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199【異世界にも帰還】

 俺は鏡野響子のチャーター機で日本に帰っていた。鏡野響子とクロエの二人は、楽しそうにワインを仲良く飲んでいる。摘みはスルメだった。


 どうやらこの二人は、なんやかんや言っても仲が良いらしい。昔からの腐れ縁なのだろう。


 チャーター機の窓から綿雪のような白い雲が窺える。雲だけの景色は幻想的に見えた。その雲の形を俺は一人で眺めていた。様々な形の雲があり、見ていて飽きない。


 チャーター機の中に、穏やかな空気が流れていた。


 これだけゆったりしているのは久々だろう。何せこの一ヶ月間は、何かと慌ただしかったのである。


 フラン・モンターニュでの数多くの戦い。ゴブリン討伐から始まって、ニャーゴやレオナルドとの出会い。シレンヌの襲撃。スケルトン大軍団との対決。まあ、いろいろなことがあったのだ。


 現実世界ではクロエの着任とラスベガス訪問。そして、よく分からないうちに終わっていた四つの試練。なかなかハードな一ヶ月だと思う。


 その一ヶ月間が終わったことを知らせるようにゴールド商会から一通のメールが届いていた。給料明細である。


 今月の給料は七十万円を超えていた。一ヶ月三十グラムを超えて金塊を振り込んだだけはある。これで新しい商品を入荷できるだろう。


 そして、俺のレベルも20に達していた。それで得たスキルポイントをいろいろなスキルに割り振った。


 まずはゲートマジックをLv7まで上げた。これで二枚目の固定扉を手に入れた。二枚目はパリオンに設置しようと考えている。それでマリマリのコメルス商会に商品の搬入が楽になるだろう。


 そして、残ったスキルポイントでボーンリジェネレーションLv3をLv5まで上昇させた。やはり回復は必要だろう。ジョジョとの対決で骨身に染みたのだ。


 さらに魔法探知Lv3と魔法防御Lv3を、それぞれLv4に上げる。この手のスキルは地道に上げておかないとなるまい。必ず役に立つ時が来るはずだ。


 残りポイントが1点で、新スキル・アイテム鑑定を取ってみる。まずはスキルを使ってみて便利かどうかを試してみてから成長を考えるつもりだ。


 こうして俺の二ヶ月目と、レベル20達成祝いが、飛行機の中で終わる。誰も祝ってはくれないので一人で祝ったのだ。ちょっと淋しい。


 そして、ラスベガスから日本までの12時間のフライトが終わって実家に帰ってきた。二日ぶりに異世界にも顔を出す。


『ただいま〜』


「お帰りなさいませ、シロー様!!」


「お帰りだべさ〜、シロー様。お土産くださいな〜」


『ほれ、ラスベガス饅頭だ。皆で分けて食えよ』


「やっただべ〜。饅頭だべさ〜」


 俺がブランに饅頭が入った紙袋を手渡すと、下半身にチルチルが抱きついてきた。ハグするチルチルの顔が股間の高さにある。そのチルチルの白髪を俺は撫で回した。


『どうした、チルチル。寂しかったのか?』


「そ、そんなことはありません……」


 俺の股間に顔を埋めたチルチルは顔を上げない。そのしぐさが可愛すぎて俺は彼女の頭を撫で続けた。


『さて、次の仕事は、サン・モンに向かってフィリップル公爵に弾丸を届けることと、パリオンに新しい固定扉の設置だな』


 チルチルがハグで顔を埋めながら言う。


「シロー様、まだ仕事ですか……」


 俺は店の天井を眺めながら考える。


『そうだな〜。今日ぐらいは店でゆっくりするか。お使いは明日でも遅くはないだろう』


 こうして俺は、今日一日を店でゆっくりと過ごす。チルチルたちと一緒にまったりと一日を送ったのだ。


 俺が見守る中でチルチルがブランに読み書きを指導している。店番はニャーゴとマリアがやっている。外ではシレンヌが薪割りを行っていた。 


 長閑である。ゆっくりと異世界の時間が流れていくのが感じられた。これだけ長閑に過ごすのは久々だった。たまには悪くないと思う。


 そして、日が沈み夜が来る。窓の外を眺めてみれば、七つの月が黒雲に見え隠れしていた。虫の音色のみが聞こえる静かな夜である。


 ある程度時間が過ぎるとチルチルたちが就寝した。するとマリア・カラスが一冊の書物を持ってくる。


『シロー様、こちらをお読みになっては如何でしょうか?』


『これは――』


 それは、ネクロマンサーの初期魔法が書き込まれた書物だった。いつだったかヴァンピール男爵から貰った魔導書である。


 マリア曰く。


『シロー様は、ネクロマンサーの才能が高いと感じます。専門的に学ばれれば、私よりも優れた死人使いに成長するかと――』


『マジ〜』


『はい――』


 俺はつまらなそうに魔導書をパラパラと捲ってみた。しかし、気が乗らない。やはり俺的には、魔導よりも武道に集中したいのだ。


 体と知。それは、あまりにも進む道が違いすぎる。二股の道に思えて仕方ないのだ。


『ならば、こういうのはどうでしょうか――』


『なんだ?』


 マリアが細い手で拳を握りながら前に出す。その拳から炎のように黒いオーラが吹き出した。


『魔法と拳法の融合。魔法拳法の第一人者を目指すのは?』


『魔法拳法……。面白そうだな!』


『私も感じるのです。シロー様から魔王の風格を――。しかも、それは新世代の魔王。武王の魔神の貫禄を――』


『それは盛りすぎだ。だが、魔法拳法は面白そうな流派だな。少し、試してみるか』


 そう述べた俺は拳を握る。その拳から黒いオーラが揺らいでいた。やる気である。


 その晩に、俺は初期魔法が書き込まれた魔導書を読み切る。一通り頭に入れた。



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