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47【助太刀】

 異世界は夜――。


 俺が現実世界から異世界に帰ってくると、何故か暁の冒険団が戦っていた。その周りに数体の死体が転がっている。


 焚き火の側にゲートマジックで登場する俺は、周りの状況に首を傾げる。


 焚き火を囲んで陣取る暁の冒険団。エペロングとバンディが倒れていた。どうやらチルチルは無事らしい。火傷だらけのバンディを介抱している。


 エペロングは顔面と腹を切られて出血しているし、バンディは全身が焦げている。二人とも立つのは無理っぽい。


 そして、そのような状況の面々を、武装した緑色の小人たちが囲んでいた。数は多い。おそらく五十匹近くいる。こいつらが敵なのだろう。


『どうした、これは?』


 歩みながら俺が問う。すると、弓矢を構えながら周囲を威嚇するティルールが怒鳴るように答えた。


「襲撃だ。ゴブリンたちの夜襲だ!」


『ゴブリン?』


 俺は、周囲を包囲する緑色の小人を見回した。


『なるほど、これがゴブリンなのか。初めて見たぜ』


 その姿は確かに小鬼だ。醜く、凶暴そうであった。俺の姿を見て、野良犬のように唸ってやがる。


 そして、暁の面々を見る限り、ピンチだったようだ。たぶん数に押されたのだろう。


 否――。


 俺は、一匹のゴブリンに目が行った。


 そいつは、他のザコゴブリンよりも背が高かった。おそらく170センチは超えているくらいだ。


 さらに、細身に見えるが、その実、案外と鍛えられているようにも窺える。着物の下に細マッチョな筋肉を隠しているようだった。


 持っている武器は鋭利な片刃の刃物。日本刀に似た刀身だった。たぶん、エペロングを切ったのはこいつだろう。


 だとすると、かなりの腕利き。それなりの剣術の使い手だと分かる。


『なんか、燻銀なゴブリンがいるじゃあねえか――』


「――……」


 俺は、足元に転がっていたゴブリンの死体を足先に引っ掛けて掬い上げる。蹴り上げたゴブリンの死体が俺の視線の高さまで浮き上がった。


『ふんっ!』


 その死体を上段回し蹴りで蹴り飛ばす。その先にいるのは燻銀ゴブリン。


 しかし、燻銀ゴブリンは、飛んでくる部下の死体を空中で断ち切る。胴体を切り裂き、上半身と下半身の間をすり抜けて俺に向かって突進してきた。


 その動きは滑らか。まるで氷上を滑るかのような歩法だった。流れるせせらぎのような動きである。


 すると、煌めく刀が微風のように俺に迫る。


 俺は、右足だけを後退させると体を斜めに向けて刃を躱す。その刀身が俺の首元をかすめ、被っていたフードの右頬側を切り裂いた。


 しかし、俺も反撃を繰り出す。回避と同時に、中段左足刀のサイドキックを繰り出していた。


 だが、その蹴り足を燻銀ゴブリンも回避していた。俺の足刀は、燻銀ゴブリンの胸元をかすめた程度で終わる。


 両者の攻撃が空振ると、燻銀ゴブリンがバックステップを刻んで後退していった。再び数メートルの間合いを築く。


『マジで、できるじゃん』


「――……」


 燻銀ゴブリンは、何も答えない。俯いて視線を反らしている。


 すると、後方の神輿前に控えていた羽飾りの派手なゴブリンがけたたましく叫んだ。


「チャンピオン、儂ニ任セロ!」


 そして、何やら魔法を唱える。


「喰ラエ、クリーパースネア!」


『んっ!?』


 突然である。俺の足元から生え出た木の蔓が絡みついてきた。それは俺の足を拘束し、動きを封じる。


『なるほど、移動を封じる魔法か……』


 厄介な魔法であった。移動と回避を封じられる。


『ならば――』


 俺は、アイテムボックスからビール瓶を取り出した。そのビール瓶にはガムテープで発炎筒が貼り付けられている。


『少しばかり、派手に参りますか〜』


 発炎筒のキャップを取ると、そのキャップについている擦り薬で点火する。燃え盛る発炎筒付きビール瓶。それをビール瓶ごと神輿に向かって投げつけた。


 そして、ビール瓶が割れると爆発を起こし、神輿が炎に包まれた。数匹のゴブリンも炎に包まれる。


「ギィィアアアアアア!!!」


「アチィ、アチィィイイイ!!」


 神輿の側に立っていた羽根つきゴブリンにも炎が引火したが、奴はその飾りを脱ぎ捨て炎から逃れる。


「ナンジャ、コリャァアアアア!!!」


 火炎瓶である。


 ビール瓶の中身はガソリンと灯油のカクテル。そこにアルミニウムの粉末を加えたものだ。発炎筒を使ったのは点火の便利さからである。


 どれもこれも、平和な日本でも簡単に手に入る材料。ガソリンや灯油はガソリンスタンドで簡単に買える。発炎筒もホームセンターに売っているし、日本では車検の関係上、車に一本ずつ付いている。アルミニウムは1円玉の原材料だ。


 火炎瓶にアルミニウムの粉末を入れると火が消えにくいとされている。ウクライナの戦争の時には、このアルミニウム入り火炎瓶でロシアの戦車を何台も焼き払ったという実績がある。


 万が一と思ってアイテムボックスに入れておいた火炎瓶だったが、こんなに早く使う機会が来るとは思わなかった。何事も準備が大切だね。


「グゥゾォォオオ!!」


 火の粉を払った羽根つきゴブリンが怒りの表情を濃くして唸っていた。そこに俺は飛び道具を放つ。スペツナズ・ナイフを発射して、羽根つきゴブリンの頭を貫いてやった。


「ゥッ………」


 頭にナイフの刀身が刺さった羽根つきゴブリンは倒れ込むと静かになる。即死だろう。


 五月蝿いのが消えて、周囲が静かになった。まだ、ザコゴブリンたちが唸っていたが、羽根つきゴブリンよりは静かである。


 すると、俺の下半身を拘束していた蔓の魔法が消え去った。


 俺は、燻銀ゴブリンを睨みつける。しかし、奴は視線を落としてこちらを見ない。無視している。


『さて、次はお前さんだぞ』


「――……」


 俺たちは、静かに向かい合っていた。


 邪魔者は消えた。第2ラウンド開始である。



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― 新着の感想 ―
こっち見ないというのがやばそう。
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