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26【暁の冒険団】

 町外れの川沿いに石橋が架かっている。その石橋の苇に五人の冒険者がたむろっていた。


 一人は長剣を背負った大男。一人は弓矢を担いでいるショートヘアーの女性。一人は神官風の巨漢。一人は顔に二つの傷が刻まれている男。最後の一人は魔法使い風の女性だった。肩にはカラスが止まっている。


 暁の冒険団の五名である。


 魔法使いの女は腰掛け石に座りながら長い足を組んで煙管を吸っていた。そして、夕日が沈みかけた赤い空に向かって煙管の煙を吹くと言う。


「それでぇ〜、なんで失敗になったわけじゃ?」


 ショートヘアーの女性は、心無いようにスカーフェイスを指さしながら責任を押し付ける。


「それはやっぱり突入部隊がヘタこいたからじゃないのかな。私は狙撃で確実なサポートは果たしていたわよ」


 スカーフェイスは俯いたまま黙っていた。誰とも視線を合わせようとしない。


 しかし、そこに反論したのは、同じく突入を敢行した神官風の男だった。


「拙僧らには落ち度はないぞ。そもそも相手はただの商人だったはず。その男からお嬢様を連れ去るだけの仕事だと聞いていたぞ。なのにあれはベテラン戦士の動きだったわい。話が違うぞ」


 長剣を背負う男が頭をかきながら述べる。


「済まん、その辺は情報収集を行った俺のミスだろう。まさかあの男が、それほどの腕を持っていようとは思わなかった。情報収集を怠っていたのは否めない」


 ショートヘアーの女性が呆れるように述べる。


「そもそもさ、あののっぽの商人は誰さ。あんな目立った身形なのに名前なんか知らないわよ。無名の新人が、目立ちたいからって調子こいているのかな。それにしては強すぎない?」


 長剣の男は自分の無精髭を撫でながら言った。


「俺が調べたところだと、最近モン・サンの町に現れた旅商人で、アサガンド商店に荷を降ろしているとか……」


「あの黒いお面は何さ?」


「酒場に出入りしている冒険者の話だと、何でも野盗に顔の皮を剥がされたとか言っていたらしい」


「うわ、キモ……」


 神官風の男が指の関節をポキポキと鳴らしながら述べた。


「そのキモい御仁が、ティルール殿の狙撃をかい潜りながら、拙僧とバンディ殿の猛攻を凌いだのは確か。この事実は変わらないぞ」


 魔法使いの女が述べる。


「できる人物ってのは確定じゃの〜。しかも手強い」


 そこまで黙ったまま話を聞いていたスカーフェイスの男が顔を上げた。その顔は怒りで歪んでいる。額に複数の血管が浮き上がっていた。


「あいつは、俺が絶対に殺る……」


 そう呟いた口元には前歯がなかった。上顎の前歯が四本なくなっている。シローに正拳突きでへし折られた傷である。


「ぷっ……」


 その顔を見て魔法使いの女が少し吹いていた。我慢はしているようだが漏れてしまったらしい。


 神官風の男が済まなさそうに謝罪する。


「済まぬでござる。拙僧がグレーターヒールを使えないばかりに前歯を失ってしまって……」


 一般的なヒールは傷を癒せるが、失った部位までは復元できない。スカーフェイスの前歯は宿屋の床に落としてきた。もしも、それがあったのならばヒールでも前歯をくっつけることはできたのだが、前歯は落としてきてしまったのだ。その場合は、グレーターヒールで生やすしかないのである。


 ちなみにグレーターヒールは上位回復魔法のため、ヒーラーならば誰でも使えるレベルの魔法ではない。事実、神官風の男も使えないのだ。


 だから大金をはたいて神殿でグレーターヒールをかけてもらうしかない。


 煙管の先を長剣の男に向けながら魔法使いが言う。


「ペテロング、これからどうするのじゃ。作戦はあるのかえ?」


「そんなもんはないぞ。ただ、野郎からお嬢様を奪い取って、奥様に送り届けるだけだからな」


「それが、簡単にいかないから困ってるんでしょう」


「誰か、何か、名案はないか?」


 座っていたスカーフェイスが立ち上がると握りこぶしを顔の前に突き上げながら述べた。


「あれは化け物だ。俺は確かに腹を剣で割いたはず。なのに反撃を打ってきたぞ……」


 ショートヘアーの女が続く。


「私も一撃は与えたはずよ。なのに彼奴は倒れなかったわ。これっておかしくない?」


 狙撃で胸を貫いたのは確かである。


「おかしいのぉ〜、不可解じゃのぉ〜。そいつは本当に人かえ?」


「何か、魔物の類かと?」


「仮面と言い、切られても倒れないと言い、何かしらの不思議が働いているのは間違いないじゃろうて」


「ならば、どうする?」


「「「んん〜……」」」


 四人が腕を組んで悩んでいると、魔法使いが能天気な発言を放つ。


「やはりここは、ワシのファイアーボールで爆殺あるのみじゃあのぉ!」


「また、それか……」


 魔法使い以外の四人が頭を抱えて俯いた。


 その時である。橋の上からこちらを見下ろしている人物の視線に魔法使いが気が付き、上を見る。


「あっ……」


『あっ……』


 上を見上げながら固まる魔法使いの様子に四人が上を見上げる。


「「「「あっ……」」」」


 そこには知った顔があった。


 否。知った仮面である。


『テ、テメーら!!』


「あぁぁああああ!!!」


 それは黒装束で仮面の商人、シローだった。





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― 新着の感想 ―
なんだろう、こう、彼らにドロンジョ一味さを感じるのは
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