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30【武器取引】

「チルチルの晩御飯にお弁当でも買っていってやろうかな。あと、暁の連中にも晩御飯をおごってやろう」


 俺は弁当コーナーの棚からデミグラスハンバーグ弁当を六個取ると、カウンターに持っていく。それらを温めてもらうと、異世界に戻った。


『ただいま〜』


 俺が異世界に戻ると、橋のたもとで暁の冒険団たちがテントを張り、焚き火の準備をしていた。どうやらこいつらは宿屋代をケチって野宿で節約しているらしい。


「おおっ!」


 無空の空間から現れた俺を見て、目を丸くしたマージが俺の周りの空間に手を伸ばして不思議そうにしていた。


「ゲートマジックは、本当に見えない扉で移動が可能な魔法なのじゃのう……」


『ああ、我が国のオリジナル魔法だ』


 どうやらゲートマジックは、ウロボロスの書物のオリジナル魔法らしい。この異世界には存在しない魔法とのことだ。


 古い書物には「エニウェアポータル」という魔法があったらしいが、その使い手は現在いないとのこと。かなりの上位魔法らしい。


『そんなことよりも、晩御飯を買ってきたぞ。皆の分もあるから食べてくれ』


 俺が弁当の入ったビニール袋を差し出すと、皆が「おお〜!」と歓声を上げた。俺は彼らにデミグラスハンバーグ弁当を配る。


『ほれ、チルチルの分だ』


「ありがとうごしゃいましゅ!」


 袋から漏れ出た匂いで察していたのだろう。チルチルは大量の涎を垂らしていた。


 さすがは食べ盛りの子供である。卑しいのがむしろ可愛いぐらいだった。


 するとエペロングがプラスチック製の弁当箱を見回しながら首をかしげ、こう尋ねてきた。


「シロー殿、これはどうやって開けるのですか!?」


『あ〜、そうか〜。弁当すら見たことないのか……』


 俺は暁の連中に弁当の開け方を説明してやった。それと同時に箸の使い方も教える。しかし、中世の異国民には箸の扱いは難しいらしい。まともに使えない。


 失敗だった。コンビニの店員にフォークをつけてもらうべきだった。それでも皆は箸で苦戦しながらも弁当を食べる。


「なんだ、この焼いた挽肉の上にかかっているソースは!?」


「旨い、旨いぞ!!」


「肉が柔らかい!?」


「アホーアホー」


「シロー様、美味しいでしゅう。こんなに美味しいお肉は初めてでしゅう!!」


『そうかそうか。チルチルが喜んでくれて嬉しいぞ』


 俺は必死にデミグラスハンバーグ弁当を頬張る皆を眺めながら、チルチルの頭を撫でてやった。皆が予想以上に喜んでくれていて、俺も嬉しかった。


 そして、食事が終わると俺は空の弁当箱を回収し、ビニール袋に詰めてゲートマジックの向こうに投げ捨てる。


 ナプキンで口元を拭きながら、プレートルが訊いてきた。


「シロー殿、あれは何という食べ物ですか……?」


『あれは我が国のデミグラスハンバーグ弁当って名前の食べ物だ』


「白い麦のような食べ物は?」


『あれは米だ。我が国では主食だな。こっちで言うところのパンの代わりだよ』


「なるほど……」


 今度はバンディが話しかけてくる。


「済まぬ、シロー殿。もし良ければ、あの伸びる棒を見せてもらえないか?」


 二段式警棒のことだろう。まあ、見せるぐらいならいいか。


『見せるだけだからな』


「忝ない!」


 俺は懐から折り畳まれた二段式警棒を取り出し、バンディに手渡す。


「おお〜、これは凄い!」


 バンディに二段式警棒の使い方を教えると、彼はしばらく伸ばしたり畳んだりを繰り返して遊んでいた。そして、一通り遊び終わると、俺に提案を持ちかける。


「シロー殿。宜しければ、これを売ってもらえないか。もしくは仕入れた場所を教えてもらいたい!」


『あ〜、それは無理だ……』


「なぜ!?」


