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206【ゾンビ病ドラッグ】

 その後、クレマン・ヒューズが意識を取り戻した。意識が整うと、ゾンビのような素振りは消えて普通に戻る。


 そして、俺から受けた怪我は城の神官がヒール魔法で治療した。今は城の尋問室に居る。


 鉄格子に小さな窓から明かりが入ってくる小部屋は石造りでジメジメしていた。鉄と石とカビの臭いが充満している。


 机は二つ。部屋の中央の机には、手錠を掛けられたクレマンが犯罪者のように座っていた。もう一つの机は、部屋の隅。書記官の女性が座っている。


 尋問室への入り口は一つ。鉄の扉で分厚く厳重だった。


 その鉄の扉の向こうから、俺は覗き穴を利用して中の様子を窺っていた。そんな俺の横にはフィリップル公爵が立っている。


 クレマンを尋問しているのは、近衛隊のオーギュスト・ルフェーブル隊長である。


 身長185センチぐらい。体格はゴツい。頭はバーコードハゲだが、顔付きは極道のように鋭い。現代ならば、フランス軍特殊部隊の教官でも務めていそうな貫禄を持ち合わせた軍人的な人物であった。


 そのような上官に叱責されながらゾンビ病ドラッグの情報を聞き取られるクレマンは、背を丸めながら小さくなっていた。かなり反省している。


 そして、数分後に尋問は終わった。クレマンが素直に話したからスムーズに聞き取りが終わったようだった。


 俺とフィリップル公爵、それにオーギュスト隊長は、別室に移動すると、今後について話し合った。


『それで、クレマンの罪は、どうなるんだ?』


 オーギュスト隊長が俺の質問に答える。


「刑罰は、鞭叩き十回と、懲戒処分だ……」


『おいおい、いきなりクビかよ』


「近衛隊が、法律で禁止されている薬物に手を出したのだ。妥当な処分だろう。まだ、フランスル王国から追放されなかっただけマシな刑罰だ」


 まあ、可哀想だが、日本の公務員だって薬物に手を出したら懲戒免職は免れないんだ。仕方ないと言えば仕方ないだろう。


 今度はフィリップル公爵がオーギュスト隊長に問うた。


「それで、薬物の入手先は?」


「どうやら、盗賊ギルドのようです。ここサン・モンの町で、盗賊ギルドがゾンビ病ドラッグを仕切っていると、前々から噂されてましたからね」


「オーギュスト隊長、大臣に報告後、取り締まり強化を、余の名前を使って進言しておいてくれ」


「畏まりました」


「ところで――」


 今度はフィリップル公爵が話を俺に振る。


「シロー殿、先程言っていた話を詳しく聞きたいのだが」


『ああ――』


 先程言っていた話とは、太陽の国でも、ゾンビ病ドラッグが流行っている地域があると言った話である。まあ、ラスベガスなのだが……。


『俺が住んでいた地域から、遠く離れた町の話だから、俺も詳しくは知らないのだが……』


「構わん、出来るだけ情報が知りたい」


『その地域では、安価なドラッグだと聞いている。その分だけ、依存性が少なく、トリップ効果も低いドラッグらしいのだ』


「危険なドラッグではないのか?」


『疲れを感じ難く、疲労感を無視できるのが、最大の効果と聞く。その結果、肉体を酷使するトレーニングを行う者たちに人気らしい。ただし、何らかの衝撃で気絶してしまうと、ゾンビのように徘徊してしまうのが欠点らしいのだ』


「それで、ゾンビ病ドラッグと呼ばれているのだな」


 俺がジョジョから聞いた説明は、それだけだった。流石のジョジョも、誰が作って誰が広めたかは知らないらしい。


 だが、時空を超えて異世界にまで広まっている新型ドラッグなのだ。おそらくゴールド商会の関係者が関わっている可能性は高いだろう。


 俺が思うところ、特にレオナルドが一番怪しい。


 何故なら、あいつは他人の異世界に無断で侵入できる。それに、怪しい魔法使いだ。ドラッグの一つぐらい作れそうである。


 まあ、もう一度出会えたら問い詰めてみよう。


「済まないがシロー殿。何か他にも情報が入ったら知らせてくれないか」


『それは、構わんが』


「城の門番には、髑髏の商人が訪ねて来たら、通すように伝えておく」


『それは、有り難い』


 俺はテーブルの上で、真っ二つに割られた白式尉の能面を瞬間接着剤のアロンベーダで修復させると髑髏面に被り直した。


 それからブローリ城を後にする。その後、サン・モンの町を徘徊して、レオナルドの店、ミラージュショップを探した。


『確か、この辺だったはず……』


 なかなか見つからないミラージュショップだったが、数分後、唐突に店を発見する。


 メインストリートはあんなに人で溢れていたのに、この通りだけ通行人が一人も居なかった。それどころか町の雑踏すら微塵も聞こえて来ない。それに、空の色も不思議な青さだった。バニラ・スカイである。


 古びた壁に古びた扉。その扉の横にオープンと看板が出ている。どうやら開店中のようだった。


 俺はノックもなしに扉に手を伸ばす。そして、扉を開けて店内に進む。すると、魔法感知のスキルが店内に並ぶ商品に反応した。


 前回来店したときには魔法感知スキルを有していなかったから分からなかったが、ほんとうに店内の品物はすべてマジックアイテムのようだった。今回はビンビンに感じる。


 そして、店内の奥、レジカウンターに腰掛ける老婆が笑っていた。白髪で皺だらけの老婆は、百歳を越えてそうな感じである。店員のレイチェル婆さんだ。


「いらっしゃいませ」


『よう、レイチェル婆さん』


「確か、あんたは、サブロー殿だったかの〜」


『それは、叔父の名だ。俺はシローだよ』


「そうだったかい、そうだったかい。それで、今回は何をお求めで?」


『いや、今回はレオナルドに会いたくってね。あのジジィは居るかい?』


「今は居ないよ。レオナルド様は、いつ帰ってくるか分からないからね〜。私に聞かれてもわからないよ」


『そうなのか……』


 ならば、この店には用がない。でも、せっかく来たからチルチルにお土産でも買って帰ろうかと思う。


 俺は店内を見て回った。


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