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229【スケルトンの挑発】

 シーンは少し巻き戻る。


 眼前で憤怒に任せて全身から鋭い針を突き出すエピヌー・プルにシローが質問した。


『なあ、その針は闘士部門では反則にならないのか?』


「ならないのよ。これはあたいの固有スキル。体質が生み出した、ただの鋭い皮膚。魔法でも何でもないわ!」


『そうなのか――』


 その刹那、エピヌー・プルが誰にも知られない戦法で不意打ちを仕掛けた。


 それは、含み針――。


「ぷっ、ぷぷぷぷっ!!」


 唐突に口内から複数の針を吹き飛ばしてきたのだ。その含み針でシローの顔面が突き刺される。針は眼底にまで届いていたがシローには瞳すらないので関係ない。要するに、効いていない。


 その途端、シローが骨の手を伸ばし、エピヌー・プルの首を鷲掴みにした。喉輪での反撃である。


「うっ!!」


 凄い怪力だった。これが筋肉が無い骨だけのパワーとは思えない程の力である。エピヌー・プルは顔を真っ赤にさせながらシローの腕を叩いた。しかし、ビクともしない。


『この闘技場は、針だけで勝ち上がれるほど、お粗末なのか?』


 そう言いながら、片腕で彼女の軽い体を持ち上げた。ワンハンド・ネックハンギングツリー。プロレスの力技である。


『小細工とは――』


「こ、この骨野……郎……がぁ……」


 エピヌー・プルの針はシローの骨に刺さっていない。針の隙間を縫って彼女の首を締め上げている。


『笑止千万!』


 シローは彼女を掲げたまま後ろへ振りかぶる。そこからエピヌー・プルの下半身に外側から足を掛けると前に振り下ろす。


 空中でエピヌー・プルに大外掛けを掛けた形になっていた。そして、彼女はシローに背中から力強く地面に叩きつけられたのだ。しかもフルスイングで――。


 要するに、シローが仕掛けたのは「技」である。ただの力技ではなく「格闘術」の類であった。


「……がっ……がぁ……」


 地面に叩き付けられたエピヌー・プルは、陸に釣り上げられた魚のように口をパクパクさせている。倒れたまま背を反らせ痙攣していた。おそらく呼吸ができていないのだろう。


 一発でKOだった。


『早く医務室に連れて行ってやれ――』


 シローの言葉にエピヌー・プルがタンカーで運ばれて行った。それを観客たちは静まり返りながら見送った。


 何人かの闘士は引いている。自分の実力とシローの実力を鑑みるからに勝敗が心の中で知れたのだろう。完全に怖気付いている。


 闘士たちの列に向き直ったシローがシリヌ・カールを指さしながら言う。


『お前と――』


 続いてポニーテールの剣士を指差しながら言う。


『お前と――』


 次に巨漢の髭男を指さしながら言う。


『お前と――』


 最後に黒いプレートメイルを着込んだ騎士を指差す。


『お前ぐらいかな。俺とまともに戦えるのは――』


 シローに指さされたのは総合最強部門の上位ランカーばかりだった。しかし、指名されなかった者たちのヘイトを集めている。


「ふざけるな、髑髏野郎!!」


 前に出てきたのはサイの獣人だった。


 頭部がサイで鼻の頭に鋭い角が生えている。巨漢の全身はフルプレートで身を包み、両手にはサイの角をオマージュしたような武器を持っていた。


 観客たちがどよめく。


「三角鈍剣のサイザレスだ!」


「純戦士部門のランキング五位のサイザレスが出てきたぞ!」


「見せてくれ、お前の破局道を!!」


 シローは観客の声援を聞きながらサイザレスを煽る。


『凄い人気だな、サイ男さんよ』


「舐めるな、スケルトン風情が!!」


 巨漢を揺らしながらサイザレスが前に出てくる。その両手には二刀が握られていた。それはサイの角が二本。刺すことを重視した武器である。


「ブチかます!」


 サイザレスは蹲踞の姿勢で腰を落とした。まさに相撲のブチかましを狙っている姿勢である。


「ぬぬぬぬぬっ!!」


 蹲踞で力を溜めるサイザレスに対してシローは棒立ちで待ち受ける。自分からは仕掛ける様子は窺えない。返り討ちを狙っている様子だった。


 しかし、サイザレスも蹲踞のまま動かない。仕方ないとシローから前に歩み出した。


 そして、シローがサイザレスの間合いに踏み込んだ。途端、サイ男がブチかましを放つ。


「死ね。三角破局道ぉぉおおおおお!!!」


 サイザレスは両手の角剣と鼻の角を突き出しながら、シローに向かって突進した。三本の角で串刺しを狙っているのだろう。


「どぉぉおおおおおおっ、すこい!!」


『ふっ!!』


 サイザレスの突進が激突するかと思えた瞬間にシローがカウンターを放つ。


 それは、中段前蹴り。


 シローの鋭い中段前蹴りが、角で結ばれた三角形の中心に打ち込まれる。そこは胴体の中央、水月――鳩尾だった。


「っが!!!!」


 中足の先がサイザレスの鳩尾に突き刺さる。その一撃で突進が止まるだけでなく、サイザレスの巨漢が鎧だけを残して後方に飛んでいったのだ。


 着ていたプレートメイルの背中が割れて、セミが脱皮するかのように鎧が剥けると、中身だけが後方に飛んでいったのである。


 サイザレス本体は闘技場の壁に激突して止まったが、着ていた鎧だけがシローの前に立ち尽くしていた。


「ぁ……がぁ……」


 壁に寄りかかりながら座り込むサイザレスは白目を向いていた。口からは涎を垂らして気絶している。


 再び会場が瞬殺撃に静まり返っていた。


 シローは残った闘士たちに述べる。


『俺は構わないぜ。全員順番に相手をしてやってもよ!』




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