241【暗殺剣】
無敵宣言を終えたチェサーが、剣を下ろして胸元で横に構える。刃先はシローに向けられた。
『次は突き技か……』
「正解だ!」
『だが、その前に――』
シローが気を集中させた。それを見てチェサーは首を傾げる。
『ボーンリジェネレーション!』
「回復魔法か?」
すると、シローの足元に落ちていた足の小指が元の位置に戻ってくっついた。しかし、切断された腕は戻って来ない。
『畜生……。魔法の効果範囲外か……。ならば!』
片腕のシローが前に走り出す。それを見たチェサーも走り出した。
「させるか!」
シローの切断された腕は3メートルほど先。二人の中間地点。シローのボーンリジェネレーションの効果範囲は1メートル程度。切り落とされた腕まで接近しなければ修復できない。
「先手はもらった!」
リーチの差で先に届くチェサーが剣を突いて来る。
「南星垂直剣!」
真っ直ぐに突き出される剣の突き技。狙いは髑髏の眉間。一撃で額を貫こうと突いて来る。
しかし、シローは頭蓋を反らして突き技を回避する。頬骨を掠めた剣が横顔を過ぎて行くが、シローの突進は止まらない。そのまま突き進み拳の間合いに入り込む。
『ストレート!』
剣先を躱したシローが反撃のストレートパンチを繰り出した。鋭い拳がチェサーのイケメンを狙って突き迫る。メリケンサックのチタンが襲い来た。
「食らうか!」
だが、チェサーも首を傾げてストレートパンチを回避する。イケメンの横を拳が過ぎた。チェサーの鼓膜に突風の音が鳴り響く。
そして、互いの突き技を回避し合った二人の顔面が接近して額をぶつけ合った。しかし、それでも引かない。互いに押し合う。
「このクソッ!」
『調子に乗るなよ、糞餓鬼が!』
スルリと体を捻りながらシローがチェサーの首に腕を回す。そして、腰で体勢を払いながら投げを仕掛ける。
『首投げ!』
「ぬぬっ!」
空中を渦巻くチェサーの体が風を切る。しかし、その流れにイケメンは逆らった。投げよりも速く跳ねて速度に逆らう。その勢いでシローの背中を錐揉みしながら飛び越えていた。
「よっと――」
『なぬ……?』
投げたはずのチェサーがシローの眼前に着地する。二人は再び向かい合って視線を並べた。
「肘っ!」
チェサーの肘鉄が振られた。シローの顎先を狙って振られた肘打ちだったが、シローは身を引き回避する。それと同時に下段廻し蹴りを放っていた。
しかし、チェサーも反撃の下段廻し蹴りを飛び越え回避する。
そして、高くジャンプで回避したチェサーは2メートルの高さから剣を振るってきた。
『南星水鳥剣!』
空中から振られたチェサーの剣が太陽光を反射しながら空気を切り裂いた。その太刀筋は流れるように美しく輝いて映る。閃光が芸術的に光って見えた。
「フォオオオオ!」
『むむ!』
体を低く屈めて斬撃を回避するシローの足元に自分の左腕が目に入った。それを髑髏が口を開いて咥え込む。そして、今度は跳ねるように垂直にジャンプした。ロケットのような頭突きでチェサーの腹部を打ち上げる。
「ゲブっ!!」
シローは頭突きの直後に体を回転させるとオーバーヘッドキックを蹴り出した。頭突きに続いて回転蹴りでチェサーを蹴り飛ばす。
「かはっ!」
蹴り飛ばされたチェサーが地面に背中から落ちると、シローは綺麗に着地する。その口には自分の腕が咥えられていた。
『ボーンリジェネレーション』
アンデッドのテレパシーで魔法を唱える。すると口にあった腕が右肩に戻って修復される。さらには地面に落ちていた手首も元の位置に戻って再生された。
『ふっ。何が無敵だ、小僧。あまり強い言葉を使うなよ。弱く見えるからな!』
チェサーが立ち上がる。
「我が南星剣を舐めるでない!」
チェサーが仕掛ける。ワンステップのジャンプ。それでシローとの間合いを一気に詰めると二人の距離が1メートルと縮まる。その距離でチェサーが剣を振るった。
「南星爆殺剣!!」
剣の一振り、その一振りで刀身から爆炎が噴き出した。火炎がシローを包むように襲う。マジックアイテムの魔法攻撃だった。
『空手道、廻し受け!』
シローは開いた手の平を前に両手で円を描きながら廻して見せる。その円形速度はスムーズで快速。そして、その流れが爆炎を掻き消した。炎が散り散りに拡散する。
「ええっ……」
『小細工に頼り始めたら、終わりだぞ』
シローが渦を巻きながらしゃがみ込む。そして、下段の高さから廻し蹴りを突き上げた。その蹴りがチェサーの腹部を突き上げるとイケメンが空中に蹴り上げられた。
「ぐはっ!」
チェサーの体が飛んで行く。それは、場外を目指していた。そして、ルイス国王が観戦していたテラス席まで届いた。二階テラス席に背をぶつけ手摺に両腕を乗せて引っ掛かってしまう。
『う〜〜ぬ。飛んだな〜』
シローが呑気にチェサーの姿を見上げる。そのようなチェサーの背後で女性の声が囁かれた。
『策戦通りじゃの〜』
「まだ、黙ってろ……」
そう呟くチェサーがバク転しながらテラス席の手摺に立ち上がった。彼の背後にはルイス国王陛下が玉座に座りながら微笑んでいる。思わぬハプニングに国王は喜んでいるようだ。
「好機!」
そして、チェサーは振り向きざまにルイス国王に剣を振るった。叫びながら首を狙う。
「ルイス国王、お命頂戴いたす!」
不意打ち。その一振りは暗殺の行為。テロリズムな一太刀が国王に迫った。
「させるか、賊め!」
隣に座っていたフィリップル将軍が剣を抜刀してチェサーの暗殺を防ごうとした。しかし、その太刀は間に合わない。
「国王っ!!」
チェサーの剣がルイス国王の首に届いた。――届いたが、止まる。チェサーの剣はルイス国王の首元で停止していた。
「な、なんだと……」
驚愕していたのは暗殺を試みたチェサーだった。完璧なタイミングの斬撃が止められたのだ。しかもそれは、国王自らが指先で剣を摘んで止めていたから驚いていたのだ。
「う、嘘だろ……」
「嘘ではない。フランスル王国の国王を舐めるな」
そして、ルイス国王は懐からL字武器を取り出してチェサーに銃口を向ける。
「暗殺は、失敗だ」
発砲音。闘技場に轟音が轟いた。手摺の上で剣を突き出していたチェサーの体が一階に向かって落ちて行った。




