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152【シローの対策】

 朝日が遠くの山を越えて顔を見せる時間帯。ピエドゥラ村に構えられたシローの店の前では、フラン・モンターニュから連れてこられた甲冑騎士と人間たちとの戦いが続いていた。


 否。もう、戦っているのは人間たちではない。宇宙人であるクァールのニャーゴ。それに、スケルトンのシローと甲冑騎士の戦いは、見る人によっては鳥獣戯画の戦いに映るだろう。


 猫、骸骨、鎧騎士――。それだけ奇怪な戦いである。


「マージ、大丈夫ぞな。今、ヒールを掛けるぞい」


「す、すまぬ。プレートル……」


 庭の隅に避難した暁の冒険団は、プレートルのヒールで全回復している。今は座り込んでシローの戦いを見守っていた。


「どちらが、強いと思う?」


 スカーフェイスを革手袋で撫でながら観戦していたバンディが問うと、暁の冒険団のリーダーであるエペロングが、座り込んだままの姿勢で答えた。


「当然ながら、シローの旦那のほうが強いだろうさ。お前も知っているだろ、旦那の強さを――」


 妥当な判断である。


 しかし、ファーストインパクトで一太刀入れたのは、甲冑騎士だった。


 水面蹴りで両足を掬われ、宙を回転しながらも繰り出したロングソードの一振りが、シローの被る天狗の仮面を斬りつけたのは事実。本体に傷はつけなかったが、天狗の高い鼻を切断したのだ。その功績は大きい。


 その光景が観覧していた者たちには、強く印象に残っていたのだ。もしかしたら、剣技だけなら甲冑騎士のほうが上なのではないか、と疑わせた。


『なかなか、やるね〜』


 チタン製のメリケンサックを両拳に装着したシローが、鼻の折れた仮面越しに甲冑騎士を睨みつけていた。


 片や、甲冑騎士もロングソードをまっすぐに突き出しながら、凛々しく構えて見せる。堂々たる姿勢の構えだった。


 間合いだけなら、ロングソードを構えている甲冑騎士のほうが圧倒的に長い。しかし、シローは今までのどの対戦でも武器のリーチを無視して戦ってきている。対長物の対策は完璧なのだろう。


 チラリと一瞬だけ、シローの視線が後方に向けられた。後方で観戦しているチルチルたちに向けられる。


『おい、ニャーゴ』


『なんだニャア、シロー?』


『そのプロテクションドームって魔法で、店全体をカバーできないか?』


 チルチルに抱えられたままの黒猫は、後ろを振り向いてシローの店の大きさを確認した。それから答える。


『短時間なら、できんことはないニャア』


『どのぐらい?』


『余裕を見て、10分間かニャア』


『10分か――。まあ、十分だろう』


 そう呟いたシローが、ニャーゴにお願いする。


『すまんがニャーゴ。10分間でいいから、店全体を守ってくれないか?』


『おやつにチュールをくれるならやるニャア!』


『分かった。今日のおやつはチュール3本だ!』


『やったにゃあ〜〜〜ん!!』


 歓喜の鳴き声を上げた黒猫が、自分たちだけを包んでいた魔法のドーム型防壁を広げて、シローの店ごと包んでしまう。二階建ての建物が完全に防御魔法の庇護範囲に入った。


 それを確認したシローが、甲冑騎士に言った。


『よし、これでOKだぜ!』


 何がOKなのかと暁の面々が首を傾げた刹那、甲冑騎士の単眼が輝き、極太のビーム砲を放つ。


 その極太ビーム砲は、一瞬でシローの全身を包んだだけでなく、プロテクションドームでガードされていたシローの店にも撃ち当たる。


 眩い光が収まると、甲冑騎士の前方には焼け焦げた一本道ができていた。波動砲の火力で地面が焼かれた跡である。


 その焼けた一本道の真ん中に、腕を並べて眼前をガードしているシローの姿があった。


 しかし、全身が焼け焦げている。防御に使った両腕は骨がむき出しになり、腹や足の衣類も焼け落ちていた。それは、墓穴から這い出てきたばかりのスケルトンのようである。


 両腕のガードを下げたシローが言った。


『すげー火力の魔法だな、おい!』


 口調は強がっていたが、その姿はボロボロ。着ていたウェアは焦げ落ち、胸元と腰の部分しか残っていない。フードも焼け落ち、鼻のない仮面だけが残っていた。ほとんど骸骨の成りを晒している。


 だが、ニャーゴのプロテクションドームに守られていた店は無傷である。さすがはニャーゴの防御魔法だと感心した。


 シローは動きの邪魔になりそうな衣類を破き取りながら、甲冑騎士に言う。


『最初に大きな魔法を使ってくれて助かるよ。その魔法がお前の最大火力の魔法なんだろ?』


 シローには分かっていたのだ。それは、教訓からのスキル選択が功を奏した結果だった。


 教訓とは――ニャーゴ戦である。


 ニャーゴとの対決で、魔法に対する対策の重要性を痛感し、シローは新しいスキルとして魔法対策に特化したものを選択していた。


 それが、「魔法探知Lv3」と「魔法防御Lv3」のスキルだった。


 魔法探知Lv3が、甲冑騎士の鎧に秘められた魔法を察知し、魔法防御Lv3が攻撃魔法を耐え抜いて見せたのだ。


 さらに、甲冑騎士の波動砲光線を浴びる刹那、自身に「プロテクションマジックLv3」をかけていた。


 これらが、シローを波動砲光線から守った要因である。


 ちなみにシローがマージに聞いたところ、魔法防御Lv3は中級魔術師並みのセンスらしい。さらに、魔法探知には魔力を感知するだけでなく、多少なりとも魔法抵抗を向上させる効果もあるという。


 そして、プロテクションマジックLv3が間に合ったのも大きかった。


 それらすべてが、極太ビームに耐えきった理由である。


 魔法攻撃だけは、いくら格闘技を極めても対策が難しい――。そう考えたシローは、スキル選択に慎重を期していたのだった。


 マージが述べる。


「あの御仁……。さらに、隙が無くなったわい……」


「アホー、アホー!」


 どのような格闘技でも、基本は防御術にある。


 どのような格闘技でも、最初に習うのは防御からである。


 それは、代わらない。


 どんなに優れた攻撃力を有した選手でも、防御が疎かでは試合に勝てない。防御こそが武の真髄とも言えよう。


 いいや、防御こそが、すべての競技闘争の基本である。


 そして、異世界には魔法攻撃が付き物だ。それから身を守れなければ、いくら格闘技を極めたとしても生き残れない。


 だからシローは、魔法防御スキルを選択したのである。魔法攻撃対策を打ったのだ。


 シローは、この異世界でも最強を目指しているのだ。そのためにも、魔法防御は必須だと考えての行動だった。



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