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121【脱出のスケルトン】

『ぐぅぐぅ……』


『ニャアニャア〜!』


 黒猫が二本の触手を巧みに使って仕掛けるコブラツイスト。それは、ジャングルの巨大な錦蛇が戸愚呂を巻く姿を想像させるパワーで、シローの骨格を締め上げる。腰、肩、鎖骨の繋ぎ目が軋んで壊れそうであった。


『これだけじゃあ、ないにゃ〜!』


 言うなり、シローの肩の上でシローの頬を蹴りつけながら力むニャーゴが魔法を唱えた。すると、眼の前の地面が盛り上がり、人型を作り出す。それは、ゴーレムだった。


『ストーンゴーレムよ、こいつをぶん殴れ!』


「「ゴゴゴゴゴォ!!」」


 地面から生まれ出たゴーレムは、土の塊のマッチョマン。その身長は三メートル近い巨漢だった。無表情の泥面に、殺意だけが涼やかに満ちていた。


 しかも、それが二体いる。


『ま、ま〜ず〜い〜……』


 コブラツイストで動けないシローの髑髏面から、血の気が引くのが分かった。さすがのシローも、拘束されたままで殴られるのはまずいのだろう。さらに相手は、岩の拳を有した魔人だ。さぞかしパンチ力に自信があるだろう姿であった。


「「ゴゴゴゴゴォ!!」」


 ゆっくりとした足取りで、動けないシローの眼前まで迫ったストーンゴーレムたちが、重々しい剛腕を振りかぶった。石の拳で殴りかかろうとする。


「させるか!」


 ガギィーーーンッと、殺伐とした打撃音が響く。


 殴られたのはストーンゴーレムの方だった。後頭部を、棘付きガントレットとハルバードで強打される。


「多勢に無勢とは、卑怯なり!」


「助太刀します、シロー様!」


 後頭部を殴られたストーンゴーレムが振り返ると、そこにはゴリラアームメイドとパンダメイドが武器を構えて立っていた。戦闘メイドのソフィアとシスコである。


 シスコがハルバードを振り回しながら言った。


「シロー様。この土塊どもは、わたくしたちにお任せあれ!」


 しかし、未だにコブラツイストに捕らえられているシローが、薄笑いながら言葉を返す。


『いや、ちょっと待ってくれ』


「「??」」


『何か、おかしいな〜って思ってたんだよ。今、冷静に辺りを見回して思い出した』


「「んん?」」


 クスリと鼻息を吐いたシローが、冷めた口調で言った。


『なんで、俺たちは戦っているんだ?』


 ソフィアが言う。


「それは、襲われたから……」


 ニャーゴが言う。


『お前たちが、襲ってきたからだ……』


 両者、同意見――。


 その言葉を聞いて、シローがメイドたちに訊く。


『俺たち、こいつを襲ったか?』


 ソフィアとシスコも首を横に振る。


『でも、襲われたよな。だから戦っているんだよな?』


 ソフィアとシスコが首を縦に振る。


『あ〜……』


 二人のメイドの様子を見ていたニャーゴの触手が、僅かに緩んだ。それを感じ取ったシローが、コブラツイストに励む黒猫に言った。


『技を緩める必要はないぜ』


『んん……?』


『ぬぬぬぬっ!!』


 再び全身に力を込め始めたシローが、コブラツイストの締め付けに抵抗を始める。途端、シローの身体がバラバラに砕けた。締め上げられていた骨が砕けて崩れたのだ。


「「えぇーーー!!」」


 バラバラに砕け落ちたシローの全身骨格。しかし、次の瞬間に、髑髏が魔法を囁いた。


『ボーンリジェネレーションLv2!』


 その魔法を唱えた直後、地面に散らばっていたシローの骨がカクカクと動き出すと、一つにまとまっていく。その動きはゆっくりだったが、着実に合体を繰り返し、再生して復活していく。


 まだ地面に転がっている頭蓋骨が喋った。


『あ〜、まだレベル2だと、再生速度が遅いな。もっと早く再生しないと使いもんにならないぞ、こりゃあ……』


 だいぶ時間がかかったが、最後の頭蓋骨が首に繋がると、倒れていたシローが立ち上がる。スケルトンの完全復活であった。


『バラバラに砕いても、復活するかニャ〜……』


 くっついたばかりの首筋をカクカクと解しながら、シローが嫌味を言った。


『猫のお前さんとは、鍛え方が違うんだよ』


『にゃめやがって……』


 再びニャーゴが睨みを効かせると、黙って立ち尽くしていた二体のゴーレムが、背後からシローに手を伸ばした。骨の肩に岩の手が触れようとした刹那だった。


『シュ、シュ!!』


 左右の二連脚。


 右の上段回し蹴りからの、左の後ろ回し蹴り。


 その二脚は、風を斬るブレードの刃のように、ストーンゴーレムの首を二体連続で静かになぞった。


『!?』


 すると、ストーンゴーレムの動きが止まる。その直後に、土塊の首が切断されて後ろに落ちた。


 蹴り技が、刃物の領域に達した瞬間だった。


 二体のストーンゴーレムは崩れ去り、土に戻る。


『凄い蹴り技だニャ……』


『お褒め頂きありがとう――』


 道化師のようにお辞儀をしたシローは、頭を上げると周囲を見回す。そして、お堂のほうを見た。


『俺たちは、襲われたから身を守ったが、お前さんは、ここを守る必要があったから俺たちを襲ったんだよな?』


『むむ……』


 ニャーゴが言葉を詰まらせた瞬間に、シローがお堂に向かって走り出した。


『貴様っ!!!』


 そして、ジャンプ。


『ひゅ〜〜〜!!』


 さらにはお堂に向かって踵落としで急降下していく。シローは完全に、踵落としでお堂を粉砕するつもりのようだ。


『させるか!』


 シローの降下よりも速い動きでお堂の上に移動したニャーゴが、魔法のバリアを張る。


『プロテクションドーム!!』


 黒猫の全身を包む丸い球体の魔法シールド。その半透明な壁が、ニャーゴごとお堂を守った。魔法シールドが踵落としを受け止めている。


『やっぱりな〜』


『ぬぬぬ……』


『お前が守っているのは、そのお堂だな。――否。その、髑髏の水晶を守っているんだな!』


『クソにゃ……』


 ウィークポイント、見付けたり――である。



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