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168【L字武器】

 【デザートイーグル】


 1979年、アメリカ合衆国ミネソタ州のMRLリミテッド社が開発したオートマチックハンドガン。通称「砂漠の鷹」とも呼ばれる大型拳銃である。


 全長269ミリ、全高149ミリ、重量2,053グラム。装弾数は最大で27発にも及ぶ。


 扱える弾丸の口径は、.357、.41、.44、.50口径と多岐にわたる。主に大型弾の使用が可能な点で人気のファッションモデル……いや、破壊力を誇る実用品として知られている。特に、多くの者が.357口径か.44口径を選ぶことが多い。命中精度を取るか、破壊力を取るか――その選択が好みを分けるのだろう。


 その威力は、ゾウすら一発で仕留められるライフル並みの殺傷力を有する、まさしく“強力”な拳銃である。


 そして今、それを異世界の貴族が手にしていた。


 デザートイーグルで異世界の兵士を撃てば、装備しているタワーシールドを撃ち抜き、さらに着込んでいるプレートメイルすら貫通し、射殺できることだろう。


 この世界では、恐ろしいまでの殺傷力を有した“伝説の武器”なのは間違いない。L字武器とか、訳の分からない呼ばれかたをするのも理解できる。


「くっくっくっ」


 銀の玉座の前で、地べたに胡座をかくフィリップル公爵は、銃口を上に向けた状態で引き金に指をかけ、デザートイーグルを俺に見せびらかしていた。満面の笑みである。


『デ、デザートイーグル……』


 その黒光りする銃身を見ながら、思わず口をついて出た言葉に、フィリップル公爵は歓喜している様子だった。思惑が的中したと言いたげな表情である。


「そうだ。これは、異国ではそのように呼ばれている武器だ。フランスル王国では“L字武器”と呼ばれ、ごく一部の権力者か金持ちしか所有しておらぬ」


『どうして、それを……?』


「三十年ほど前の話だ。異国から来た商人が十丁ほど売っていたと聞かされた。私も、そのうちの一丁を手に入れたわけだが」


 三十年ほど前――。


 もしかして、それって祖父さんの仕業か?


「なんでも、その異国の商人は――人の言葉を喋るスケルトンだったとか」


 ビンゴ……。


 たぶん、俺の祖父であるイチローの仕業だ。あのジジィが売り捌いたに違いない。


「しかし、量産は不可能だった。あまりに緻密な作りで、我らの技術では模造すらできなかったのだ」


 そりゃそうだ。異世界のファンタジー文明で簡単に拳銃が作れたら、文化革命が一気に進んでしまう。


「しかも、弾丸すら模倣不可能だった……」


 火薬すら理解されていないのだろう。その程度の文明で助かったわ〜。


 しかし、フィリップル公爵が歯茎を見せて笑いながら、じっと俺を見つめて言ってくる。


「だがのぉ。そのスケルトンの商人って、誰かさんと似てないかな〜? え〜、どうよ?」


 似てるも何も、そっくりそのままだ。そりゃあ、同一人物だと勘違いされてもおかしくない。


 ああ、そうか。フィリップル公爵は、俺が三十年前に現れたスケルトンの商人だと思い込んでるんだな。


 ならば、早めに誤解を解いておこう。


『たぶん、その商人は、私の祖父かもしれませんな』


「祖父、だと?」


『私が不老不死になる前に、祖父が不老不死の民だったと聞いております』


「だった、とはどういう意味だ?」


『詳しいことは知りませんが――祖父は不老不死に飽きて、自ら命を絶ったと聞いています』


「不老不死でも死ねるのか……。しかも、自殺とは……」


『不老不死とて、人生に悩むのでしょう。まだ私には分かりませんがね』


「でえ――」


 フィリップル公爵が話を戻す。


「シローは、このL字武器を知っておるのだな?」


 観念した俺が、正直に答える。


『はい。我が国の武器です……』


「ならば、話が早い。このL字武器をもっと仕入れたいのだが」


『無理です』


 俺はキッパリと断った。


「なぜじゃ?」


『その武器は、我が国では真珠のネックレスよりも貴重な品物であり、ごく一部の権力者しか所有できない代物。私のような一般国民では、持っているだけで処罰されることもあります。祖父がどうやって手に入れたのかは分かりませんが、そう簡単に入手できる代物ではないのです』


「そうなのか……」


 フィリップル公爵は、明らかに落胆していた。おそらく、俺の髑髏面を見たときから確信していたのだろう。拳銃が手に入らないと分かり、かなりガッカリしているのだ。


「なあ、シローよ。そこをなんとかできぬか?」


『なんとか――と言われましても……』


「もしも、L字武器を手に入れられたら、大使館の件は、私が名誉にかけて確約しようぞ」


 俺は胡座のまま少し考え込み、苦し紛れの提案を出した。ここは、僅かでも公爵に恩を売っておこうと考えたのだ。


『弾丸ぐらいなら、手に入るかもしれません……』


「まことか!?」


 公爵は、思った以上に食いついてきた。


 拳銃本体は無理だが、弾丸だけならアメリカに行って、ガンショップで手に入れられるだろう。それをアイテムボックスで密輸すればいい。


 問題は、直接飛行機で渡航しなければならないこと。パスポートを取ったり、旅行を計画したり、いろいろと時間がかかる。


『たぶん、弾丸ぐらいならば、私でも手に入れられるでしょう。ただし、一ヶ月か二ヶ月ほど時間がかかると思います』


「構わぬ。弾丸だけでも手に入れられるなら、それに越したことはない。なにせ、残りの弾丸も僅かだったのだからのぉ!」


『それと、値段なのですが』


 ここが肝心だ。


「おう、言ってみ!」


『祖父が売った値段とは異なる可能性があります。なにせ、私独自のルートでの販売になりますので』


「構わんぞ、構わんぞ!」


『ところで、祖父はどれくらいで販売していたのですか?』


「弾丸一発で、大金貨一枚だと聞いておる」


 高っ!!


 超ボッタクリじゃねえか。ジジィ、やっぱ鬼畜か!


 まあ、とりあえず――。


『分かりました。その金額で揃えられるよう、努力してみます……』


「頼んだぞ!」


『はい――』


 そして、フィリップル公爵は床から立ち上がり、拳銃を懐にしまいながら、脅すような低い声で言った。


「それと、L字武器に関しては極秘事項ゆえ、他言は無用だぞ。誰かに口走ったら、首を取るからな」


『はい――』


 俺は低く返答したが、この程度の脅しでビビるほどやわではない。鼻で笑ってやった。


 やがて、玉座に戻ったフィリップル公爵が両手を叩いて合図すると、退室していた家臣たちが謁見室に戻ってきた。その中に、チルチルやピノーの姿もあった。


 こうして、フィリップル公爵殿下との謁見が終了する。まあ、いろいろと新しい成果もあった謁見だった。


 そして、俺はピエドゥラ村にゲートで戻ると、早速アメリカ旅行の準備にかかる。



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