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165【公爵との謁見】

「さあ、シロー殿。準備は宜しいですか?」


『ああ、完璧だぜ!』


「では、まいりましょうか――」


『おうよ!』


 ピノーの屋敷を出た俺とチルチルは、黒馬車に乗ってサン・モンの君主が構えるフォンテーヌ・ブローリ城に向かった。


 フォンテーヌ・ブローリ城は、サン・モンの町の中央に在りながら城塞であり、高い壁と深い堀に囲まれた難攻不落の城である。


 町を囲む防壁、深い堀、さらに城を囲む城壁と、三段構えの上に、街中のさまざまなところに砦が建てられている。難攻不落の街なのだ。


 サン・モンの町自体が、首都パリオンに攻め込む前に、必ず攻略しなければならない立地の町のため、その守りは想像以上に厳重なのである。


『ここが、フォンテーヌ・ブローリ城か――。間近で見ると、大きいな』


「そうですね〜」


 三人が乗った黒馬車が堀に掛けられた吊り橋を渡ると、正門の前で停まる。御者がハルバードを持った門番と何か話していた。


 すると、門番の一人が馬車の窓から中を覗いてきた。能面を被っている俺と目が合うと、露骨に警戒してみせる。


 やがて黒馬車は問題なく正面ゲートを通過できた。そして、俺たち三人は、謁見室の待ち合いで待機することとなる。


「いいですか、私が合図を送ったら、こちらの貢ぎ物を運び入れるのですよ」


「はい、畏まりました――」


 ピノーが城のメイドと打ち合わせをしていた。俺が持ってきた贈り物を公爵に見せるタイミングを指示しているようだ。まあ、エンタメ的な演出も必要なのだろう。


「シロー殿。それにしても、素晴らしい贈り物ばかりですな」 


『これなら、公爵も満足してくれるだろう』


 俺が持ち込んだ贈り物の数々が、キャスター付きのトレーの上に並べられていた。


 日本酒の鬼ぶっ殺しを三本。江戸切子の色鮮やかなグラスを六個。こちらも色鮮やかな陶芸の皿が数枚。どれもこれもリサイクルショップで揃えた安物ばかりだが、現代世界の技術に追いついていない異世界ならば、どれもこれもが一流品の芸術品だろう。


 さらに、軍人である公爵が気に入りそうなコマンドーナイフも揃えてきた。うち一本は、オタクアニメで切り裂き魔が使っていそうな、機能性よりも見た目を重視した歪な形のナイフである。これらを湾刀と呼ぶらしい。


 ところで、このナイフ、刀身が歪に湾曲しているのだけど、どうやって鞘に収まるのかが理解できなかった。一応、鞘も付いてきたのだが、どうやっても鞘に収まらないのだ。意味が分からない……。


 まあ、人にくれてやる品物だから、どうでもいいか――。


 そして、二時間ぐらい待たされると、やっと謁見の番が回ってきた。どうやら俺たちの順番が最後だったらしい。


 俺たちは、ピノーを先頭に謁見室に入って行った。大きな両開きの扉を過ぎると、赤絨毯の先に件の公爵がうかがえる。


 謁見室の両脇にはフルプレートの騎士たちが警護しており、その背後に大臣たちが並んでいた。


 その中央に、そびえる銀製の玉座。そこに堂々と腰を下ろす厳つい中年男性。座っているために正確な身長は測れないが、おそらく180センチ以上。筋肉質で肉付きも良い。二の腕も太腿も太く見える。胸板も厚いのが衣類の上からでも分かった。


 フィリップル・アンドレア公爵。五十歳ぐらいに見えるオッサンだ。しかし、極道のような威圧感が濃い。


 そして、何よりも印象的なのは、その厳つい顔だった。


 髪型は金髪の角刈り。しかし、後ろ髪だけが長く、ポニーテールでまとめられている。


 眉毛は凛々しく釣り上がり、一時五十分を指していた。目は鋭く、鼻も高い。頑丈そうな四角い顎には髭が切り揃えられている。さらには頬に、戦士である証の刀傷が刻まれていた。


 あきらかに武人である。将軍として前線に立っていたというのは伊達ではないのだろう。放つ気配だけで、男臭さが伝わってくるようだった。


 城の謁見室で玉座にふんぞり返っているよりも、戦場の天幕で軍事会議を開いているほうが似合っていそうだ。


 俺はピノーに続いて謁見室に入ると、ピノーの動きを真似て後に進む。公爵に失礼がないように言われていたが、礼儀正しいのは空手道着の時だけで十分だ。この手の畏まった席は苦手に感じる。


 そして、俺たち三人は、公爵の前で礼儀を正した。片膝をついて頭を垂れる。


 ピノーが頭を下げたまま挨拶をした。


「フィリップル・アンドレア公爵陛下、本日はお目にかかれて光栄です」


「畏まるな、ピノー。いつも言ってるだろ」


 銀の玉座にふんぞり返る公爵が述べた。その横には妻の婦人と二十歳ぐらいの娘が立っている。どちらも絶世の美女だったが、冷たい感じの女性たちであった。妻カトリーヌと娘のセシリアである。


「ところで、ピノー――」


「ははぁ……」


「後ろに控えているのが、噂の商人なのか?」


「はい――。シロー殿、陛下に挨拶を」


 俺はピノーに促されて、しゃがんだまま一歩前に出る。そして、自己紹介をした。


『太陽の国から移住してまいりました、商人のシローと申します。今後、お付き合いをよろしく願いたく、挨拶に参りました』


「なあ、シローとやら――」


『なんでありましょう?』


 公爵は玉座の肘掛けに肩肘をつき、頬杖をついた姿勢でふてぶてしく言う。


「王族の前で、仮面とは失礼ではないのか?」


 威圧!


 玉座に腰を下ろしたままでシローを威圧してくる。それは、地獄を幾度と潜り抜けてきた修羅の殺気だった。まるで、片膝をついて頭を垂れている後頭部に戦斧を振り下ろそうとしているかのような威圧感だった。


 その威圧を感じ取ったピノーとチルチルまでもが怯えていた。二人の身体が僅かに震えている。


 しかし、シローは震えてすらいない。平然としていた。


 シローにとっては、この程度の脅しは慣れっこだったからだ。


 昔シローは、ヤクザ事務所に呼び出されて、五人の筋者たちに拳銃を突きつけられながら囲まれた経験もあるのだ。その時は賠償金で揉め事は収まったが、似たような状況が何度かあった。だから慣れてしまったのだ。


『これはこれは失礼致しました。ですが、仮面をつけていたほうが、女性たちには良いと思いまして――』


「何故だ?」


 頭を上げたシローが能面を外して素顔を晒した。すると、スケルトンな素顔を見た婦人と娘が息を飲んだ。婦人に至っては、僅かに悲鳴を上げている。


「髑髏……」


『はい、私はアンデッドでございます――』


 仮面を外したままのシローが再び頭を下げる。



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