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16【商売の算段】

 俺が現実世界に戻ってくると、時間帯は昼間だった。まだ日の高い午前中である。


 現実世界と異世界では十二時間のズレがある。あちらが夜だと、こちらは明るい昼間なのだ。


 だから睡眠不要の俺には丁度良かった。どちらの世界でも昼間だけを有効に使える。


 しかし、姿がスケルトンな俺が、昼間だけ動いていて良いのだろうか。


 まあ、関係ないか――。アンデッドでもお天道様が高いうちから行動できるのは助かる。それに太陽光を浴びるのは健康に良いだろう。知らんけど。


 そして、俺は車に乗って近所のスーパーマーケットに買い物に出た。転売する塩を買いに行ったのだ。


「500グラムの袋を十袋っと……。それと、入れ替える袋用の布を買わないとな。いつまでも洋服を破いていたら効率が悪いしね」


 俺は別テナントで裁縫屋を見つける。そこで袋に使う布を束で買う。それらを一旦車に積み込むと、再びスーパーに戻ってみた。何か転売できそうな品物を探す。


「できれば右から左にそのまま流せる品物が良いんだが……」


 何せ詰め替えは面倒くさい。この先、取引が頻繁になったら特に煩わしい手間だ。その辺も考慮して品物を探してみる。


「異世界の文化レベルに支障を及ぼさない程度のアイテムはないかな〜。向こうの世界にもあるけど、こちら側のほうが高品質な物とかが良いのかな?」


 たまたま俺はお風呂用具の前に立っていた。そこには洗面用具などが並んでいる。


「歯ブラシとかは、どうだろう?」


 ふと想像してみる。


「そういえば、あの異世界は歯ブラシとかどうしているのだろう。歯ブラシは、それを調べてからだな」


 今度はシャンプーが目に入る。


「シャンプーとリンスとか、貴族の奥様方に受けたりしないかな。いや、待てよ……」


 シャンプーなどは、このポンプ式のプラスチックケースが問題だ。こんな便利な入れ物なんて、絶対に向こうの異世界にはないはずだ。そもそもプラスチックを簡単に持ち込んではいかんだろう。


 だとするなら、また詰め替えか。それは面倒くさいからやりたくない。


「シャンプーやリンスはボツだな……」


 ふと、俺は束子たわしが目に入った。


「たわし、か〜。これ、イケるんじゃね?」


 俺はスマホで束子の素材を調べてみた。束ねているのは針金。モサモサ部分はヤシの実からでも作れるらしい。


「これなら素材的にも問題なさそうだぞ!」


 俺は知っている。束子とは日本の企業が開発した特許品であることを。昔、テレビで観たことがあるのだ。だから海外には束子は存在しない。それ即ち、異世界にもないことになる。ヨーロッパとかだと、ブラシを使っていたと思う。


 そして、俺は試しと言わんばかりに束子を三個ほど買って帰る。これを明日にでもピノーさんに売り込んでみよう。


「値段は百五十円だったから、異世界では300ゼニルぐらいで売れるかな。それとも高いかな?」


 その辺はピノーさんと話し合って決めても良いはずだ。まあ、安い分だけ数を売る品物だね。それでも右から左に流すだけだから問題なかろう。


 しかし、もっと一気に大きく稼ぎたいものだ。小銭を稼いでいたら切がない。金塊30グラムまで稼ぐのに時間がかかり過ぎる。


 ならばと、さらに売れそうな商品を探し求めてスーパーを徘徊した。


 そして、食品コーナーの調味料棚で足が止まる。


「塩が売れるなら、他の調味料も売れるんじゃね」


 瓶詰めされた胡椒を手に取る。


「俺は聞いたことがあるぞ。昔は胡椒を黒いダイヤモンドと呼んだ時代があったとか、なかったとか……」


 そんなことをテレビで観た覚えがあるのだ。


 しかし、この瓶が邪魔だ。ガラス瓶では詰め替えが必要になる。


 あちらの異世界では、窓にガラスを使っていたが、随分と粗末なガラスだった。一般の家の窓枠には、ガラスすら使っていない家も多かった。


 チルチルに訊いてみたのだが、まだまだガラスは高価な代物らしい。窓にガラスを使っているのは金持ちか商店ばかりである。


 ガラスのグラスも見当たらなかった。酒だって瓶を使っていない。樽だった。


 ガラスのボトルやグラスは、お金持ちじゃないと持っていないとか。


 食器なども、一般家庭は木製で、お金持ちから陶製が使われるらしい。スプーンなども同様だ。


 そのような文化レベルの時代に、この瓶を持ち込んでも良いのだろうか……。


「ええい、面倒くさい。これはこれでこのまま売り込んでみよう。まずは現地人の反応を見ようか」


 行き当たりばったりの作戦だが、脳筋の俺には丁度良かろう。難しいことは苦手である。やらずに後悔するよりも、やってから後悔だ。そのほうがスッキリするはずである。


 さらに俺は玩具コーナーに立ち寄る。そこでビー玉が目に入った。


「これもガラスだよな。このぐらいなら行けないかな?」


 とりあえず、買ってみる。俺は小脇に抱えた籠にビー玉を入れた。


 そして、ビー玉の側に置いてあったピロピロ笛が目についた。


「これも面白そうだ。買っていってみようかな。あっ、ベーゴマもあるぞ、ヨーヨーもあるな。懐かしい〜」


 そこで我に返る。


「いかんいかん、童心に戻ってしまっていた……。ここはビー玉とピロピロ笛だけで我慢だ。玩具ばかり買い込んでいたら話にならん」


 俺は俺の悪い癖を思い出す。子供の頃は一人だったから、一人遊びの玩具に夢中になってしまうのだ。気をつけなければ……。


「そろそろ帰ろう。これ以上スーパーにいたら、いらん物を買い込んでしまいそうだ」


 それから俺は家に帰ると、異世界に戻る準備を整える。塩を袋に移したりと作業に取り組んだ。


 そして、異世界時間で早朝に戻ってくる。するとチルチルは可愛らしくベッドの上で眠っていた。まだ早朝だから、そんなもんだろう。


 俺は宿屋の一階に向かう。するとカウンターで店の女将さんが出迎えてくれた。


「お客さん、おはよう。なんだい、あんた朝が早いね〜。早朝からお出かけかい?」


『ちょっとランニングしてきます』


「ランニング?」


『習慣でね……』


 そう言い、俺は店を走り出る。しばらくモン・サンの町を走り回った。


 本当に、人の習慣とは簡単に抜けないものである。


 朝が来たら走る。それが脳筋馬鹿の習慣だった。



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