177【恐竜退治】
『ボーンリジェネレーション!』
プロテクションドームに激突して刻まれた亀裂骨折が、魔法の力で修復されていく。骨しか直せないヒール系の魔法だが、骨しかないシローには十分な回復手段だった。
肩や腰の調子をひねって確かめるシロー。その間も宿敵ティラノザウルススケルトンから視線を外さず、鋭く睨み続ける。威嚇は欠かさない。
『よし、今度はこっちから行くぜ!』
途端、シローが猛ダッシュで駆け出す。ブラン゙やシレンヌを追い越すと、人型スケルトンの群れを跳び越えてティラノザウルススケルトンへと飛びかかる。
爪先から迫るシローは飛び蹴りを狙っていた。カンフーキックで恐竜に突撃する。
『うらぁっ!!』
『ギャオォォン゙!!』
しかしティラノザウルススケルトンは、自ら額を突き出してシローの飛び蹴りを受け止めた。否、受け止めただけでなく、額で攻撃を打ち返したのだ。
『なぬ!!』
再び宙を舞うシローが、数メートル後退する。そして膝を抱えながら回転し、綺麗な姿勢で地面に着地した。
『くそ、硬ぇ……』
右足の踵を僅かに上げたシロー。その踵には亀裂が走っていた。
負傷――。なのに、蹴りを受けたティラノザウルススケルトンの額には罅の一つも入っていない。完全に向こうのほうが硬いようだ。骨密度が違うのだろう。
『ギャォォオオオオオン゙!!!』
ティラノザウルススケルトンが夜空に向かって遠吠えを上げる。すると、自分や周囲のスケルトンたちが黒く輝いた。二つ目のバフだろう。スピードに続いてパワーも一時的に向上させたようだ。
そして、前方のスケルトンたちを弾き飛ばしながら突進を開始する。頭を突き出し、シローへ迫る。狙いは頭突きだ。
『ギャォォオオオオオン゙!!!』
『よっしゃ! 来いやぁ!!!』
パンッと両手を叩いたシローが、大きく腕を広げて胸を突き出した。後ろ足一本で踏ん張る。
それは、新弟子に胸を貸す先輩力士の姿のようだった。ティラノザウルススケルトンの突進を胸で受け止めようとしているのだろう。
「そんな、無謀だべさ!!」
さすがに心配したブランが声を上げた。しかし、強い眼光で恐竜の突進を見据える白式尉の能面からは、本気の意思が伝わってくる。
逃げない。避けない。受け止める――。まだまだ自分のほうが上だと示したいのだろう。胸を張るシローからは、そんな強固な意志が伝わってきた。
『オン゙ギャァアアン゙!!』
『どすこ〜〜〜い!!』
お辞儀をするように頭を下げて額を突き出し走り込んできたティラノザウルススケルトンが、ダンプのような体格で体当たりをかます。
シローは、それを胸で受け止めた。片足を後ろに踏ん張り、巨漢の体当たりを受け止める。
『ギャォォオオオオオン゙!!!』
『うらぁぁあああああん!!!』
額で押す恐竜と、胸で受け止める骸骨。衝突と同時にティラノがシローを押し始める。踏ん張った後ろ足が突進を支えるが、砂埃を上げながらじりじりと後方に押されていく。その長さは数メートルに及んだ。
『ぐぅ……ぐぐぅぅ!!』
押されながらも、シローは広げた両腕で恐竜の頭部を力強く抱きしめていた。そして指先を頬骨にかけ、頭を固定する。
『まぁけぇるぅかぁ〜〜!!』
踏ん張る後ろ足の踵がプロテクションドームに接触する。土俵際ギリギリ――これ以上は下がれない。
『ぬぅぉおおおお!!!』
両足に力がこもる。背骨に力が入り、全身の骨が軋む。それでも力んだ。
『ぬぅほぉぉおおおおお!!!』
『オッキャ!!??』
シローが恐竜の巨体を持ち上げた。大きな頭を掴んだまま、体を反らして突き上げる。持ち上げられたティラノザウルススケルトンの両足が地を離れてバタついた。
そして――。
『わっしょ〜〜〜〜い!!!』
掬い投げ……否、頭を掴んでの投げだから合掌捻りか。
シローは持ち上げた巨体を真横に返すように投げ捨てた。綺麗に技が決まる。
『オッギャア!!』
投げ捨てられた恐竜がゴロゴロと転がってから止まった。立ち上がろうとするが足がもつれてすぐには起き上がれない。首の骨に大きなダメージを追ったのだ。
その眼前にシローが立った。地に頬を付ける恐竜が視線だけで見上げる。そこには冷たい能面があった。
『シュルル〜……』
背筋に悪寒が走る。無いはずの汗腺から冷たいものが噴き出す。ティラノザウルススケルトンはピンチを悟っていた。
『いい高さだぜ!』
『シュルル……』
自分の拳に息を吹きかけるシローが、拳を高く振りかぶった。次の瞬間、倒れた恐竜の顔面に拳を叩き込む。逃げるも隠れるも出来ず、正拳突きの餌食となる。
ガンッ――と硬い激音が轟く。
刹那、頬骨に亀裂が走り、視界が激しく揺れた。
さらにもう一発!
二発目の正拳突きが同じ頬を打ち抜く。ひび割れた頬が砕け、陥没する。穴が空いた。
『フィニッシュだ!!』
三発目は肘打ちだった。打ち下ろしのエルボースタンプが顔半分を粉砕する。
『どうでい!』
バタついていた尻尾が暴れるのをやめ、静かになった。巨体からも力が抜け落ちる。
宿敵が動かなくなったのを確認したシローが踵を返し、スケルトンたちの群れを睨みつけた。
『よ〜〜し、あとは雑魚ばかり。チャッチャッと蹴りを付けますか〜』
そう述べながら歩み寄るシローは、まるで魔神のような強いオーラを放っていた。破壊神のオーラである。




