表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/263

40【国落とし】

 赤いスポーツカーから降りてきた鬼頭二角は、片手に一升瓶を持っていた。「鬼ぶっ殺し」とラベルに書いてある。それを翳しながら俺に言う。


「これからゴールド商会の研修だ。上がらせてもらうぞ」


「はあ……」


 俺は鬼頭を茶の間に上げると、言われた通りにコップを二つ用意する。そして、こたつに入って向かい合う。


「まあ、飲めや。いけるんだろ?」


「はい、飲めます……」


 鬼頭が持ってきた一升瓶から酒を注ぐ。小さなグラスに、波々とギリギリまで酒を注いでいた。


「ほれ、ぐいっと行きやがれ」


「はい……」


 俺は注がれた酒を一気に飲み干した。


 正直言って、酒を飲んでも酔わない。スキルの毒無効LvMAXが影響していて、アルコールすら無効化しているようなのだ。


 俺の一気飲みを見ていた鬼頭も、続いて一気する。ゴクゴクと喉を鳴らしてコップの酒を飲み干した。


「うぃ〜〜、うめ〜〜〜。ゲップ〜」


「………」


 この男は二十代半ばに見えるが、その実、七十歳を越えた老人である。外見は若いが、中身はジジイなのだ。それが態度と口調に出ていた。


 もしも彼の事情を知らなければ、説教した後に殴りつけていたかもしれない生意気な態度である。


「それで、研修って何ですか?」


「まあ、焦るな。時間は無限なんだ。まずは、つまみを持ってきやがれ」


「はい……」


 俺は台所に立つと、冷蔵庫を漁った。冷凍のたこ焼きがあったので、それをチンして出す。


「たこ焼きしかなかったですが、これでいいですか?」


「十分だ。よし、座れや」


「はい……」


 俺は、たこ焼きを持ってこたつに戻る。


「まあ、研修って言っても、ただ俺の話し相手になってくれればいいんだよ。それで会社には、俺から適当に報告しておくからよ」


「いい加減な会社ですね……」


「世の中なんて、そんなもんよ」


 そんなわけがない。この人がいい加減すぎるのだ。普通は、そんな程度では通用しないだろう。まともに会社員を務めたことがない俺ですら分かる。


 鬼頭が爪楊枝でたこ焼きを摘みながら話しかけてきた。


「それで、どうだい? 異世界では上手くやれてるか?」


「現在のところ、金塊15グラム集めました。まだ二十六日は残っているので、残りは余裕で集められると思います」


「それは良かった。響子さんの術でも異世界までは覗けないから、状況は直に報告してもらうしかないんだよな。まったく、面倒くさい話だぜ」


 なるほど。鏡野響子でも、異世界までは覗けないのか――。


「それと、事務から届いた書類は提出したか? それをしていないと、給料が支払われないぞ」


「書類は郵便で送りました。それで、給料日って何日なんですか?」


「月末だ。ウロボロスの書物に注いだ金塊の量で報酬は決まる歩合制だ。頑張ったら頑張った分だけ給料も支払われるし、経験値ももらえるぞ〜」


「それは聞きました」


「まあ、それならば問題なくやっていけるよな?」


「今のところは何も問題はないですね」


「結構結構。何事も順調が一番だぜ」


 鬼頭は一人で納得すると、二杯目の酒を煽る。


「うぃ〜〜」


 彼は酔っているようだ。顔が赤くなり始めている。どうやら鬼頭は酒に酔えるようだ。俺のように毒無効などは持っていない様子である。


 おそらくウロボロスの書物によって、契約者ごとに異なる特性が付与されているのだろう。同じ能力を持ち合わせているわけではないらしい。


「鬼頭さん、一つ訊いてもいいですか?」


「なんだい? 俺は優しい先輩だから、何でも答えてあげるぜ」


 ありがたい。間抜けなくらい頼もしい。


「ゴールド商会について、詳しく聞いておきたいのです」


「俺が答えられることなら教えてやるぞ。でもよ、俺の知らないことは教えてやれないからよ。その辺はごめんよ〜」


「かまいません」


 それにしても、早くも酔っ払ってないだろうか。この人は、車で来たよな。帰りはどうするつもりなのだろう。車を置いてタクシーで帰るのかな。まさかこのまま泊まっていく気ではないだろうな……。


 そして、ほろ酔い気分の鬼頭がゴールド商会の歴史について話し出す。


「ゴールド商会ってやつは、名前を変えながら何千年も存在している組織らしいんだわ」


「何千年も……」


 思ったよりも歴史は長いらしい。


「だが、世界征服とかを目論むような、だいそれた組織ではないらしいぞ」


「そうなんですか?」


「ゴールド商会の目的は、観測者らしい」


「観測者?」


「見守りが趣味のバードウォッチングみたいなことをするのが目的らしいんだわ」


「見守るだけの組織?」


「ただ見守り、ただ生きて、その時代その時代を楽しむ。それがモットーらしいぞ。俺も五十年ほど付き合っているが、理解しきれない発想だ……」


「何をしたいんだ?」


「俺もよくわかんね〜」


 本当にわけのわからない組織である。目的がない集団ってことなのだろうが、マジでわからん。


「ただな、それでもゴールド商会が本気を出せば、一国を壊滅させるだけの力があるのは間違いない」


「軍事力も有しているのか!?」


「いや、軍隊なんて大所帯は持ってないぞ」


「それじゃあ、核か!?」


「もっと怖いものを持っている……」


「それは?」


 俺は生唾を飲んだ。どのような強大な力を持っているのか想像がつかない。


 そして、少し溜めをもってから鬼頭が述べた。


「個人の武力だ――」


「個人の武力……?」


「金徳寺金剛社長は、たった一人で国落としが可能な強さを持っている」


「たった一人で国落とし……」


 そんな、アホな……。話が大きすぎる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