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135【最後の仕事】

 冒険者の現役時代は、非常に短い。現実世界で言えば、プロのスポーツ選手と同じくらいしか活躍できない。せいぜい四十代半ばまでが限界だろう。


 もちろん、生涯現役を貫こうとする者も少なくないが、大概は老化による体力の衰えを感じ、引退を余儀なくされる。


 多くは三十代までにキャリアと経験を積み、成長を重ねていくが、四十代を越えると成長も止まり、経験を積む機会も減り、年齢による体力の低下を強く感じて引退するのだ。


 その潮時を見極められず、無理を重ねて現役を続ければ、冒険の最中に命を落とすのが落ちである。年を重ねれば重ねるほど、死ぬ可能性は高くなる。


 だからこそ、冒険者にとっては引き際が大切なのだ。それを見誤れば、冒険の地で朽ち果てる羽目となる。


 プレートルは、まさにそれを考える段階に来ていた。


 現在、三十歳。引退にはまだ若干早いかもしれないが、次の進路があるなら、早めに身を引いても良い年頃だろう。


 教会と住居が与えられ、当主からは毎月3000ゼニルの寄付が約束されている。さらに村人からの御布施を考えれば、これまでの生活よりもずっと楽な生活が約束され、安定した教会の運営ができるだろう。


 もしこの機会を逃せば、教会持ちの神官という地位は二度と手に入らないかもしれない。


 そう考えれば、これ以上ないほどの良い引退のタイミングだった。


 早朝の食事中。焚き火に掛けた鉄鍋を囲みながら、プレートルの引退話を聞いていた暁の冒険団の面々は、スープを掬うスプーンを止め、驚いていた。


 しかし、驚きつつも冷静に、プレートルの話を最後まで聞いてくれた。


 プレートルはヴァンピール男爵からの申し出を包み隠さずすべて話し、仲間たちは納得してくれた。


 皆が笑顔で言う。


「そうか〜、プレートルも引退しちゃうのか〜」


「すまんな、ティルール……」


「それにしても、こんな田舎の教会に落ち着くとは意外だったな」


「でも、ここは長閑でいい土地だし、神官業にはうってつけだろ?」


「獣人の村で、当主がヴァンパイアってところを除けば、最高だもんな」


「ガーハッハッハッ。拙僧は、差別の少ない人間だからのぉ。信仰してくれる者が獣人だろうとアンデッドだろうと構わんからのぉ」


「なら、問題は無いね〜」


 こうして、引退の話をすんなりと受け入れた暁の面々は、高笑いでプレートルの門出を祝った。


 ――とは言っても、完全引退は教会の改築が終わってからである。それまでは、まだ現役冒険者なのだ。


 朝食が終わった頃、プレートルはもう一つの話を思い出し、仲間に切り出した。


「そういえば、ヴァンピール男爵から依頼が来ていたのだが――」


「なんだい、プレートル。依頼って?」


「フラン・モンターニュの生態系調査だ」


「生態系調査?」


「前回のゴブリン事件で、周辺の生態系が乱れていないかの調査だ。それと、上層部の探索も頼まれた。知らないうちに変なモンスターが繁殖していないか、調べてほしいそうだ」


「それって、討伐も含まれてるのか?」


「いや、生態系調査のみで、戦闘は含まれていない。もし危険なモンスターがいたとしても、報告を優先してほしいとのことだ」


「なら、簡単な仕事だな。それで、報酬はいくらって言ってた?」


「五人パーティーで10000ゼニル。一人頭2000ゼニルだそうだ」


「案外割がいいわね〜。受けましょう、エペロング〜」


「そうだな。すぐに返事をしよう!」


「そう言うと思って、もう承諾しておいたぞい」


「察しがいいわね、プレートル」


「長年このパーティーに居るからのぉ〜」


「で、期限はいつまでだ?」


「一ヶ月以内に完了してほしいそうだ」


 それはちょうど、境界線砦が教会へと改築される頃合いだろう。つまり、この仕事が、冒険者としてのプレートルの最後の仕事となる。



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