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27【現代の武器】

 サン・モンの町の防壁に夕日が沈みかけている。そこは町外れの川岸。石橋の上からシローが見下ろしてみれば、数人の知った顔が並んでいた。


 双剣の男。メイスを振り回していた男。向かいの屋根から狙撃をしていた女。その他に長剣を背負った男と魔法使い風の女が混ざっている。


 片や橋の上。片や橋の下。両者の目が合うと、互いに間抜けな声を溢してしまう。


『あいつら……』


「あの野郎は!」


 唐突な出会い。それに素早く反応を見せたのはショートヘアーの女だった。肩に担いでいた弓矢を構えて橋の上の俺を狙ってくる。


『させるか!』


 俺は女が矢筒から抜き取った矢を弦に揃えるよりも早く懐から携帯用の武器を取り出すと女に向かって投擲した。


 ワンハンドのスイング。投げた武器は手裏剣だ。


 古来から日本の忍者に伝わる携帯用の投擲武器。十字に四方向すべてに刃が設けられた武器で、どれだけ下手くそが投げても目標に刺さる優れ物の投擲武器である。


「うわっ!」 


 投げられた十字手裏剣は狙いを外すが、偶然にも女が持っていた弓矢の弦を断ち切った。上出来な結果である。


『チルチル、頭を低くして隠れてなさい』


「はい!」


 俺に言われた通りにチルチルは欄干よりも頭を低くして身を屈めた。それを確認した俺は欄干を片手で飛び越えると橋の下に飛び降りる。


 橋から土手下まで4メートルぐらいだっただろうか、その高さを俺は難なく着地した。


『今度は逃さねぇぞ!』


 声色を怒らせながら俺は懐から次の携帯武器を取り出した。腕を振るって武器を伸ばす。


 ガチャガチャと音を鳴らして伸びる警棒は、二段式警棒。26センチ程度の長さが三倍の78センチぐらいまで伸びる。


「なんだ、あの武器は……」


 長剣を背負っていた男が様子を見る中で、怒りの血管を額に浮かべるスカーフェイスの男が双剣を抜いて走り迫ってくる。


「スキル、速度向上。今度こそぶっ殺してやるぞ!!」


 スカーフェイスの全身が緑色に淡く輝いた。


「まて、バンディ。早まるな!」


 長剣の男が止めていたが双剣の男は指示を聞かない。二本の刃を巧みに振り回しながら切りかかってきた。


『一見複雑に見えて、その軌道は単純。もう読まれてるんだよ。あんたの剣技はさ』


 そう述べると同時に俺は手にある二段式警棒を双剣使いの足元を狙って投げつけた。その一撃は双剣使いの突撃を止めただけでなく、脛にめり込み苦痛を与える。


「がっ、なに!?」


 双剣使いの脚が止まった。そこに今度は俺が突っ込む。ロングステップからの左ジャブ。瞬速の一打がスカーフェイスの鼻を潰す。パチンっと乾いた音が鳴ると鼻血が舞う。


「ぐはっ!」


 痛みに目を瞑るスカーフェイスに大きな隙が生まれた。そこにフィニッシュの上段回し蹴りを頭部に打ち込んだ。その蹴りはモロに頭を捕らえて体躯を真横に飛ばして川に落とす。


