無言だった。一人だけマージが興味深そうに俺の髑髏面を間近で覗き込んでいた。


「うわ〜、本当じゃあ〜。中身が空っぽのスケルトンじゃぞぉ〜」


 マージの巨乳が顔の側で揺れている。これは目の毒だ。触りたくなる……。


『そ、そんなに珍しいか……?』


「珍しいも何も、ワシですら初めて見るぞ。喋るスケルトンなんぞ有り得んからのぉ〜。もしかして、これがリッチなのか!?」


 俺も初めてである。こんなに間近で女性の巨乳を眺める機会なんて現実世界でもなかったからな……。おそらくKカップはあるだろう。


 俺の向かいに腰掛けるエペロングが問う。


「シロー殿は、本当にアンデッドなのですか?」


 俺は片腕でマージの魅惑的な体を除けると、エペロングに答えた。その瞬間、女性の柔らかさを感じ取っていた。


『俺も自分の身体の仕組みはよく知らん……』


「何故?」


『俺は、母国から金塊を集めに送り込まれただけだ……』


「母国から金塊を?」


『俺の国では金塊が貴重だ。その金塊を集めるために、この姿で送り込まれた。何せ、ゲートマジックは無生物しか通れないからな』


 驚きが冷めない眼差しでバンディが述べる。


「ゲートマジックをくぐるためにアンデッドになったのかよ……」


『そんなところだ……』


 まだウロボロスの書物については語る必要はないだろう。それでも大筋は話さないと信用されないと思った。だから、できるだけ正直に話す。


 まあ、そもそもが、ウロボロスの書物について俺も良く知らないのだ。本当も何も話し切れない。


『この身体の利点は、ゲートマジックをくぐれることにある。だから祖国から品物を持ち込んで、こちらの国で販売してお金を稼いでいるんだ』


「なるほどのぉ〜。ゲートマジックをくぐるために、アンデッドに落ちたわけじゃな」


『そんな感じだ……』


 まあ、ほぼほぼ合っているから嘘でも問題なかろう。本当のことを言っても、こちらの異世界人には理解が難しいと思う。ゆえにゴールド商会のことまでは話す必要はないと考えた。


 続いてティルールが述べる。


「それで普段から、金、金、金、って言ってたのね。でも、なんで金塊が必要なのさ?」


『まず、最低限この身体を維持するのにも金塊が必要なんだ。だから商売に励まなくてはならない。お前さんたちだって、飯を食べないと飢えて死ぬだろう。俺もそれと同じなんだ』


「金塊を、食うのかよ……」


『エネルギーに変えるだけだ』


「そうなるとじゃ、やはり普通のアンデッドとは訳が違うのぉ〜。やっぱりリッチなのけ?」


 マージは俺がリッチであってもらいたいのだろうか。このおっぺえは、リッチにこだわり過ぎている。


「それに、昼間でもお天道様の下を歩いていたしな。普通のアンデッドとは理が違いすぎるのは間違いないだろう」


「のう、プレートル――」


「なんだ、マージ?」


「シロー殿に、ターンアンデッドを掛けてみようぞ。どうなるか見てみたいのじゃ」


 苦笑いしながらエペロングが止める。


「おいおい、やめんか。本当に天昇したらどうするよ……」


『いや、それは興味深い。是非に試してもらいたい』


 焦るチルチルが俺の袖を引っ張ってきた。


「シロー様、やめてください。シロー様が亡くなられたら、私も死ぬのですよ!」


『じょ、冗談だよ、チルチル……』


 スケルトンジョークのつもりだったが、本気でチルチルが瞳を潤ませていたので反省する。危うく彼女を泣かせてしまうところだった。


 エペロングが話を戻す。


「まあ、とにかく黄金を稼ぎに来ただけで、一般人には被害を向けないのは間違いないんだな?」


『そんなところだ。そもそも、俺が何か悪意を向けて行動したところは見たことないだろ、お前たちだって?』


「確かに〜」


「じゃが、その姿は、他者にバレたら問題になるじゃろう?」


『だから普段は隠している』


「そこで、どうだろうか?」


 座った体勢で身を乗り出したエペロングが提案した。


「ここは一つ、俺たちのパーティーに加わらないか?」


『冒険者のパーティーに……』


「仲間がいたほうが身を隠すのも楽になるのではないだろうか。それに、万が一にもバレた際には庇えるぞ」


『それは、ありがたい誘いだが、こちらにも都合があってね……』


「都合とは、なんだ?」


『金銭的な問題だ?』


「んん?」


『この体の維持に、多額のコストが掛かるんだ。さっきも言っただろう。この体には金塊が必要だってさ。そのコストを冒険者の稼ぎで賄えるのか?』


「どのぐらい掛かるんだ?」


『最低、月に大金貨二枚分――』


「「「「「200000ゼニルも!!」」」」」


 五人が声を揃えて驚いていた。チルチルも目を丸くさせている。


『もしも、一ヶ月の目標を稼げなければ、俺は少しずつ朽ちていく。それは永久に残るペナルティだから、積み重ねればいつかは動けなくなってしまい、死んでしまう』


 歳を取ると説明するよりも、こっちのほうが分かりやすいだろう。嘘も方弁である。


『お前たちの稼ぎは、一ヶ月でいくらだ?』


「たぶん、一人頭、3000ゼニル前後。大きな仕事が入っても5000ゼニルぐらいだろう……。でも、一発当てれば!」


『当たるか当たらないか不明な要素に期待できない。俺は、確実に200000ゼニルが必要なんだ』


 俺の言葉を聞いて五人が塞ぎ込んだ。これで俺の勧誘は諦めるだろう。


『だが、お前らとは仲良くやりたい。月の目標が達成できたのなら、一緒に冒険に参加したいのが俺の本心だ』


「本当か!?」


 エペロングが明るい表情で顔を上げた。


『俺だって、冒険には興味があるんだぜ』


「わあ〜〜〜〜い!」


 マージが子供のように小躍りする。本当に嬉しいようだ。


「それじゃあ、もう一つの本題に入ろう」


『な、なんだよ……』


 エペロングが悪い大人のように微笑んでいた。焚き火の炎がそれをさらに強く演出する。


「口止め料だ!」


『口止め……って?』


「俺たちが、シロー殿の正体をバラしちゃうかもよ〜」


『なんだと!!!』


「秘密を守るには、それだけ代償が必要だろ〜う」


『こいつは、悪か!!』


 その後の交渉の結果、俺がパリオンまでの道中で五人分の食事を用意することで手を打つことになった。ほとんど恐喝である。


『大人って、やっぱりズルい……』


「「「「「わーい、わーい!!」」」」」


「アホーアホー!」



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