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46【エペロングvs燻銀ゴブリン】

 神輿に揺られながら登場したゴブリンの総大将。その外見は燻銀の姿。中年の年頃だった。


 身長は、普通のゴブリンより高い。おそらく170センチを超えたぐらいだろう。体格は鍛えている人間並み。身形は、ボロボロの浴衣を纏ったかのような成りだった。鎧は纏っていない。胸元から逞しい大胸筋が覗いていた。


 そいつは、神輿の玉座に腰掛けながら脚を組んでふんぞり返っている。傲慢が全身から滲み出ていた。


 なにより異質なのは、その冷徹な眼差しだった。


 神輿の高い位置からパーティーを冷めた眼差しで見下ろしている。それは、人間を下等な生き物だと見下すような視線だった。


「ロードか……」


「否。チャンピオンでござろう……」


 それは、まだ、どちらかは判断できない。だが、戦士たちの目からは強者だと見て取れる。


「できるぞ、あれは……」


「そうでござるな……」


 するとエペロングが自分の背丈よりも長い剣を担いで前に出る。それに対して燻銀ゴブリンは顎で合図を送る。


「「フガァ!」」


 その合図に、神輿の後ろから二匹のホブゴブリンが歩み出てきた。二匹とも身長だけなら190センチに届くエペロングと同格である。そのような二匹は剣を持っていた。錆び付いた古い剣である。


 羽飾りのゴブリンシャーマンがヒステリックに叫ぶ。


「ホブ太トホブ六、二人デ殺ッテシマエ!」


「「フガァフガァ!!」」


 シャーマンの指示を聞いて、並んで走り迫る二匹のホブゴブリン。剛腕で武骨な剣を振り被りながらエペロングに突撃していった。


 それに対してエペロングは長剣を頭よりも高く構えた。剣道で言うところの上段の構えだ。先手を狙っている。


「「フンガァァアアア!!」」


「スキル、飛燕燕返し!!」


 エペロングが放つ袈裟斬りの斬撃。その直後に、切り返しで跳ね上がる二撃目の太刀筋。


 袈裟斬りからの逆袈裟斬りの軌道。その二撃が同時に二匹のホブゴブリンを切り捨てた。Vの字の太刀筋である。


 それは、巌流島で振るわれた佐々木小次郎の秘剣・燕返しである。


「「フンガァァ……」」


「オッ、オノレ!!!」


 再びゴブリンシャーマンがヒステリックに叫ぶ。


 しかし、同時に倒れ込むホブゴブリンを見て、神輿の上の燻銀ゴブリンが立ち上がった。その手にはブレードが握られている。


 ブレードとは刀だ。剣がソードである。


 その違いは、ソードが両刃の太身の刃物で、パワーを有して敵を斬り伏せる武器。


 一方、ブレードは細身で切れ味を優先した片刃の鋭い刀である。日本刀などが、それに当たる。


 ソードとブレードでは、基本が異なるのだ。


 そして、燻銀ゴブリンが持っているのはブレードである。木の鞘に収まったブレードで、東宝映画の任侠映画などで見られる893のワッパだ。


 この燻銀ゴブリン。どこか座頭市にも見える。


 その燻銀ゴブリンが神輿の上から飛び降りる。音もなく着地すると、エペロングを静かに睨みつけた。


 すると、ゴブリンシャーマンが慌ただしく燻銀ゴブリンに意見する。


「ナニモ、チャンピオン自ラ出ナクテモ!?」


 その声に、燻銀ゴブリンが静かに返答する。


「コイツハ、オ前ラデハ、切レヌ――。儂、自ラガ斬ル」


 そう述べると、無表情なままに燻銀ゴブリンは刀を鞘から抜いた。片刃の刀身が輝くと、エペロングと向かい合う。


 そして、ブレードの刀身がライトの魔法に反射して輝いている。そのことから刀が手入れされていることが分かった。ゴブリンなのに、刀の手入れが行き届いているのだ。それは普通ではないだろう。


「不味いな……」


 エペロングの額から冷や汗が流れた。


 向かい合って分かるのだ。この燻銀ゴブリンは普通ではない。剣の腕だけならば、自分と五分五分だと感じられたのだ。


 ゴブリン相手に屈辱だが、それが事実だと感じ取れるから恐ろしいのだ。一つ間違えば、この立ち合いで遅れを取るのは自分だと悟れる。


 だが、間違えなければ、問題ない。勝てるとも分かる。


「上等っ!」


 エペロングは長剣を上段に構えた。必勝の構えだ。


 それに対して燻銀ゴブリンは、日本刀を下段に構える。その姿勢は、僅かに猫背で頭は俯いていた。視線を対戦者に向けていない。


 その状況を、冒険者とゴブリンたちが輪になって見守っていた。誰も動かない。ただ、静かに観戦する。


「「「「――……」」」」


 沈黙が微風に乗って流れる。両者が右へ右へと歩む。隙を探り合っている。


 その状況を見てプレートルが呟いた。


「この立ち合い……踏み込んだら、一瞬で決まるぞ」


 両者の横歩きが止まると、今度は前進を開始する。半歩、半歩と前に進む。徐々に間合いを詰めていく。


 そして、止まった。あと一歩でエペロングの長剣だけが間合いに捕らえられる寸前で動きが止まったのだ。


「「――……」」


 エペロングの間合いまでは、あと一歩だが、燻銀ゴブリンの間合いまでは、あと二歩半必要だ。


 それでも先に動いたのは、燻銀ゴブリンだった。


 膝の稼働だけで進む動き。滑るような前進。頭が揺れていない。それは、ゴーストダッシュ。格闘技の高等ステップである。ゴブリンが、高等テクニックを使用したのだ。


 猫背で進む燻銀ゴブリンが、エペロングの間合いに踏み込んだ。そこにエペロングが、上段からの一太刀を振り下ろす。


「飛燕燕返し!!」


 Vの字に煌めく二太刀筋の剣筋――。


 しかし、燻銀ゴブリンは、流れるせせらぎのように軽やかに動き、長剣の兜割りと逆袈裟斬りを回避した。狙いを外した刀身が天を煽り止まる。


 その刹那、日本刀の煌めきが走る。閃光のような斬撃がエペロングの脇腹をなぞり、プレートメイルが裂ける。鮮血が飛び散った。


 さらにもう一太刀。それは下から上に走る太刀筋。その一撃がエペロングの顔面を割る。


 切っ先はエペロングの顎をなぞり、鼻を割り、額の中央を切った。


 エペロングの顔面が、正中線に沿って切られたのだ。


「ぐはっ!!」


 エペロングが斬られた。しかも傷は深い。顔面から鮮血を散らしている。


 さらに、燻銀ゴブリンが刀を振りかぶる。その狙いは、屈み込んだエペロングの首筋――。


「ファイアーアロー!!」


 咄嗟に放たれるマージの援護射撃魔法。魔法の火矢を刀で弾きながら、燻銀ゴブリンが跳び退いた。


「エペロング殿、大丈夫ぞな!?」


「かはぁ……」


 血を吐くエペロングに肩を貸し、後退するプレートル。


「今、ヒールをかけるぞい!」


「しゅ、しゅまん……」


 しかし――。


「サセルカ、ミュートスペル!!」


 ゴブリンシャーマンが詠唱し、プレートルに沈黙の魔法をかける。魔法に抵抗できず、プレートルの声が途絶えた。これでは回復魔法も唱えられない。


「んん、んんんっん!!」


 プレートルの回復魔法が封じられる――。


 暁の冒険団、最大のピンチであった。



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