『浅い川だ。溺れはしないだろう……』


「ぬぅぉおおおおおおお!!」


 続いて怒号を叫びながら巨漢の神官が走り迫ってくる。肉付きの良い肩を突き出し突進してきた。


「スキル、防御力向上!!」


 神官の巨漢が青色に輝く。


「押し通る、猛虎破局道ぉぉおおおお!!!」


 そのタックルに俺はアイテムボックスを開くと中から小麦の粉を取り出し神官に投げつけた。目眩ましである。


「ぐぁ、目が、目がぁ!!」


『お前も川に落ちて頭を冷やせ!』


 俺は神官の眼前でジャンプした。そして、空中で膝を抱えるように体を丸める。


『狙いはOK!』


 両足の隙間から小麦の目眩ましに苦しむ神官の顔を確認する。そこに全身のバネを使ったドロップキックを打ち込んだ。両足で神官の顔面を蹴り飛ばす。


「ぐへっ!」


『よっ!』


 俺は神官を踏み台に空中で一回転すると足から綺麗に着地した。一回転ドロップキック成功である。練習した甲斐があったってものだ。


 すると神官は数メートルぶっ飛んで川に落ちた。これで小麦も洗い落とせるだろう。


『残るは、三人!』


「ぬぬっ!」


 今度は長剣を背負っていた男が、自慢の剣を抜く。そして、邪魔な鞘を投げ捨てた。


「貴様、戦闘慣れしているな――」


 言いながら男は長剣を頭よりも高く振りかぶる。剣道で言うところの上段の構えだ。


 見るからに男の長剣は2メートル以上の長さがある。それは、途方もなく長い間合いの剣だろう。


 だが、間合いが長い分だけ利点もあれば、欠点もある。欠点は、長い分だけ振りが遅くなること。瞬発力に欠けてしまうのだ。それを補うための上段の構えだろう。


 リーチが長い分だけ先手が取れる。ゆえに防御を捨てて初弾に賭けた型なのだ。


「スキル、攻撃力向上。防御力向上。速度向上!!」


 上段に構える男の体が、赤、青、緑と三色に輝く。


「頭から真っ二つにしてやるぞ!」


 そう述べる男に対して、無手の俺は次の武器を取り出した。懐からコンバットナイフを抜き取る。


 刃渡り15センチ、全長30センチのナイフは、刀身の背が鉄条網を断ち切るようにギザギザとなっている。


 そのナイフを俺は中段に構え、刃先を男に向けた。


「そんな小さなナイフで、俺の長剣と渡り合うつもりか?」


『これで十分だ――』


「間合いでは長剣のほうが圧倒的に有利。ならばナイフで勝つには、スピードで懐に入り込むしかないだろう。貴公は、それほどのスピードを有しているのかね?」


『試してみれば分かる――』


 刹那、ガシャーンッと金属音が鳴り響いた。


 その瞬間、コンバットナイフの刀身だけが発射され、長剣使いの腹に突き刺さる。それはプレート装甲を貫いていた。


「がっ!?」


『スペツナズ・ナイフだ。この世界にはない武器だろう』


 長剣の男が武器を落とし、膝から崩れた。その口から血を吐く。


「げほっ、げほっ……」


『命に関わるような内臓は避けて撃った。すぐには死なないだろうから、後でヒールでももらいな』


「ク、クソ……」


 長剣の男が仰向けに倒れると、それを見ていた魔法使いが両手を上げ、魔法を唱え始める。


「こうなったら、ワシのファイアーボールで消し炭にしてやるわい!」


 魔法使いの頭上に火球が燃え上がる。あとは俺に投げつけるだけだろう。


 しかし、俺は彼女に向かって腕を伸ばした。すると、僅かな金属音を鳴らして俺の袖から黄色いプラスチックの拳銃が飛び出してくる。スリーブガンだ。


 袖の下に仕込む装備で、肘を伸ばすことで作動し、手首に隠してあった武器を即座に手元に出す仕組みである。


 そして、スリーブガンに備えてあったのはテイザーガンだった。


 俺はスリーブガンからテイザーガンを受け取ると、容赦なく引き金を引いた。すると、テイザーガンから二つのスパイクが発射される。テイザーガンの射程距離は約10メートル。十分な距離だった。


 テイザーガンのスパイクは魔法使いの豊満な胸に突き刺さる。スパイクに繋がれたワイヤーから、100万ボルトの電流が流れ出た。着弾と同時にガジガジガジっと激しい電気音が鳴り響く。


「ぃぃぃいぃい、ぃぃいいぃいぁあ!!!!!」


 魔法使いの女は、悲鳴にならない悲鳴を上げながら体を引きつらせる。立ったまま硬直して震えていた。その顔は激痛でグシャグシャだった。


 そして俺が引き金から指を離すと、魔法使いの女は泡を吹いて倒れ込んだ。電撃で気絶したようだ。


『さすがはアメリカンポリスの御用達装備だ。凄い威力だな……。あとは――』


 残っていたショートヘアーの女と俺との目が合った。女の額から冷や汗が流れているのが分かる。


『まだ殺るかい?』


「降参します……」


 女は両腕を高く上げると微笑んだ。命乞いをする。


 そして、「アホーアホー」っと橋の上でカラスが鳴いていた。




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