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174【スケルトン大行進】

 フラン・モンターニュの森を一番に駆け出したスケルトンは騎獣のスケルトンだった。


 長い首に長い尻尾。そして、長い後ろ足を有した爬虫類系の騎獣が、何らかの理由で死んだ遺体がスケルトンとして復活した姿である。


 数百の遺体が森から歩み出る中で、全走力で走り出る騎獣スケルトンの姿は、まるで五輪選手のスプリンターだった。まさに疾走する弾丸である。その騎獣のスケルトンが草原を割ってピエドゥラ村に侵入する。


 しかし、境界線である1メートルほどの石垣をハードル走の選手のように飛び越えた瞬間、スケルトン騎獣の頭部が木っ端微塵に砕け散った。そして、着地と同時に胴体もバラバラに砕け散る。


 ティルールが、教会の屋根の上から弓矢で騎獣スケルトンの頭部を狙撃したのだ。そして、ティルールは、チャペル塔から下を覗き込みながらパーティーメンバーに報告する。


「ちょっとヤバいわよ。もの凄い数のスケルトンが森から出てきてるわ〜」


 プレートルがチャペル塔を見上げながら問う。


「湧いているのはスケルトンのみかね?」


「見えているのは、スケルトンのみっぽいよ〜」


 腕を組んで考え込むプレートルに鎧を装着しながらエペロングが言った。


「ヤバいんじゃあないか。フラン・モンターニュからここまで数キロだろう。直ぐにスケルトンが雪崩込んでくるぞ!」


 慌てるエペロングをよぞにプレートルは冷静だった。腕を組んだまま言葉を返す。


「我々の安全は問題ない。ここは出来たばかりとはいえ神の家だ。レベルの低いアンデッドは近寄れもしない。もしも、レベルが高くてもアンデッドならば動きにペナルティーが掛かるものだ」


「そうなのか……」


「この教会が出来てからヴァンピール男爵もシロー殿も、一度たりとも訪ねて来ていないだろう」


「確かに……」


「あの二人は完全にアンデッドだ。だから教会には近付けんぞな」


「なるほど……」


 鎧を装着し終わったエペロングが窓から外を見た。月明かりに照らされる草原を進み来るアンデッドの集団がそこには見える。その波は巨大な津波級である。スケルトンの数は数百は居るだろう。


「スケルトン風情ならば、教会に近付けも出来ないのだな?」


 プレートルは顎髭を撫でながら言う。


「ただし、相手がスケルトンやゾンビのレベルならばの話じゃがのぉ」


 そして、暁の冒険団が戦闘態勢を整え終わった頃には、スケルトン軍団の波は、教会の寸前まで押し寄せていた。


 しかし、プレートルが述べた通りアンデッドの波は、教会を避けるように進み村の中へと雪崩込んで行く。その大河のような大群の波を暁の冒険団は教会の中から見送っていた。


「あいつら、どこを目指しているんだ?」


「あっちの方向は、シローの旦那の店がある方だろう……」


「まさか、シローの旦那を狙ってやがるのか!?」


「あの骸骨紳士は、また何をやらかしたのじや……」


 そして、スケルトンの軍団は、暁の冒険団が予想した通りにシローの店を目指して一直線に行進して居るようだった。途中にあるリンジーン家は完全に無視して進んでいる。他の家には被害を及ぼしていないのだ。


 一方、その頃――。スケルトンの目標にされているシローの店では、一人で起きていたシローがメイドたちを越して回っていた。


『おい、ごら、ブラン、起きろ!!』


「むにゅむにゅ、もう食べれないべさ〜」


『寝ぼけているな!』


 寝ぼけるブランにシローが空手チョップを落とした。額の真ん中をカチ割る勢いで叩く。


「ぎゃふん!」


『早く起きろ!』


「どうスたのですきゃ、スローさまぁ……」


 まだ寝ぼけているブランにチルチルがメイド服を投げる。ブランはメイド服を受け取るとチルチルに手を引かれて廊下に飛び出した。


『チルチルとブランは地下室に行け。俺はニャーゴを探してくる!』


「はい、畏まりました!」


「おろろろ〜……」


 チルチルがブランの手を引き地下室に降りると、甲冑メイドのシレンヌが待っていた。シレンヌはいつもの甲冑の他に剣と盾を持っている。すでに戦闘態勢を整えていた。


 やがてニャーゴを抱えたシローが地下室に降りてきた。ニャーゴは何が起きたのかと驚いて様子で真ん丸い目を見開きながらシローに抱えられている。


『皆いるか!?』


「はい!」


「はいだべ」


『シロー、何が起きてるニャ?』


『知らん。知らんが何か凄い数のスケルトンが、こっちに押し寄せてきている!』


『スケルトンが、なぜニャア?』


『知らんがな!』


 シローは抱えていたニャーゴを木箱の上に降ろすと小さな天窓から外を見た。そこには、こちらに行進してくるスケルトンの群が伺えた。


『ヤバい数だな。ニャーゴ、プロテクションドームで店を守れないか!?』


『守れるけど、十分間。長くて二十分間かニャア』


『くそ、それでも守るしかねえか……。オープンしたばかりなのに店を潰されてたまるかってんだ。ブラン、シレンヌ、三人で打って出るぞ!!』


 シレンヌは剣で盾を叩いて闘士を鼓舞していたが、寝巻きからメイド服に着替えていたブランは、ヤル気が薄そうだった。そんなブランが愚痴るように意見する。


「あんな大勢を、私たち三人でどうにかするのですか……?」


『どうにかするしかないだろう!』


「ええ〜……」


『しかも、ニャーゴがバリアーを張っていられる十分以内に方を付けるぞ!』


「そんな〜……」


『チルチルはここでニャーゴと待機だ!』


「はい!」


『よし、いくぞ!!』


 シローは掛け声と共に地下室の階段を駆け上がっていった。それにシレンヌも元気良く続く。


「はぁ〜……。やれやれだべさ……」


 そんな元気な二人に、ブランは渋々と続く。三人は店を出て迫り来るスケルトン軍団に立ち向かった。



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