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35【烙印】

 サン・モンの町の防壁を越えて朝日が昇り始める。


 石橋の下に張られたキャンプ。俺とティルールの二人が焚き火の前で見張り役を果たしていると、テントの中からチルチルが這い出てきた。眠たそうな目をこすっている。


 参考とばかりに読んでいたライトノベルをアイテムボックスに仕舞った俺は、まだ眠たそうなチルチルに明るく挨拶をかけた。


『おはよう、チルチル。よく眠れたかい?』


「おはようごしゃいまふ、しろーはま……」


 まだ寝ぼけているのか、チルチルの呂律は回っていない。普段以上に舌足らずな喋りだった。


「ぅぅ……ふにゅ……」


 そして、パーカー姿のチルチルは眠たそうな足を引きずりながら川岸に向かい、顔を洗い始める。


 その様子を見ていた俺は、チルチルの後ろ姿に今までと違う異変があることに気が付いた。


『あれ、チルチル……』


「なんでふか、しろーはま……」


 俺はチルチルのお尻を指さしながら言う。


『尻尾、生えてない……?』


「しっぽ……?」


 チルチルは振り返ると、パーカー越しに自分のお尻を触ってみる。そして、気付いたようだ。自分のお尻に尻尾が生えていることに――。


「きゃーーー! にゃんですか、これは!!!」


 仰天するチルチル。


 以前までのチルチルに尻尾なんて生えていなかった。耳だけが獣化しているだけだったのだ。それが今は、ふかふかの巻き尾が生えている。それは柴犬のような尻尾だった。


 俺の隣で見ていたティルールが言う。


「あ〜、もしかして、チルチルちゃんの獣人化は収まっていないんじゃないの?」


『獣人化が収まる……?』


「獣人化って、人間が突然変異する病気みたいなものだからね。どんどん獣人化が進む場合があるのよ。たぶんチルチルちゃんは、それが収まっていないみたいね」


「ええ、ええ、ええ!!」


 チルチルはあたふたするばかりで、冷静さを失っている。どうしていいかとキョロキョロしていた。


 俺は、ティルールに問う。


『それじゃあ、チルチルはどうなるんだ!?』


「獣人化が止まるまで、獣の姿に近づいていくに決まってるじゃない」


『決まっているって……』


「どこで獣人化が止まるかは、人それぞれよ。半獣半人で止まるか、完全な獣になるかは誰にも分からないわよ」


「ええ、ええ、えーーー!!!」


『獣人化は止められないのか!?』


「簡単に止められたら、誰も苦労しないわよ……」


「そんな〜……」


 すると、ぞろぞろとテントから暁の面々が出てくる。


「あらあら、チルチルちゃん。まだ獣人化が止まってなかったのじゃな」


「アホーアホー!」


 豊満な胸を揺らしながらマージが述べると、肩に止まっていたカラスが嘲るように鳴いていた。


「どうしましょう。このままだと私、ワンちゃんになっちゃうの!?」


 すると、顔の古傷を撫でながらバンディが茶化した。


「チルチルちゃんなら、犬になっても可愛いんじゃないか?」


「そんなーー!!」


 今にも泣きそうな表情のチルチルが、俺の下半身に抱きついてきた。ギュッとズボンを掴みながら、顔を股間に押し付けてくる。


 俺は抱きついてきたチルチルの頭を撫でながら、暁の面々に訊いてみた。


『本当に何か対策はないのか? これではチルチルが不憫すぎる……』


 すると、マージが答えてくれた。


「魔法使いのファミリアとして契約すれば、どうにかなるぞよ」


『ファミリア契約……?』


「獣人化とは、魔力暴走が原因だとされているのじゃ。だから、魔法使いのファミリアになって、余剰魔力を主に賄ってもらうのじゃ。溢れ出た魔力を、主が受け持つってわけじゃのぉ」


『それで、獣人化は止まるのか……?』


「たぶんのぉ〜」


「アホーアホー」


「ワシも魔力不足の時は、使い魔のゴルボから魔力を頂戴しているからのぉ」


『そのカラスはマージのファミリアだったのか』


「そうじゃあ。なかなか賢い子じゃぞい」


「アホーアホー」


 賢いというか、少し苛つくカラスである。


「まあ、貴族とファミリア契約を結んで獣人化を抑えている輩も少なくないがのぉ。貴族からしてみれば、執事やメイドとして雇うのと、ファミリア契約をするのとでは、ほとんど変わらないのじゃろうて」


『そういえば……』


 ファミリアについて思い出した俺は、アイテムボックスからウロボロスの書を取り出した。そして、ステータス欄を開く。


『これだ!』


 第1級スキル一覧に【ファミリア契約Lv1】というのがある。スキルであって魔法ではないが、差はないだろう。――知らんけど。


 俺は【ファミリア契約】をタップしてみた。すると説明文が現れる。


「なんですか〜、その本。魔導書ですか?」


 俺が説明文を読もうとすると、長身のエペロングが本を覗き込んでくる。


『こら、勝手に覗き込むな!』


「あれ、白紙じゃないですか……」


『白紙……?』


 どうやらエペロングには本の中身が見えていないらしい。おそらくゲートマジックと同じで、俺にしか見えていないのだろう。


 ならばと俺は、無視をした。覗かれても問題はない。それから、ゆったりと説明文を読む。


【ファミリア契約Lv1】

 動物やモンスターなどを使い魔にする。使い魔からもらった余剰魔力で魔法を唱えられる。ただし、主が亡くなれば、使い魔も死ぬ。レベルが上がると使い魔を増やせる。


『なるほどね〜。利点もあれば、欠点もあるのか……』


 早速俺は余っていたポイントを使い、スキルを習得する。


『さて――』


 俺は泣きそうなチルチルの前にしゃがみ込み、視線を合わせる。


『チルチル、俺とファミリア契約を結べば、魔力暴走を止められるかもしれない』


「はい!」


『でも、それは、完全なる主従関係の契約だ。俺が死んだらチルチルも死んでしまうが、それでもファミリア契約をしたいかい?』


 チルチルは俺の黒狐面を凝視しながら頷いた。


「はい、私はシロー様と死ねるならば、一生お仕えしたいと思います!」


 チルチルの言葉は力強かった。先程まで取り乱していた娘の返答とは思えなかった。


『じゃあ、行くよ――』


「はい!」


 俺はチルチルの頭の上に手を乗せるとファミリア契約を発動させた。


 すると途端にチルチルが胸を押さえて苦しみだす。胸元が赤く輝いている。


「あ、熱いッ!!!」


『ど、どうした、チルチル!?』


 しかし、直ぐにチルチルの苦しみは収まる。


 そして、チルチルがパーカーを巡って胸元を見せた。すると、そこには髑髏のマークがタトゥーのように刻まれていた。烙印である。



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