表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

151/263

145【甲冑騎士の実力】

 ブラッドダスト城の中庭で、猫娘四人+パンダ娘に囲まれた、甲冑騎士(女性用アーマー覚醒バージョン)は、堂々たる佇まいでその包囲を許していた。囲まれているにもかかわらず、危機感を抱いている様子はない。凛々しく立ち尽くしている。


 中庭の壁を越えて吹き込む風に、背中の赤いマントが翻っていた。ピンク色の単眼が、何かを凛々しく見詰めている。


 甲冑騎士を包囲するのは戦闘メイド五人、猫娘四人衆である。その手にはショートソードとバックラーを装備し、シスコだけがハルバードを携えていた。


 猫娘たちはかなり獣人化が進んでおり、頭部はほとんど猫そのものである。ミオは黒猫、フブキは白猫、コロネは三毛猫、オカユンは鉢割れ模様だ。


 だがその分、身体能力も進化している。本物の猫のように、柔軟かつ軽やかな動きが可能なのだ。


 彼女たちは、【短剣流牙突撃術】と呼ばれる剣法を習得している。


 短剣流牙突撃術とは、ブラッドダスト城の戦闘メイドたちに広く教えられている剣術で、兎娘ラパンや狐娘ルナールも使う剣法である。非力な女性でも扱いやすい短剣を使うことから、巷でも女性戦士には人気の高い武術の一つだ。


 甲冑騎士を囲み、猫娘たちは腰の高さでショートソードを突き出して構える。シスコはハルバードを小脇に抱えて大きく振りかぶっていた。全員が、一斉に飛びかかるタイミングを探っている。


「行くわよ、みんな!」


「「「「にゃ!」」」」


 シスコの掛け声に、猫娘たちが頷いた。それから腰をわずかに落とし、踏み込みの構えを築く。


 その瞬間だった。甲冑騎士が、首を360度回転させながら波動砲光線を放った。全方向への無差別放射である。


「っ!?」


「首が回った!?」


「キモッ!!」


 戦闘メイドたちは即座に高く跳躍し、足元をかすめるピンク色に輝く波動砲光線を避ける。


 しかし、甲冑騎士の首はさらにもう一周回転し、今度は斜め上に向けて二周目の波動砲光線を放つ。


 二周目の波動砲光線は跳躍中だった戦闘メイドたちに直撃する。五人は中庭の壁際まで吹き飛ばされた。


「キャッ!」


 落下した戦闘メイドたちは綺麗に着地してみせたが、巨体のシスコだけが背中から落下していた。体術は苦手らしい。


 空中で被弾したことでダメージは軽微だったが、それでも確実に影響は出ている。メイドたちの髪や服が部分的に焦げていた。


「にゃ〜ん、熱いよ〜」


「あちっ、あちっ、あちっ!」


「いや〜ん、髪が焦げた〜!」


「特殊繊維の耐火メイド服じゃなかったら、丸焦げだったよ〜」


 緊張感の薄い愚痴をこぼす猫娘たちをよそに、シスコが立ち上がりハルバードを構える。力強く甲冑騎士を睨んで指示を出す。


「四人とも、機動力を活かして相手を翻弄して!」


「畏まりました〜!」


「はいはいにゃ〜ん!」


 指示を受けた猫娘たちがバラバラに駆け出す。その動きには統一感がまるでない。まさに翻弄を狙ったランダムな軌道の走りだった。


 翻弄された甲冑騎士は首を小刻みに振って猫娘たちの動きを追うが、狙いが定まらず、ただキョロキョロと視線を彷徨わせるだけだった。


「しゃっ!」


 突然、黒猫ミオが低空を這うように地を蹴り、甲冑騎士に突進する。そのまま脇腹を狙ってショートソードを突き立てた。


 甲冑騎士はカイトシールドで即座に防御。金属音が中庭に響き渡る。


 間髪入れず、フブキが高く跳躍して甲冑騎士へ飛びかかる。片足を突き出し、頭部への飛び蹴りを放つ。


「ライダー猫キッーク!」


 甲冑騎士は、ロングソードを持つ片腕を頭部の横で折り曲げ、肘でその蹴りを受け止めてみせた。


 続けて、低空からコロネが足元を狙って斬りかかるが、甲冑騎士は俊敏に片膝を上げて回避する。


「隙あり〜!」


 最後に背後から飛びかかったのはオカユン。完全に死角からの一撃だった。最初の三人は囮、本命は彼女だったのだろう。作戦通りの連携である。


 しかし甲冑騎士は、腰から上だけを不自然に回転させながら後ろを向いた。背後にロングソードを振るう。


「ウソっ!」


 オカユンは驚きつつもバックラーで反撃を受け止めたが、力に押されて吹き飛ばされた。


 芝生の上を転がったオカユンが呻く。


「惜しかった……でも、なにあの動き、ズルいよ〜……」


 歪な方向を向く上半身を元に戻し、甲冑騎士は再び周囲を見渡す。そして初めて、腰を落とし構えた。それは、どこか人間らしい戦闘の姿勢だった。


「今度は、私が!」


 シスコが叫び、甲冑騎士へと跳びかかる。ハルバードを大きく振り回しながら突進する。


「りぃゃあああっ!」


 掬い上げる軌道で振るわれたハルバード。甲冑騎士はそれを軽々とカイトシールドで受け止め、すかさずロングソードで反撃を振るう。


 しかしシスコも、剣撃を容易くかわしてみせた。


「ふぅ!」


 シスコと甲冑騎士が打ち合う。ハルバードが唸り、剣と盾が火花を散らす。


 その応酬のたびに、中庭内には激しい金属音が鳴り響いた――。


「行くわよ〜、みんな!」


「はいはいにゃ〜ん!」


 シスコと打ち合う甲冑騎士に、四方から斬りかかる四人の猫娘たち。各自が別々の部位を狙っていた。


 ミオは右手から頭部を、フブキは背後から脇腹を、コロネは太腿を、オカユンは心臓を狙って斬撃を振るう。四身一体の同時攻撃である。


 だが、甲冑騎士は素早く跳躍し、五人の頭上を取った。その空中から、雷の魔法を放つ。サンダーボルトの魔法である。


「にゃぁーー!!」


「キャッ!」


「ぃぃいいい!!!」


 五本の雷が、五人のメイドを頭から貫いた。奔る電撃が脳天から脊髄を走り抜け、足元にまで落ちる。


 雷撃を食らった五人は、白目をむいて地面に倒れ込む。口からは煙を吹き上げていた。


 雷を放った甲冑騎士は、なおも空中に浮かんだままである。空中で浮遊しているのだ。赤いマントが、凛と風に靡いている。


 地面に這いつくばりながらも、かろうじて意識を保っていたシスコが、その姿を見上げて呟いた。


「こんな……強力な魔法まで……使う、なんて……」


 その言葉を最後に、シスコも意識を失う。力無く失神した。


 浮遊したままそれを見下ろしていた甲冑騎士は、ふと遠くの空を見上げた。薄く棚引く雲を見つめる。


 そして、そのまま飛行し、中庭を離れていく。その飛翔の先は――シローの店がある方向だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