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225【乱入事件】

 アルル円形闘技場には、ランキングが存在している。


 素手で戦う拳闘士部門。すべての武器が許されているが、魔法や魔法道具の使用が禁止されている純戦士部門。そして、魔法や魔法道具を含めたすべての攻撃が許された総合最強部門。それら三種でランキング分けされている。


 男女関係なく、それぞれの部門にランキングが設定されており、そのランクを順位として闘士たちが競い合っているのだ。


 そして、ランカーには賞金首のような賞金が掛けられている。闘士が対戦相手を倒すと、そのランカーに掛けられている賞金が貰えて、さらには、その闘士が倒したランカーよりも格上ランカーならば、ランキングが入れ替わるといったシステムである。


 最終的にチャンピオンに昇格した者に対しては、対戦相手を十人連続で倒すと殿堂入りが確定して、国王から貴族の称号と、指定された土地が褒美として貰えることになっている。


 さらに、殿堂入りした闘士は、将軍として召し抱えられることもあるらしい。


 一介の闘士が、貴族や将軍になれるのだ。これはビッグチャンスとして、多くの闘士たちが殿堂入りを目指すのである。


 しかし、闘士の世界は厳しい。生きたまま引退できるかも疑問である。無事に引退できても、手足の一本ぐらいは失っている者も少なくないのだ。


 それだけ、暴力と殺戮だけで富と地位を手にするのは難しいのだ。その難しさは、戦争の戦果だけで出世するのと同じぐらいの難易度である。


 要するに、多くの闘士はコロシアムで命を落とす。


 さらにはアルル円形闘技場の長い歴史の中で、殿堂入りした闘士の数も少ない。ほとんどが十人連続防衛戦を達成できないのだ。途中で試合続行が不可能な傷を受けるか、死んでしまうのだ。


 そして、シローたち三人がコロシアムに不法侵入してから二日後、試合が行われることとなっていた。


 午前中から第一試合が始まり、第二十試合が始まるのが夕方頃と予定されている。


 その日の昼には、フランスル王国国王、ルイス・ドド・ブルボンボン十三世が観戦する予定となっていた。ゆえに、第二十試合はチャンピオンの防衛戦である。ビッグマッチが用意されているのだ。


 そして、時間帯は早朝。その日はビッグマッチが控えているとあってコロシアムには朝から席を求めて多くの人々が集まっていた。


 基本的に、コロシアムの三等席は無料である。観覧料を取るのは貴族たちや金持ちたちが座る一等席や二等席からなのだ。これは、古代ローマのコロシアムとシステムは一緒である。


 コロシアムの席は、三等席がほとんどだが、戦いが観覧しやすい最前列やテラス席などは一等席である。


 三等席の役目はガヤである。そして、無料で国民にコロシアムの試合を見せるのはガス抜きと言われていた。国民たちが抱く不満から王国への目をそらすための手段だと言われている。


 まあ、そのような政治的な話はシローにとってはどうでもよかった。シローはシローでコロシアムを楽しめれば問題ないのだ。政治なんてどうでもいいのだ。


 そのシローが、観客が入り始めたコロシアムの会場ど真ん中に座っていた。グラウンドのようなフィールドの中央に、ドォーンと胡座をかいている。完全な不法侵入だった。


 それを見てざわめく観客たち。


「なんだ、あいつ?」


「何でも朝から座っているらしいぞ……」


「なんでさ?」


「知るかよ、本人に訊いてみろよ」


「警備兵は、どうしたんだ? 仕事しろよ」


「朝一で、野郎を退去させようとして、全員が返り討ちに遭ったらしいぞ」


「マジか!?」


「すごい大乱闘だったらしい。俺もそれを見たかったな〜」


「確かにそれを見過ごしたのは勿体ない話だな!」


「だろ〜」


「おい、警備兵! もう一度、あの野郎を退去させろよ。男だったらチャレンジだ!!」


 闘技場の外周に立っていた警備兵が、観客のヤジに答える。


「お前がやってみろ! 今日だけは会場に乱入するのを許してやるからよ!!」


「ふざけんな! お前たちがやれよ! 警備兵なんだろう! 仕事しろ、仕事を!!」


「勝手ばかり言いやがって……」


 小声で愚痴りながら警備兵は額にできた痣を擦った。朝一でシローを追い出そうとして作った痣である。


 警備兵たちは、二十人の大人数でシローに挑んだのである。しかし、まったく敵わなかった。大の大人たちが二十人がかりでも、シローに汗すらかかせられなかった。


 そして、警備兵の隊長が述べていた。


「あれは、チャンピオンレベルの強者だぞ……。俺たちが敵うわけがない……」


 その言葉で警備兵たちは、シローの強制退去は諦めた。何せ警備隊長は、かつては純戦士部門のランカーだったからだ。純戦士部門ランキングで十二位に入っていた男が言うのだから間違いないだろう。


 警備兵たちが知る限り、チャンピオンの強さは異次元だ。一般兵が百人掛かりでも敵わないと知っている。


 それほどの強さを有した人間が、黙って会場を占拠しているのだ。彼らではどうにもできないのが現状である。


 そして、闘技場には続々と観覧者が集まってくる。その観覧者たちに混ざって二人のメイドが観覧席からシローを見守っていた。


 小さな白髪の獣人メイドが金髪メイドに問う。


「ヴァンピール男爵様に、連絡は取れたのですか?」


「はい、伝書鳩で連絡が取れました」


「それで、どうでしたか?」


「有給の延長は却下されましたが、シロー様の行く末を見守ってから帰って来いとの指示です」


「それって?」


「仕事としてパリオンに滞在が許されました」


「ソフィア様、良かったですね」


「ありがとうございます、チルチル様――」


 そう話しながらメイドたちは、シローの様子を冷静に窺っていた。周りの観客はざわめくばかりである。

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