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117【黒猫】

 偵察として頂上に飛ばしていたドローンが墜落してしまったので、仕方なく俺たちは全員でフラン・モンターニュの最頂部を目指した。崩れた坂道を這いつくばりながら上を目指す。


『下から見たよりも、坂は緩いな』


「そうですか、シロー殿。私にはきつい坂ですぞ。ハァハァ……」


 俺の後ろに続いていたプレートルが汗を流しながらぼやいていた。割腹の良いプレートルにはしんどい坂道らしい。それに、着込んでいる鎧が重石なのだろう。


 しかし、身軽なメイドたちはすんなりと跳ねるように坂道を登っていく。さすがは猫系の獣人たちである。だが、チャンコ型パンダのシスコだけは息を切らしながら坂道を登っていた。なんとも脂肪が重そうである。


「ひぃ〜、きついデブ〜」


「ほらほら、シスコちゃん、頑張れ〜」


 絶壁に挟まれた坂道は100メートルぐらい続いていた。以前はゴブリンの洞窟があった場所が崩れてできた坂道なのだが、ちょうど良い感じの傾斜となっている。明らかに絶壁を登って上層部を目指すよりも楽だった。


「ひぃ〜、やっと頂上だ〜」


 俺たちはフラン・モンターニュの頂上に到着した。先に登頂していた猫娘たちが周囲を警戒している。遅れて登頂したプレートルとシスコの二人が地べたに座り込みながら息を整えていた。


 ソフィアが俺に問う。


「シロー様。機械獣が墜落したのは、どちらですか?」


『たぶん、あっちだろう』


 俺が指を刺した方向は、薄気味悪い草木に囲まれた森の奥だった。森林の奥深くから冷たい風が流れ出てくる。


 ハルバードを杖代わりに使い立ち上がったシスコが、狐娘のルナールに問うた。


「ルナール、何か臭うかしら?」


 ルナールは狐の嗅覚を活かして空気を探る。


「獣の臭いがします。猫……かな。自信はないわ」


『やっぱり猫か――。黒豹とかじゃないことを祈るばかりだな』


 そう呟き、俺が森に向かって歩みを進めると、その前に猫娘の四人が出てくる。


「シロー様、先頭はうちらに任せてください」


『ああ、任せたよ、ミオ』


 俺は先頭を猫娘たちに任せた。代わりに周囲の警戒を強める。


 そして、少し森の中を歩いたところで墜落したドローンを発見した。そのすぐ側には、積み上げられた岩の上のお堂も見つける。ここが画像で見た場所なのは間違いない。


 俺は墜落したドローンに歩み寄ると、機体を回収する。


『どうやら派手には壊れていないな』


 そう言いながらドローンをアイテムボックス内に仕舞った。


 そんなこんなしている間に、猫娘たちがお堂に近付き岩山を調べ始めていた。


 丹念に岩山を調べたコロネが言った。


「岩に、トラップは仕込まれていないわ」


「じゃあ〜、問題は、お堂だね〜」


 オカユンに促されたコロネが続いてお堂の周辺を調べ始めた。そして、何もないことを確認すると、そっとお堂の扉を開ける。


 岩山の上のお堂は、人の頭が入るぐらいのサイズ。木造で、日本では珍しくない小型の形のお堂である。


 しかし、ここは異世界。ヨーロッパ風の世界観には削ぐわない代物だ。


 そして、ゆっくりとお堂の扉を開けたコロネが中を覗き込んで小声を漏らした。


「うわ〜、お宝だ〜」


「えっ、なになに!?」


「ちょっと、うちにも見せてよ!」


「僕にも見せて〜!」


 興味に引かれた猫娘たちが我先にとお堂の中を覗き込む。その背後から俺も長身を活かして、猫耳の頭越しにお堂の中を覗き込んだ。


『髑髏の水晶……だな?』


 お堂の中に収まっていたのは、水晶で作られた髑髏の頭蓋骨だった。それは、明らかにお宝と呼んでも問題がないレベルの秘宝だろう。


 突如のお宝の出現に、猫娘たちのテンションが上がる。そして、オカユンが手を伸ばして髑髏の水晶に触れようとした途端、ソフィアに手を捕まれて止められる。


「触れるのは危険よ。この髑髏から何か魔力を感じるわ。たぶん何らかのマジックアイテムよ」


「それじゃあ、なおさらお宝じゃないの〜。ラッキ〜」


「そんなことよりも、まずは行方不明者の捜索が先よ。我々がここに登ってきた目的を忘れたの?」


「ああ、そうか〜。忘れてた〜」


 舌を出しながら自分の頭をコチンと叩くオカユン。なんか、悪戯っぽいが可愛い。鉢割れ猫娘、侮れん。


 その刹那だった。森の中を駆け回る殺気を察する。その殺気に皆が気が付き身構えた。


 周囲を警戒する全員。その手に持った武器を強く握り締めながら陣を組む。お堂を中心に輪を組んでいた。流石は戦闘メイドたちだ、咄嗟のフォーメーションを心得ている。


 各自が自分たちの前方だけを凝視する。周囲は森に囲まれている。その森の中を、小さな動物が駆け回っていた。数は一匹だろう。だが、速い。――速いが、サイズからして脅威度は低く感じていた。


『来る!』


「きゃあ!!」


 一瞬の出来事だった。俺の後方を守っていたフブキの姿が空中に跳ね上がった。それはまるでバッファローに撥ね飛ばされたかのような勢いで宙を舞う。


「ぃいっ!!」


 しかも、次の瞬間には、空中で直角に飛ぶ方向を変えて、森の中に引っ張られていった。フブキの姿が森の中に消えてしまう。


「なに、今のわ!?」


『分からんが、行方不明事件の真相だろうさ!』


「きゃぁああああ!!」


 続いてコロネが森の中に引きずり込まれる。


「な、なに!?」


 分からない。分からないが、何かに襲撃されているのは間違いない。しかも、速い。それに、パワーも優れている。


「きゃっあ!!」


 今度はオカユンが一瞬の間に、森の中に引きずり込まれた。


 刹那、唐突に、脳内に声が響いた。


『立ち去れ――』


 テレパシーだった。俺と同じ感じのテレパシーだった。


 俺が振り向くとお堂の上に黒猫が鎮座していた。


『黒猫ッ!?』


 黒猫は澄ました表情で述べる。


『我が種族は、クァール族。優れた知能を有した宇宙生命体である。控え、控えよ〜!』


『なんだよ、この黒猫は……』


 宇宙生命体を自称する黒猫は、背中に尻尾よりも長い触手が二本生えていた。その触手が器用にうねっている。



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猫さんや、須く生命体は宇宙生命体では?
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