149【甲冑騎士の圧勝】
「剣聖十字残!!」
「極楽ホームラン!!」
エペロングとプレートルが、甲冑騎士を前後から挟むフォーメーションで必殺技を繰り出す。
しかし、甲冑騎士は正面のエペロングの斬撃を、カイトシールドで受け止め、背後からのプレートルの攻撃には、背中にロングソードを添えて防いでみせた。
「なんていうパワーぞな!」
「この盾……硬すぎる!」
プレートルは、自慢の力技が不安定な体勢で防がれたことに驚いていた。
エペロングもまた、粗悪な盾ならば易々と叩き斬れるはずの技が、傷一つつけられなかったことに唖然としていた。
それもそのはず――。
甲冑騎士の使う盾は、魔法の一品。ヴァンピール男爵がサン・モンの闇市で購入してきた高価な代物である。エペロングの稼ぎならば、数年分の報酬に相当する。
その硬さは天下一品。ゾウが乗っても潰れないと言われるほどだ。強度が魔力で鍛えられている。
「ならば、あたいが貫く! スマッシュアローLv5!!」
ティルールが気合を込めて放った凶弾。それは、ブロック塀など容易く貫き、並のフルプレートなら一撃で貫通する威力を持つアーチャーの大技。優秀な弓兵であれば、Lv1は習得しておきたい必須スキルである。
ティルールは、それをLv5まで極めていた。それが彼女の最大の自信でもあった。
「盾ごと貫け!!」
弓から放たれた矢は、赤くオーラを纏い輝いていた。それは気合の光、自信の証。その矢が猛スピードで甲冑騎士に迫る――。
だがその刹那、甲冑騎士の頭上に雷光が走った。すると雷撃が、飛翔する矢に直撃する。
サンダーボルトLv5によって、スキル付きの矢は爆散して消滅した。雷で、矢が撃ち落とされたのだ。
「うそ〜ん……」
呆然と立ち尽くすティルール。これまでスマッシュアローを避けられたことはあっても、撃ち落とされたのは初めてだった。その事実に、目が点になる。
「ティルール、どくのじゃ! 今度は儂のファイアーボールで焼き払ってやるわい!」
魔法使いマージが、頭上に火球を作り出してティルールの前に出る。そして、そのファイアーボールを甲冑騎士に向けて投げつけた。
それを見たエペロングとプレートルは、一目散に飛び退く。爆発の巻き添えを警戒しての行動だった。
だが、甲冑騎士は微動だにせず、火球から逃げようとすらしない。盾を構える様子もない。ただ、ファイアーボールをまっすぐ見つめていた。
その直後、腰のベルトのバックル部分が光を放つ。そこから無数の魔法弾が扇状に放たれ、ファイアーボールを撃ち落としたうえ、マージとティルールにも襲いかかる。
「な、なんと! 拡散エネルギーショットだと!!」
それは、高レベル魔法。マージすら習得していない攻撃魔法である。
マージはとっさにローブを翻し、隣のティルールを抱えて身を庇う。その二人に、無数の魔法弾が容赦なく叩きつけられた。
「ヒィッ!!」
「うぐぐぐぐぅ……!」
マージは歯を食いしばり、魔法の打撃に耐えながら呻く。
やがて攻撃が止むと、彼女は片膝をつき、その顔は一瞬で疲労困憊になっていた。数年分も老けたようである。
防御に使ったローブはボロボロに裂け、いくつもの穴が空いていた。もしローブがなければ、二人は大根おろしのようにズタズタにされていたかもしれない。
「マージ、大丈夫!?」
「駄目かも……じゃ……」
ぐったりとしたマージが、ティルールに体を預けてくる。額からは血が流れていた。――もう、マージは戦えない。
「まずいぞな!」
プレートルが駆け寄ろうと走り出した瞬間、甲冑騎士が襲いかかってきた。どうやら彼をヒーラーだと認識しているようだ。回復をさせまいと邪魔に入ったのであろう。
「ぬぬぬっ!」
ロングソードが逆一文字に振るわれる。プレートルは咄嗟に胸を引いて回避したが、刃は鎧の胸元をなぞるように切り裂いた。鋼鎧がバターのように裂けたが、傷は浅く、大胸筋までは届いていない。
だが、次の一撃は防げなかった。
剣を回避した瞬間、プレートルの股間に、掬い上げるような蹴りが滑り込む。甲冑騎士のプレートブーツの脛が、プレートルの股間を真上に打ち抜いた。
「ひぐっ!!」
激痛に脳天まで貫かれ、股間を両手で押さえながら白目をむいたプレートルが、内股で崩れ落ちる。そのまま痙攣し、動かなくなった。
「プレートル!」
仲間の危機に動いたのは、バンディだった。腰から二段式警棒を抜き、二刀流のように構えて甲冑騎士に飛びかかる。
だが、甲冑騎士は盾を向けた――その盾が、突如として閃光を放った。
「ぬおっ!?」
閃光による目潰しだ。まさかそんな手を使うとは思わず、バンディは一瞬で視界を失う。
「くっ、クソッ!」
目を開けたその瞬間、彼が見たのは――両足を揃えて宙を飛ぶ甲冑騎士のブーツの裏だった。
「え、えっ!!?」
ドロップキックである。重たい鎧姿で飛び蹴りを繰り出してきたのだ。
「ぶへぇ!!」
両足蹴りをモロに食らったバンディは、そのまま吹っ飛び、近くの花畑に突っ込んで失神する。
「……まずいな」
続々と仲間が倒れていく光景に、エペロングは敗北を悟った。――この戦いは、暁の冒険団の完全な敗北である。
だが、そのときだった。
「猫式波動砲、発射!」
『にゃ〜〜〜ん!!』
唐突に放たれる波動砲光線が、甲冑騎士を包み込む。
エペロングがその発射方向を見れば、黒猫を抱えたチルチルが立っていた。波動砲を放ったのは、どうやらニャーゴのようだ。
『にゃ〜ん』
チルチルに抱きかかえられ、片手で毛づくろいをするような仕草を見せる黒猫。そののんびりした様子に似合わず、放たれたビームは強烈だった。
チルチルは、怒っていた。
「なんですか、人の店の前で朝から大喧嘩って!」
プンプンと怒る彼女の姿はどこか可愛らしく、場の緊張感を一瞬だけ吹き飛ばしていた。
非戦闘員の乱入である。




