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198【頼れる先輩たち】

 武道の敗北。ただの筋肉の塊に、力だけで負けた。情けない。


 本来なら、自分は天然の暴力に勝つために武道を歩み始めたはずだったのに……負けた。なんとも屈辱である。


 気絶の間に、子供時代に俺を苛めていた町内の悪餓鬼どもの顔を思い出していた。こいつらに勝つために始めた武道だったはずだ。


 忘れていた。それが、新しく歩み始めた俺の道だったのに。


 なのに………。


「ボーンリジェネレーション」


『はっ!』


 リング中央で倒れていた俺が、上半身だけを起こして気絶から目を覚ます。


『うう……』


 周囲を見回した。金網に囲まれたリング中央。対戦相手だった筋肉達磨のサイクロプスが、俺に回復魔法を掛けてくれたようだ。粉砕されていた頭蓋骨が元の形に戻っている。


「いや〜、良かった良かった。頭を破壊しただけで死んでしまったかと思ったよ。流石はウロボロスの書物で一番の不老不死性能を持つ髑髏の書だ。簡単に死ななくて良かったわ〜」


 俺は立ち上がると、サイクロプスと向かい合った。もう俺には戦意は無い。ジョジョもそれを察しているようだ。


『勉強になった。この体も気絶するんだな。脳が無いから、どういう仕組みで気絶するのかは今一不明だけどよ……』


 新たなる発見。頭部の完全粉砕は気絶につながる。これはかなりの弱点だ。今後は気を付けねばなるまい。


「まあ、気を落とすな。これも学びだ。学びを一つずつ積み重ねて、人は強くなっていくのだよ。君はまだ若い。これからどんどん学んで行きなさい」


『ああ……』


 確かにだ。脳筋のくせに的確なアドバイスだった。思ったよりも馬鹿ではないらしい。長生きしている分だけ人生経験が豊富なのだろう。


 ジョジョが逞しい腹筋を平手で叩きながら述べる。


「さて、少し運動をしたら腹が減ってきた。またスイートルームに戻って食事にしようか」


『さっき、食べてなかったか?』


 俺がホテルを訪ねて来たとき、ジョジョは分厚いステーキを十皿は食べていたはずだ。なのに、もう腹が減ったらしい。なんとも燃費の悪い筋肉である。


「魔法陣に戻れば現実世界に戻れる。さて、帰ろうか」


『ああ……』


 俺とジョジョはミニチュア闘技場から外に出る。再び人間の体に戻り、クロエも束縛を解かれて四人でホテルの最上階を目指した。エレベーターに乗る。


 ホテルの最上階に戻ったジョジョは、食堂で再びステーキを注文して食事を始めた。そもそも先程の食事が途中だったらしい。つまりこれは食事の再開である。いったいどれだけ食べるのか、次々と分厚いステーキが運ばれてきた。


 俺たちはテーブル席に腰掛け、ジョジョの食事に付き合った。俺は食事を取らないので眺めているだけである。鏡野響子とクロエが一緒に食事をしていた。


 フォークとナイフで礼儀正しくステーキを食する鏡野響子とは裏腹に、クロエはガツガツとステーキを頬張る。なんとも下品な食べ方だった。育ちの悪さが窺える。


 何よりもクロエは捕まっていた間、水しか与えられていなかったらしい。だから腹ペコなのだ。


 俺はステーキを頬張るジョジョに問い掛ける。


「とりあえず三戦すべて戦ったのだから、クロエは返してもらえるんだよな、ジョジョ?」


「ああ、返してあげるよ。それに、試練も合格だ。上にはそう報告しておくからな」


「有り難い、助かる……」


 そう言いながら俺は頭を下げた。感謝を態度で示す。


「だがね、ミス・クロエ。次は無いからね。マフィアが仕切るカジノでイカサマなんてやったら、次はドラム缶にコンクリート詰めして沙漠に埋めるからな。覚悟しろよ」


 ジョジョは凄んで脅していた。


「は、はい……」


 流石のクロエも表情を青ざめさせている。ちゃんと反省しているようだ。これで反省してなければ、代わりに俺が殴り殺していただろう。


「ところでクロエ?」


「なんですか、四郎様?」


「弾丸は買えたのか?」


「その弾丸を買う金をカジノですべてすってしまったから、イカサマを始めて捕まったわけで……」


 このクソエルフが……。


「じゃあ、買えてないのかよ……」


「はい………」


 どうやらこの駄目エルフは、簡単なお使いすら出来ないようだ。マジで使えない。粗大ゴミとして捨てたくなる。


「弾丸とは、どういうことかい?」


 ジョジョが訊いてきたので、俺は何も隠さず話した。


「異世界で弾丸を売るのかい?」


「それは、私が止めたわよね?」


 鏡野響子がすこし怒った顔で言う。確かに最初のころ彼女に止められた案件だった。


「違うんだ……」


「何が違うのよ」


 鏡野響子は少し怒っている。


「先代の祖父が、もう銃を数丁ほど国王たちに売っててね。それで弾丸だけでも補充したいと頼まれたんだ……」


「一郎君が――」


「そ、そうなんだよ……」


 すると鏡野響子は、仕方ないと言った顔で黙り込む。一郎祖父さんは、鏡野響子が可愛がっていた後輩らしい。だから甘くなるのだろう。


 ステーキを刻みながらジョジョが俺に問う。


「それで、弾丸を買って帰るのか?」


「まあ、それが本来の目的だったからな」


「どんな弾が必要なんだ。弾丸ぐらいなら、私がタダで譲るぞ」


「マジか!?」


「ああ、これでもマフィアだからね。弾丸ぐらい腐る程持っているからな」


 こうして俺はジョジョから.50口径の弾丸を百発ほど譲ってもらった。しかも装飾の施された木箱に収められた弾丸ケースで二箱もだ。


 これで、フィリップル公爵も満足してくれるだろう。


 給料日前だったので、金銭的にもマジで助かった。先輩の懐の厚さに感謝する。



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