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175【三人対数百】

 地下倉庫の階段を登りながら、スケルトンの群れを迎え撃とうと準備を整える三人。シロー、ブラン、シレンヌ。


 たったの三人で、フラン・モンターニュから押し寄せてくるスケルトンの大行進に対処しようとしていた。


 シローは階段を登りながらアイテムボックスからいつものメリケンサックを取り出し、それを後ろに続くブランに手渡した。


『ブラン、これを使え――』


 ブランは二つのメリケンサックを受け取ると両手に乗せてまじまじと眺め、笑顔で言った。


「こ、これは、婚約指輪だべか!?」


『違う! そんな婚約指輪があるか!!』


 シローは別のメリケンサックをアイテムボックスから取り出し、自分の骨指にはめてブランに見せた。


『武器だ。こうやって使う。空手家が唯一、気兼ねなく使用してもよい武器だ』


「はいだべさ」


 ブランは頷きながら、自分の両手にメリケンサックを嵌めた。強く握りしめて、その感触を確かめる。


 その後ろに続く甲冑メイドのシレンヌは、自分専用のアイテムボックスから剣と盾を取り出して装備していた。それを見たシローがシレンヌに告げる。


『シレンヌ、いざとなったら“アレ”を使うことを許可するぞ』


 その言葉を聞いたシレンヌは無言で喜んだ。可愛らしくはしゃいでいる。


 そして、準備を整えた三人は店の外へ出る。遠くからスケルトンの軍団が行進してくるのが見えた。


 その瞬間、背後の店が魔法のバリアーに包まれた。ニャーゴのプロテクションドームが発動したのだ。


 これで、10分間は鉄壁である。ニャーゴのプロテクションドームの強度は、シローですら蹴り破れなかった防御力を持つ。魔法攻撃への耐久も高い。スケルトンごときが群れを成しても破れないだろう。


 だが同時に、シローたち三人は、数百体のスケルトンを10分以内に撃退しなければならない。戦いのタイムリミットは、10分間なのだ。


『よ〜〜し、派手に暴れるぞ!』


「はいだべさ〜!!」


 先手を打ったのはシレンヌだった。単眼を光らせて波動砲光線をスケルトンの群れに撃ち込む。右から左にかけてピンク色の極太光線がスケルトンたちの先頭を焼き払った。


 だが、その程度ではスケルトンの群れは止まらない。燃え盛る骸骨の中から獣系のスケルトンたちが飛び出してくる。


 狼、野犬、鹿、猪、熊たちのスケルトン――。機動力を活かし、我先にとシローたちに迫ってくる。


『ガァルルルルル〜〜〜!!!』


『お〜〜ら!!』


 喉がないはずの狼スケルトンが唸り声をあげながら飛びかかってきた。だが、シローの長いストレートパンチがカウンターで叩き込まれると、その頭蓋骨は木っ端微塵に吹き飛んだ。


『頭だ。スケルトンは頭部を破壊されると動かなくなる。頭を狙え!』


「はいだべさ!!」


 ブランにも獣系のスケルトンが襲いかかる。だが、ブランはそれらを難なく返り討ちにしていく。素早い正拳突きや廻し蹴りが、次々とスケルトンたちをカウンターで破壊していった。


「せい! おらっ! あちょ〜〜〜〜う!!」


 ブランは野生児に近いサイコパスの狂人だ。かつて、住んでいた村で狼と戦い素手で勝利したことをきっかけに、森で狼の群れを襲って食料を確保していた時期がある。だから、狼の群れごときに恐れなど抱かない。


 シレンヌもまた、狂人――否、モンスターである。甲冑の上から可愛らしいメイド服を着ていても、その実は戦士系モンスター。シロー同様に戦いに飢えている。


 ロングソードを振り回し、次々とスケルトンを薙ぎ払っていく。その腕前は達人級とまではいかなくとも、エペロングと同等。すなわち、並以上に強いのだ。


『おらっ、おらっ、おらっ!!』


 シローの三段突きが、羆のスケルトンを叩き潰した。立ち上がり、鋭い爪を振るおうとしたところへ打ち込まれる正拳突き。腕を砕き、肋を砕き、そして最後の一撃が頭部を破壊した。


『ひゃっほぉ〜〜〜い!』


 倒れ込む羆のスケルトンを飛び越え、空中から鹿のスケルトンに飛びかかる。


『ぜいっ!』


 急降下からの肘打ちが雄鹿の額を割り、頭蓋骨を粉砕する。


 しかし、着地したシローを野犬のスケルトンたちが囲んだ。四方八方から噛みつこうと迫ってくる。


『うらぁ、下段水面蹴りじゃ!!』


 360度に放たれる水面蹴りが、野犬スケルトンたちの前足を払ってダウンさせる。続けざまに竜巻のように立ち上がったシローが、スピンしながら下段廻し蹴りで次々と頭を蹴り飛ばす。野犬の頭蓋骨がサッカーボールのように遠くへ飛んでいく。


『ひゃっはぁ〜〜、楽しい〜〜!!』


「きゃはっはっはっはぁ〜〜!」


 三人は楽しんでいた。シローも、ブランも、シレンヌすらも楽しんでいた。スケルトンの大行進に、誰一人ピンチすら感じていない。まるでレジャー施設に遊びに来た賑やかファミリーのテンションである。


 その証拠に、剣と盾をアイテムボックスに片付けたシレンヌが、別の武器を取り出した。


 それは、チェンソーだった。


 しかも、パワーと持久力が保証されたトリプルハンドチェーンソー。現代世界で少し高値で売られている、プロの木こりが使うタイプの本格チェンソーである。


 シレンヌはバッテリー式チェンソーのエンジンをかけると、殺人鬼のように振りかぶってスケルトンの群れへ突っ込んだ。その光景はまさにジェイソン。


 しかも、かなり楽しんでいるようで、スキップしながらスケルトンを追いかけ回している。


 やがて、ほとんどの獣系スケルトンを撃退したころに、人型スケルトンたちが迫ってくる。彼らの中には、人間だけでなく、ゴブリンやホブゴブリンのスケルトンも混ざっていた。


 何より厄介なのは、一部の人型スケルトンが武装していたことだ。


 斧、鍬、スコップ、灘、鎌など……それぞれ異なる武器を手にしている。


『関係ないさ〜〜!!』


 しかしシローは、それらの武装スケルトンに恐れすら抱かず突っ込んでいく。そして、次々に撃退していった。


 もはや、シローのレベルではスケルトンなど雑魚にすぎない。敵にすらカウントされていないのだ。


 その証拠に、三人対数百のスケルトンの戦いは、圧倒的にシローたちの優勢。どんどんとスケルトンたちは数を減らしていった。


 だが、その戦力差を逆転させる存在が姿を現す。


 全長13メートルの巨大なスケルトン――ティラノサウルスのスケルトンである。


『ギァォォオオオンン〜〜〜!!!!』


 七つの月が輝く異世界の夜空に、白亜紀の怪物が唸りを上げていた――。どうやら、ここからが本番らしい。



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