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144【甲冑騎士の反撃】

 地下研究室の家具が破壊され、あちらこちらから火の手が上がっていた。研究資料や魔導書などが燃えている。


 しかし、単眼から放たれた波動砲光線は、岩壁を破壊するほどの威力はなかったようだ。紙や木材などを焼く程度の火力であり、城の石壁は崩れることすらなかった。


 だが、研究室内は火の海である。波動砲光線に巻き込まれたメイドたちの姿も見当たらない。


 ゆらゆらと燃え上がる炎の中を、ゆっくりと歩む甲冑騎士は、右手にロングソード、左腕にカイトシールドを構え、背中に背負った赤いマントが熱風で揺れていた。


 甲冑騎士が登りの階段を目指して歩いていると、燃え上がる家具の下からパンダ娘のシスコが巨体を表す。その額からは鮮血が流れていた。


「ぬぬぬ……。ティグレス、ラパン、無事か!?」


 辺りを見回しながら仲間のメイドたちを心配するが、他の仲間からは返答がない。すると、部屋の隅に倒れているラパンの姿を見つけた。頭を打っているのか、意識がないようだ。


「ラパン!?」


 すぐさま兎娘に駆け寄ったシスコは、彼女の上に重なっていた瓦礫を払いのけ、ラパンを助け出す。


「ラパン、大丈夫!」


 ぺしぺしと彼女の頬を叩くシスコ。すると、ラパンが唸り声をわずかに漏らした。どうやら気を失っているだけのようだ。


 そして、失神しているラパンを抱え上げたシスコが立ち上がった、その時だった。別の瓦礫の山を払い除けて、ティグレスが勢いよく立ち上がる。


「てぇやんでぇ〜、こんちくしょうが!!」


 火山の噴火のように瓦礫を吹き飛ばしたティグレスは、スレッジハンマーを片手に甲冑騎士を睨みつけ、早速戦意を向ける。


「よくもやってくれたな、この木偶の坊が!!」


 問答無用で甲冑騎士に飛びかかるティグレス。ジャンピングしながらスレッジハンマーを振り下ろす。狙いは、甲冑のヘルム。力任せに攻め立てた。


 しかし、甲冑騎士は片手のロングソードで斜めにスレッジハンマーの一打を受け止め、反対側のカイトシールドの側面をティグレスの腹に突き立てた。その一撃でティグレスは吹き飛ばされ、床を転がった。


「がっ、がは……」


 唖然である。


 ティグレスは床に転がったまま動けず、腹を抱えて咳き込んでいる。


 想定していた以上の攻撃力だった。一撃のボディーブローで呼吸ができなくなるほどである。まさか、これほどのパワーを有しているとは思いもしなかった。


 甲冑騎士は三人のメイドたちを無視して階段を目指す。その背中を、炎が煽り、赤いマントが揺れていた。


「ち……ちくしょう……。気取りやがって……」


 スレッジハンマーを杖代わりにして立ち上がるティグレスは、再び攻撃を仕掛けようと甲冑騎士を睨んだ。その瞬間だった。殺意を察した甲冑騎士がティグレスの方を向く。


 そして、単眼から再び巨大波動砲光線を放った。光の津波がティグレスを包み込む。


「ティグレス!?」


 鬼気迫る声を上げたシスコが、ティグレスを心配した。


 しかし、極太の波動砲光線を全身で浴びたティグレスは、壁際まで吹き飛ばされ、石壁を背にしたまま大の字で張り付けられたかのような姿勢で白目を剥いていた。衣類や髪の毛は焦げ、煙が上がっている。


「あ……あぁ……」


 僅かに声を漏らしたティグレスは、壁を背にしたまま崩れ落ちた。完全に意識を失ったようだ。


 それを確認した甲冑騎士は、無言のまま階段を登っていく。静かに研究室を出て行った。


「まずは、避難と消火が先決ね……」


 シスコもラパンを抱えながら階段を登り、地下から出る。すると騒ぎを聞きつけた一般メイドが数人駆け寄ってきた。


「シスコ様、何が起きたのです!?」


「事情は後で話します。まずは地下にティグレスが倒れていますから、助け出してきてください。残りの方は消火に回って!」


「はい、畏まりました!」


 一般メイドたちは指示通りに動き出す。すぐにティグレスが救出され、火事の消火作業も始まった。


「誰か、ラパンを医務室に!」


「はい!」


 一般メイドの一人がシスコからラパンを受け取ると、医務室に運んでいく。すると、戦闘メイドのミオ、フブキ、コロネ、オカユンがシスコの前に現れた。


「どうなさいました、シスコ様?」


「丁度良かった。あなたたちは、私についてきて!」


「はい!」


 理由もわからないままシスコに続く四人の戦闘メイドたち。シスコは、先に地下室を出て行った甲冑騎士を追った。


 おもむろに窓のカーテンをはぐって外を見るシスコが、中庭を進む甲冑騎士の背中を見つけた。悠々と歩いている。


「いたは……」


 他の戦闘メイドたちも窓の隙間から甲冑騎士の姿を確認する。


「あれは、地下室に置かれていたリビングアーマーの素体?」


「あれが、どうかされたのですか?」


 カーテンを閉じたシスコが、事情を知らない四人に説明する。


「フラン・モンターニュから持ち込まれたモンスターに、甲冑が乗っ取られたのよ。それが、暴れているの」


「あら、まあ……」


「いい、私たち五人で止めるのよ。敵は、瞳から破壊力の高いビームを放つわ。それだけは注意してね!」


「「「「了解!」」」」


 走り出した五人は、すぐさま中庭に飛び出し、甲冑騎士を囲んで身構えた。



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