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137【甲冑騎士の戦い】

 森の奥から歩み出てきた甲冑騎士は、明らかに人ならざる気配を放っていた。纏う妖気が、それが魔物であることを示している。


 全身を覆うのは古びたプレートメイル。右手には片手用の戦斧、左腕にはカイトシールドを装備している。


 身長は高く、おそらく二メートルほどだろう。長身のエペロングよりもさらに大きい。


 そのためか、甲冑と手足の長さが合っておらず、首、肘、膝、手首、足首、腹、股関節に隙間が目立つ。その隙間からは白い布のようなものが覗いていた。鎧の下に着ているインナーのようだ。


 長身の体つきは、まるでバレーボール選手のようにしなやかで均整が取れている。


 そして何より、この存在が人間ではなく魔物だと明確に示しているのは、ヘルムの覗き窓から覗く単眼であった。


 その単眼はピンク色に輝き、顔の中心――人間なら眉間にあたる位置に一つだけ光っている。まるでサイクロプスのような異形だった。


 ピンクの瞳は覗き窓の内で左右に大きく動き、暁の冒険団の五人を順々に観察している。右から左へ、まじまじと見つめる様子は獲物を値踏みする捕食者のそれだった。


 弓を構えるティルール、背中の長剣に手をかけるエペロング、二段式警棒を握りつつ腰の短剣に手を伸ばすバンディ、既にメイスを抜いているプレートル。そして、マージだけが堂々と動かず立ち尽くし、その肩に止まったカラスが代わりに鋭い視線を向けていた。


 暁の冒険団は、警戒から戦闘態勢への移行を終えていた。相手が敵意を見せれば、即座に先手を取る覚悟だ。


 甲冑騎士は単眼で五人を睨みつけながら、かすかに漂う臭いを嗅ぎ取っていた。


 それは、髑髏の書の気配――シローの残り香であった。五人から微かに漂うその匂いが、甲冑騎士の怒りを呼び覚ます。


 標的そのものではないが、放置はできない。この穢れを断たねばならぬと、甲冑騎士は思った。それが、自分の使命だと知っている。活きる理由だとも理解できていた。


 甲冑騎士は重い体を、ゆっくりと動き出すと、直立の姿勢から前方へ体を傾け、陸上選手のクラウチングスタートを思わせる体勢をとった。尻を立てて、上半身を地に傾ける。


 次の瞬間――。


 ダンッ、と大地を蹴り、弾丸のような速度で五人に突進する。蹴られた地面が抉れて後方に津波のような勢いで飛んだ。


 だが、先手を取ったのは暁の冒険団だった。構えていたティルールが初弾の矢を放つ。


 しかし、初弾の矢は、甲冑騎士のカイトシールドで防がれた。


 甲冑騎士はカイトシールドで矢を弾き、減速することなく盾を構えたまま、先頭にいたバンディに突撃する。


 シールドアタック――盾による体当たりだ。


「ぐはっ!!」


 激突の瞬間、甲冑騎士は盾をわずかに上向きにしてバンディを持ち上げるように突き飛ばした。バンディの体は宙を舞い、仲間たちの頭上を越えて後方へ吹き飛ばされる。


 だが、他の四人は一切目を逸らさなかった。敵を凝視したまま、次の行動に移る。


「極楽ホームラン!」


 左側から回り込んだプレートルがメイスを振り抜く。スキルの一撃を込めた強打だった。


 しかし、甲冑騎士はそれを難なく盾で受け止め、身じろぎもせず、片手斧で横薙ぎの反撃を放つ。


「おおう!」


 プレートルは咄嗟にバックステップで斧を避け、間合いを取る。すかさず、反対側からエペロングが長剣を振るった。


「飛燕燕返し!!」


 袈裟斬りから逆袈裟斬りへ。V字に煌めく斬撃が甲冑騎士を襲う。


 だが、甲冑騎士は蝶のように舞うステップで二連の斬撃を避けきった。


「躱すか、こんちくしょう!」


「エペロング、下がって!」


 ティルールが叫ぶ。エペロングが跳び退いた瞬間、彼女はスキル・スマッシュアローLv5を放つ。ブロック塀を貫くほどの威力の矢が、一直線に甲冑騎士を狙う。


 甲冑騎士は盾を構えたが、スマッシュアローはカイトシールドを貫通し、甲冑騎士の肩を撃ち抜いた。


 貫通弾の衝撃に甲冑騎士の体が僅かにぐらつく。その隙を見逃さず、エペロングとプレートルが同時に斬りかかる。


「ふんっ!!」


「斬ッ!!」


 プレートルのメイスが後頭部を打ち据え、エペロングの剣が脇腹を裂く。更に続けてマージが放ったファイアーボルトが胸を焼き、甲冑騎士の体を魔法の威力で後方へ吹き飛ばした。


 三連攻撃をすべて食らった甲冑騎士は地面に仰向けに倒れ、胸から煙を立ち上げながら動かなくなった。


 しかし、エペロングに斬られた脇腹から血は流れていない。それを見て、やはり魔物かと確信する冒険団だった。


 それでも確実に討ち取ったと認識している。それだけの攻撃を浴びせたのだ。


 後頭部への強打。脇腹への斬撃。更には胸元への魔法攻撃。どれもこれも致命傷の一撃だろう。それを三撃同時に喰らったのだ。絶命してもおかしくない。


「ひぃ〜……。倒せたか、あのクソ野郎を?」


 シールドアタックで吹き飛ばされたバンディが顎をさすりながら戻ってくる。口元から血が滲んでいた。だが、軽症だろう。これならばプレートルのヒールで直ぐ治る。


 バンディは倒れた甲冑騎士に近寄り、二段式警棒で甲冑を突いて確認する。甲冑騎士はピクリとも動かない。


「死んだみたいだな……」


 そう言ってバンディがヘルムの覗き窓を覗き込んだ、その瞬間だった。


 甲冑騎士の単眼が再び妖しく輝いた。


「うそっ!?」


 バンディが慌てて立ち上がろうとしたところを、二度目のシールドアタックが襲う。甲冑騎士の盾が横振りでバンディを叩き伏せた。


「ぎゃふん!」



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