201【弾丸販売】
時間帯は異世界で昼過ぎ。俺はチルチルたちが昼食を取るのに付き合ってから食後に店を出た。ゲートマジックでサン・モンの町を目指す。
これからフィリップル公爵に拳銃の弾丸を届けに行くつもりなのだ。アポ無しなのだが、問題なかろう。公爵も、いつでも気兼ねなく来いって言ってたもんな。――確か、言ってたはず。
そして、俺はゲートマジックをくぐるとアサガント商会の寮に設けた一室に出る。
俺は、何も無い部屋にテレポートすると寮を出てブローリ城を目指した。町中をテクテクと進む。
まあ、今回で二回目なのだ。もうピノーが同伴していなくっても問題なかろう。直接、城に向かう。
ブローリ城の大きな門前に到着した俺は、門番に要件を告げるとしばらく待たされた。
門番は能面で顔を隠す俺を見て怪しんでいたが、場内に報告に行った相棒の門番が格上の大臣を連れて帰ってきたところで驚いていた。
連れて来られた大臣は揉み手をしながら俺の機嫌を窺って来る。
「おおう、これはこれはシロー様。本日は何用で御座いましょうか!?」
たぶん、俺が奥方に真珠のネックレスを献上したことが城内でも知れ渡っているのだろう。この大臣の顔は覚えていないが、向こうは俺をハッキリと覚えている様子だった。
『大臣殿。フィリップル公爵にお伝え願いたい。例の品物が入ったからお会いしたいと――』
「例の品物……?」
弾丸のことは内密になっている。だから話せないのだ。
『そう伝えてもらえれば、話は通るはずだ』
「か、畏まりました……」
そして、俺の来訪をフィリップル公爵に伝えに行った大臣が帰ってくると俺は城内に案内された。今回は謁見室ではなく食堂に通された。
俺が食堂に入ると長テーブルの先でフィリップル公爵が妻のカトリーヌ夫人と食事を取っていた。十人以上座れるだろうテーブル席には二人しか居ない。しかし、そのテーブルには十人前以上の食事が並んでいた。そして、今日は娘のセシリア嬢は居ないらしい。夫婦二人の団欒だったようだ。
『失礼します、フィリップル陛下――』
俺が畏まりながら入室すると、フォークとナイフをテーブル上に投げ出したフィリップル公爵が椅子から立ち上がった。そして、テンション高く俺に反応する。
「おお、これはシロー殿ではないか。もしかして、例の物が、もう手に入ったのか!?」
『はい――』
「おお!!」
するとフィリップル公爵は、両手を叩いて周囲に控えていた執事やメイドたちを食堂から退室させる。奥さんも部屋から出て行った。食堂には俺とフィリップル公爵の二人だけが残った。
「シロー殿、ちこう寄れ。早速、品物を見せてくれぬか!」
俺は食堂を突き進むとフィリップル公爵の側まで近付いた。そこでアイテムボックスから二つの小箱を取り出す。一箱五十発の弾丸が、二箱である。それを長テーブル上を滑らせフィリップル公爵の元に差し出す。
『約束の弾丸です。二箱で百発ありますので、とりあえずは満足できる数でしょう』
角刈り金髪ポニーテールのフィリップル公爵は箱を開けると弾丸を一つ取り出して真鍮色の弾体を眺める。
「おお〜、素晴らしい。しかも、前の弾丸より僅かに大きくないか!?」
『口径が違います。前の弾丸は.357口径で、そちらの弾丸は.50口径。殿下がお持ちのL字武器で撃てる弾丸では、一番威力が高い弾丸です』
「まことか!」
その後にフィリップル公爵は首を傾げながら訊いてきた。
「なあ、シロー殿……?」
『なんでありますか?』
「何故に三桁の.357口径のほうが、二桁の.50口径より小さいのだ?」
『私も知りません……』
確かに、不思議だった。
『ですが、我が太陽の国には、【大は小を兼ねる】と言う言葉が御座います。なので、どうせならより強力な弾丸をセレクトしたしだいで』
「おお、アッパレな判断だぞ!」
チョロくも感激するフィリップル公爵は、自分のアイテムボックスからデザートイーグルを取り出すと、装填されている弾丸を.50口径に入れ替える。
そして、壁に向かって一発だけ発砲した。
激しい発砲音が鳴り響くと同時に食堂の壁に大きな穴が開く。その穴は、大人の握り拳がスッポリと入るほどの大きさだった。拳銃で撃ち抜いた穴とは思えなかった。流石は.44マグナムを上回る.50口径の破壊力である。
「す、素晴らしい……」
.50口径の威力に感動したフィリップル公爵が愉悦に浸っていた。発砲の衝撃に酔っている。
『フィリップル殿下――』
「なんだ、シロー殿?」
『弾丸の無駄遣いには、気を付けてください』
「ああ、分かっている」
『何せ、その弾丸を手に入れるのに、どれだけ苦労したことか……』
嘘ではない。ラスベガスまで12時間も飛んで、しかも地下闘技場でバトルまで繰り広げて手に入れて来たのだ。苦労を理解してもらいたかった。
フィリップル公爵はデザートイーグルをアイテムボックスにしまうと言う。
「ところで、報酬なのだが?」
『本来ならば、一発あたり大金貨一枚頂きたいのですが、大使の案件もありますので、今回は半額の五十大金貨で如何でありましょうか?』
「安い!」
『安過ぎたか!?』
「一発で、大金貨一枚ならば、なんぼでも買うで!!」
成り金的な発想だな。これだから貴族は鼻に付く。
『ですが、弾丸を手に入れるには、それ相応の苦労が付き纏います。今後しばらくは補充出来ないと思ってくださいませ』
丁寧に頭を下げた俺にフィリップル公爵が寂しそうな表情で問う。
「それは、何時ほどかね?」
『二年か三年……』
「それは、残念だ……」
ちょっと盛りすぎたかな?
「やはりL字武器は、秘密兵器だな。いざという時にしか使えんのか……。残念だ……」
まあ、フィリップル公爵も、これで納得してくれたようだから問題なかろう。
それにしても月初めから大金貨五十枚ゲットとは、ほんまにボロ儲けである。ホクホクの月になりそうだと予感する。




