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156【シレンヌ】

「それでは、シロー様。我々はこれで失礼します」


「テメー、この野郎! 今度会った時に、もう一度ボコボコにしてやるからな!」


「『――……」』


 ブラッドダスト城の戦闘メイドたちが礼儀正しく頭を下げる中で、興奮気味なティグレスだけが熱り立っていた。甲冑野郎を指差しながら罵倒している。


 俺の店の前から去っていくメイドたちは、それぞれ甲冑のパーツを抱えていた。甲冑野郎が着ていた女性用のフルプレートだ。ロングソードもカイトシールドも、メイドたちは余さず回収していった。


 俺の背後では、身包みを剥がされた甲冑野郎が内股の女の子座りで泣きじゃくっていた。その姿は、純白の全身タイツを着込んだ長身の娘のようである。


 今は両手で泣き顔を隠しているが、その表情は単眼で、口も鼻もないモンスターだ。体型も女子バレーボール選手のようにスマートで長身。たぶん、身長は二メートルはある。俺より高い。


 そして、鎧をメイドたちに剥がされて初めて気づいたのだが、胸がそこそこ大きい。甲冑で隠されていたが、随分と立派なものをお持ちのようである。


 さらにはスタイルも抜群だ。ウエストは引き締まり細く、腰は安産型。足は長く、太腿はむちむちしている。まるで売れっ子ファッションモデルのような美しい体型だった。


 ――これで、全身白タイツのような姿でなければ、惚れ惚れしていただろう。その白タイツのような姿が滑稽なのである。


 鎧を抱えた戦闘メイドたちが去っていくと、チルチルが店の中から白いシーツを持ってきて、甲冑野郎の肩にかけてやった。


 甲冑野郎は、チルチルに憐れみをかけてもらったと知ると、小さなチルチルに抱きついて、さらに泣き喚いた。よほど鎧を無理やり剥がされたのがショックだったのだろう。なにせ、剥がされる際には、かなりの抵抗を見せていた。


 しかし、メイドたちがここに来た理由は、甲冑野郎が城から盗み出した鎧の回収だったらしいから、仕方がない。


 シアンから話を聞けば、あの鎧はセットで大金貨三十枚分もするらしい。さすがにそれは、盗まれたからといってくれてやるには高すぎる価格であろう。そりゃあ、必死に回収にも来るわけだ。


 ――それにしても、この甲冑野郎をどうしたものか。いくら単眼の化け物でも、泣きじゃくる娘を放置してはおけないだろう。なんだか、可哀想である。


 俺はチルチルに訊いてみた。


『なあ、チルチル。こいつは、フラン・モンターニュから連れてこられたって言ってたが、帰る場所はあるのか?』


 俺の言葉を聞いて、暁の冒険団が気まずそうにしていた。そんな中で、甲冑野郎に話を訊いたチルチルが答える。


「無いそうです。なんでも、森の中で産まれたてだったらしいですから」


『なんだ、帰る場所も無いのかよ……。それで、こいつの名前は、なんて言うんだ?』


 チルチルが甲冑野郎に問いかけてから答えた。


「グレンヌと言うそうですよ」


『グレンヌね。よし、分かった。まずは朝ご飯を食べようか』


「はい!」


『グレンヌ。お前さんも来い。一緒に朝ご飯を食べるぞ』


 俺がグレンヌに背を向けて歩き出すと、その後ろにチルチルや、ニャーゴを抱えたブランが続く。その後ろ姿を、グレンヌが呆然としながら見つめていた。どうしていいのか分からないといった素振りで座り込んでいる。


 俺は、そんなグレンヌに気づいて、振り向いて言った。


『早う、来いよ。俺はグズは嫌いだ』


 さらにチルチルが、座り込んだままのグレンヌに駆け寄り、手を取って引っ張る。


「早くご飯を食べましょう。貴方もお腹が、空いてるでしょう?」


 ニコリと微笑むチルチルに手を引かれて、グレンヌも立ち上がる。そして、誘われるままに店内へと入っていった。


 店外に残された暁の面々が、顔を見合わせる。


「それじゃあ、俺たちも朝食に招かれましょうか」


「そうじゃのう!」


 そう言って暁の面々が店内に進もうとしたその時、入口が閉められた。さらに、鍵まで掛けられる。完全に締め出されていた。


 エペロングがドアノブを回しながら、寂しそうに俯いた……。


「俺たちも、シローの旦那が持ってきた飯を、食べたかったな……」


「そ、そうじゃのお〜……」


「アホー、アホー、どアホー!」


 暁の冒険団は、トボトボと裏庭のテント前に帰っていくのであった。



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