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29【自分の道】

『ちゃんと話し合いたいから、あんたらは少し待っててもらえないか』


「ああ、分かった。二人でじっくり話し合ってくれ」


 俺はチルチルを連れて少し離れた場所で話し合うことにした。川沿いの土手に腰掛けながら二人で話す。


『チルチル、君は親に捨てられたと言ってたよね』


 草原で初めて出会った時に、そのように言っていたと俺は記憶していた。だが、エペロングの話では、チルチルのお母さんが彼女を探していることになっている。


『俺は、チルチルが行き場がないと言うからメイドとして雇ったのだ。なのに話が違う』


「………」


 しかし、俺に問われたチルチルは俯いたまま目を逸らして何も話してくれない。


『黙っていても、分からないぞ、チルチル……』


 俺がチルチルの肩に手を添えると、やっと彼女が話し出す。


「私を捨てたのは、父です。ですが、母が反対して、私を町外れの空き家に匿っていたのです……」


 父親は娘を捨てたが、母親の意見は違ったのだろう。普通なら娘を簡単には捨てられないはずだ。これは父親が異常で、母親が普通の感情を持ち合わせていると言えるだろう。


『なるほど、それで少し話がおかしかったのか』


「ですが、離れの家には私が一人で暮らしていたために、人攫いに目をつけられ、攫われたのです。なにせ、アルビノの獣人は珍しいから……。人攫いも言ってました。私は高く売れると……」


『そこを俺が助けたってわけか』


「はい……」


 話が繋がった。チルチルは俺に嘘はついていなかった。それで少しホッとする。


『それで、チルチルは母親のところに帰りたいのか?』


 そこが重要な問題だ。それ次第で話が大きく異なってしまう。


「母の元に帰っても、実家には入れてもらえないはずです。また離れに追いやられるのがオチだと思います。それならば、シロー様と一緒に居たい……」


 泣けることを言ってくれる。もしも年頃が一緒ならば嫁に貰いたいぐらいだ。


 しかし――。


『俺は構わんが、それだとチルチルの母親が納得しないだろう。だから冒険者を雇って探しにきたんだろうからな』


「はい……」


 チルチルは寂しそうに指先で地面をグリグリとしている。物心付いた娘が親に捨てられ、見知らぬ骸骨と二人で旅をしているのだ、かなり複雑なのだろう。


『ならば、一度チルチルの母親に会いに行こうか』


「えっ?」


『それで、俺のところでメイドを行う許可を得よう。そうしたのならば問題ないだろう』


「で、でも……」


 まあ、問題はなかろう。一度捨てた娘の行く末を本人がどのように決めても何も言えないはずだ。


 親としての義務を放棄したのだ。それならば彼女がどう生きようが口出しできないのが筋である。


『どうする、チルチル。パリオンまで行くかい?』


「ですが、シロー様が……」


『俺とて一度はパリオンを見ておきたい。それもついでだから、一緒に母親に会いに行こうじゃないか。それで、きっぱりと自分の口から告げるんだ』


 俺は仮面の下で微笑んだつもりだった。


『自分の道は、自分で決めると言いなさい。母親にさ』


 チルチルは大きな目で俺を見つめながら返事を返す。


「はい、シロー様!」


『よし、決まりだ』


 俺は踵を返して暁の五人に歩み寄る。


『暁の衆、済まないが、お前たちの依頼主のところまで案内してもらえないか』


「本当ですか、旦那!」


『ああ、チルチルを連れてパリオンに向かいたい』


「助かります、本当に!」


 こうして俺たちのパリオン旅行が急遽決まった。それで、暁の冒険団がツアーガイドを果たしてくれることとなる。


『すまんが、その前にサン・モンでやるべきことがあるから、それを済ましてからな』


「「「「「はいっ!」」」」」


 その後に俺は、チルチルと五人組に飴ちゃんをあげるとアサガンド商店に向かった。そもそもがアサガンド商店に向かう途中だったのだ。そこでたまたま五人組と出会ってバトル開始となったわけで……。


 そして、俺はアサガンド商店の入り口をくぐると店主を訪ねる。


『毎度〜。ピノーさんはいらっしゃいますか?』


 俺が店員さんに挨拶をすると、奥から店主のピノーが現れた。


「おお、これはこれはシロー殿。早いお越しで!」


 俺とチルチルはいつも通りに奥の客間に通される。


『ピノーさん、早速だが胡椒の小瓶を二十個仕入れてきた。買い取ってもらえないかな』


「おお、これは早いお仕事ですな!」


『それと、しばらくパリオンに旅行に行くことになったから、数週間は顔を出せない』


「ま、誠ですか……」


 唐突にピノーの表情が崩れた。ガッカリとしている。


『心配しないでくれ。ちゃんと帰ってくるからさ』


「か、かしこまりました……」


 ピノーは不安気な顔を崩さない。せっかくの金蔓を逃してしまったかのような態度である。


『だから次の仕入れは来月になる。またその時によろしく頼むよ』


「はい。では、本日のお代を今お持ちします」


 そう言い一度奥に引っ込んだピノーさんは30000ゼニルを持って戻ってくる。


 赤いシーツの掛けられたお盆の上に三枚の金貨が置かれていた。これが小金貨なのだろう。初めて見る金塊である。


『よし、これで旅の支度金ができたぞ。馬車でパリオンまで行ける』


 出発は早いほうが良いだろう。明日の朝には出発したいものである。



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パリオンでも販路ができるね。
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