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23【襲撃者】

『畜生。ウェアに穴が空いちゃったぜ……』


 シローの胸元には矢が貫通して穴が空いていた。背後の壁にも穴が空いている。


 レンガ製の壁の厚さは10センチ程度。煉瓦の通常サイズは21×10×6センチとされている。さらにモルタルのような土が塗られていた。


 そうなると狙撃の矢は10センチの厚さを誇る煉瓦を撃ち抜いてきたことになる。本来の矢ではあり得ないだろう威力であった。


 その穴からシローは外を覗き込んだ。


『あれが、狙撃手か……。女じゃんか』


 壁の穴から見える様子は、向かいの屋根の上で弓矢を構える女性の姿。赤い髪のショートヘアーで露出度の高いレザーアーマーを着込んでいた。豊満な胸元とセクシーな腰が丸見えである。


 女は弓を引きながら不満を眉間の皺に乗せて表現していた。


「んん……。倒れない。確かに胸を貫いたはず?」


 壁越しだったとはいえ、スキルで動きも居場所も明白だったはず。なのに二撃目を命中させたはずのターゲットが倒れなかった。まだ、壁際に立っている気配が彼女には見えていた。特殊なスキルで壁際にターゲットのシルエットが見えているのだ。


「弾かれたのかしら。ならば三撃目でも食らいなさい!」


 放たれる三度目の矢は、再び壁に隠れているシローを狙っていた。しかも、二撃目で貫いた壁の穴を利用して追撃を打ち込んでくる。


『うわ、危ねえ!』


「ちっ、また躱されたわ」


 壁の穴をすり抜けて宿屋の部屋に飛来した矢は反対側の壁に突き刺さって止まった。それと同時に扉が開いて二人の男が室内に雪崩れ込んでくる。


『鍵が開けられたのか?』


「ぬぉぉおおおお!!」


 大声を怒鳴らせながら神官風の男が走り寄ってくる。髭面に角刈りで体格の良い神官だった。パワータイプと窺える。


「極楽ホームラン!!」


 その手にあるメイスを逆水平に振るって黒狐面を狙ってきた。まるで四番バッターのような心強い大振りである。


 しかし――。


『下半身がガラ空きだぞ』


 シローは横振りのメイスを屈んで躱す。そして、自分の頭上をメイスが過ぎると同時に下段横蹴りを放って神官風の男の膝関節を突くように蹴飛ばした。男の左膝がグニャリと曲がる。


「がっ!!」


 すると突き蹴りを食らった神官風の男の脚が伸びて一瞬だけ膝関節が逆に曲がって見えた。するとバランスを大きく崩して後方に吹っ飛んだ神官風の男が壁に激突して壁板に罅を走らせる。


 しかし、続いてスカーフェイスの男が部屋に飛び込んでくると双剣を抜いて斬り掛かってきた。


「次は、俺だ!」


 短髪の男は二十歳ぐらい。左のこめかみに切り傷。右の頬にも切り傷。右手のショートソードは普通に構え、左のショートソードは逆手に構えていた。双剣の使い手のようだ。


「くたばれ、のっぽ野郎!」


 猫背で迫りくるスカーフェイスが地を滑る高さから初弾を振るってきた。それに二打三打と攻撃が続く。


「シュ、シュ、シュッ!」


 右、左、右と続く連打の斬撃。その振りは明らかに剣技を訓練された攻撃だった。上下と斬撃を振り分けてくる。


 先程の神官風の男とは異なって武芸に長けていた。


『速い!』


 シローは後方に跳ねて三打を逃げるように避けた。しかし、壁に背が当たる。これ以上は後退できない。瞬時に追い詰められた。


「後が無いぜ!」


 顔面を狙った突き。


 それをシローは首だけを曲げて躱してみせる。狙いを外したショートソードの刀身が壁に突き刺さると同時にシローが被っていたフードを僅かに切り裂いた。


「甘い!」


『ッ!!』


 しかし、横の斬撃がシローの腹を捕らえる。逆手に持ったショートソードの一撃が壁際で逃げ道を失っていたシローの腹を横一文字に切り裂いた。シローの腹部が裂ける。


 ニヤリと微笑むスカーフェイスの男。だが、自分が振るった斬打の感触に違和感を察する。


「な、なんだ、今のは……」


 相手の腹を割いたはずの感触が無かった。手応えが空だったのだ。


 そして、シローが直ぐ様に動いた。その接近の間合いから男の顔面に正拳突きを打ち放つ。


『せいっ!』


「ぅっ!」


 唸る拳がスカーフェイスの顔面にめり込んだ。ヒットと同時に捻りながら押し込んでくる衝撃に顔面が押し潰される。鼻が潰れ、上顎が沈み、前歯が数本飛び散った。その後に男が後方に飛ばされた。


「バンディ殿!」


 神官風の男はへし曲がった自分の足にヒール系の魔法を施して回復していた。そして、飛んできた仲間を受け止める。


『貴様ら、何者だ!?』


 そう怒鳴りながらシローが詰め寄ろうとすると、再び窓の外から狙撃の矢が飛んできた。


『ウザい!』


 シローは難なく矢を躱してみせたが、その隙に神官風の男はスカーフェイスを抱え上げると出入り口から逃げ出した。


『逃げるか!』


 一瞬、逃亡者を追おうかと思ったシローだったがやめにする。


「シ、シロー様……」


 シローは身をかがめながら窓の外を確認した。向かいの屋根を見たが狙撃者の姿は失くなっている。あの女も逃げたのだろう。


『もう大丈夫だ。出てきていいよ、チルチル』


「は、はい……」


 チルチルがベッドの下から這い出てくるが、その姿は可愛らしいメイド服が埃まみれだった。ゲホゲホと咳き込んでいる。



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