『それは、とても高価な代物だ』


「それは作りを見れば重々分かる。それを察してもなお、欲しいのだ!」


 そこでエペロングとマージが割って入る。


「私も、あの刃が飛び出るナイフが欲しいです!」


「ワシも、あのビリビリする武器が欲しいぞな!」


『無茶言うな。どれも売れん……』


「そんな連れないことを言うな、シロー殿。あのビリビリは魔法ではないだろう。ならばこそ欲しいのじゃ」


「そうだ。あのナイフだって発射の際に気配も魔力も感じなかった。完全に虚を突かれた。そんな武器は普通ないだろう。だからぜひとも欲しいのだ!」


『まあ、言いたいことは分かるが……』


 俺は懐からスペツナズ・ナイフを取り出した。


『このナイフは、マジックアイテムではない。職人が作った道具だ』


「やはり……。だから発射の際に魔力すら感じなかったんだな」


『しかも、作るのに長い年月がかかる。それに作り方も職人しか知らない』


 嘘である。


『精密な技術、熟練の技、そして長い年月の結晶。それを二束三文で売るわけにはいかないよ』


「なるほど……」


「ならば、ビリビリの方は!?」


『あっちはもっと高価だ。しかも、あれは一回きりの武器でな。新しくチャージするには職人の元に戻さないといけない。一発撃つたびに金貨が数枚吹っ飛ぶ代物だ』


「そうなのか……。ぐすん」


 しょんぼりしたエペロングとマージが諦めかけたところで、バンディが割って入った。


「じゃあ、二段式警棒に大金貨一枚払おう!」


『なにっ!?』


 バンディの言葉に思わず目を丸くする。


 大金貨一枚——こっちの価値観では相当な金額のはずだ。まさか、そこまでの価値を見出すとは思わなかった。


『いやいや、いくらなんでも高すぎるだろう……』


「それほどの価値があると俺は判断した。あれほど精巧な武器は滅多にない。非殺傷武器としても優秀だし、携帯性も抜群。ぜひとも手に入れたい!」


 バンディは真剣な表情で俺を見つめてくる。他の連中も興味津々な様子で俺を見ていた。


 確かに、この世界の武器と比べれば、二段式警棒の強度や機能性は優れているかもしれない。だが、ゲートマジックを使えば俺はいくらでも現代の武器を持ち込める。一本ぐらい売っても問題はない……か?


 いや、待てよ。


 俺が現代の道具を売る前例を作ってしまったらどうなる。こいつらが味をしめて、次から次へと「売ってくれ」と頼まれるかもしれない。それに、俺の持ち込む武器や道具が流通すれば、俺の正体や能力が余計に怪しまれる可能性もある。


 だが、大金貨一枚……。それは魅力的だ……。


 金塊30グラムのノルマを考えれば、少しでも資金は確保しておきたいところ。


『……分かった。ただし、条件がある』


「おお、言ってくれ!」


『これは俺の国の貴重な武器だ。迂闊に他人に見せたり、売ったりするな。あくまでバンディ個人の装備として使うこと。いいな?』


「承知した!」


 バンディは満面の笑みを浮かべ、大金貨一枚を俺の手に置く。俺はそれを指で弾いてみた。硬貨のずっしりとした重みが手に伝わる。


 俺は二段式警棒を手渡し、バンディは慎重にそれを受け取ると、何度も伸ばしたり縮めたりして感触を確かめていた。スカーフェイスの顔が満面の笑みに緩んでいる。


「これは……素晴らしい。シロー殿、良い買い物をさせてもらったぜ!」


 エペロングとマージが羨ましそうにバンディを見つめる。


「ぐぬぬ……次こそは、あのビリビリする武器を手に入れてみせるぞよ!」


「俺も、もう少し金を貯めたらナイフを買ってやるぜ!」


『誰も売ってやるとは言ってない……』


 こうして、俺の異世界初の武器取引は幕を閉じた。


 ……まあ、今後の対応は慎重にしないとな。



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