116【機械獣の瞳】
【設定変更のお知らせ】
フラン・モンターニュの高さが2〜250メートルとなっておりましたが、少し高過ぎると思いまして、約100メートルと変更されました。文章は編集されてますが、先行して読まれている方へのお知らせです。今後とも宜しくお願い致します。
ちなみにフランはフランス語でプリンです。さらにブランはフランス語で白と言う意味です。紛らわしいですが勘弁してください。
俺と戦闘メイド七人、それとプレートルを加えた九名でフラン・モンターニュに向かった。そして、森を抜けると先日戦場となっていた洞窟前に到着する。
その洞窟はゴブリンとの戦闘後に崩れて埋まってしまっている。その崩れた洞窟の跡地がクレパスとなって絶壁の間に坂道を作っていた。件の二人は、ここから上に登って行方不明になったらしい。
絶壁の前で上を見上げる戦闘メイドたち。その数は現在七人いるのだが、戦闘メイドは全員で十人いるらしい。
俺が見たことがあるのは、メイド長のシアン。垂れ耳の犬系獣人で、レッサーバンパイアのお姉さんである。しかし、今日はいない。ヴァンピール男爵の護衛の任に付いているとか。
そして、今いる戦闘メイドの中では一番強いだろうと思われるソフィアは、戦闘メイドの副長。金髪ロン毛の美人さんだが、両手が大きなゴリラ娘である。彼女もまたレッサーバンパイアなのだ。
あと、見たことがあるのは狐娘のルナールぐらいだ。しかし、彼女とは一言も話したことはない。なんか知らんが、俺には近寄ってこないのだ。よそよそしいのである。
さらに今いる七人の中で、やたらと目立つのはパンダ娘のシスコ・リンジーンだろう。
身長は2メートルに近く、体格は関取のようなチャンコ型。彼女は獣人化がかなり進んでおり、完全にパンダがメイド服を着ているようにしか見えない。
しかも、ハルバードで武装しているから、なんだか威圧感を放っている。
しかし、話してみると穏やかな口調で、人当たりも優しいのだ。のんびり屋といった雰囲気である。これでありながらも彼女はレッサーバンパイアだと言うから驚きである。これではレッサーパンダではないかと思ったが口には出さない。
さらに驚いたことに、彼女は我が家の100メートル先のお隣に住んでいるリンジーン夫妻の娘らしい。
この村では、家業を手伝いながらヴァンピール男爵のブラッドダスト城でメイドに励んでいる者も何人かいるらしいのだ。
そもそも、副メイド長のソフィアも、大工のムニュジエ・ゴリーユの娘である。
残る四人も獣人メイドなのだが、黒猫娘、白猫娘、三毛猫娘、鉢割れ猫娘である。なんだか猫系獣人が多い。ちなみに名前は、ミオ、フブキ、コロネ、オカユンらしい。
この四人でメイド猫喫茶を経営したら大ヒット間違いなしだろう。俺なら常連として通うのが間違いないレベルの美少女たちである。
絶壁に挟まれた坂道を見上げながら黒猫娘が述べる。
「うちがひとっ走りして、頂上を見てこようか?」
「ミオ〜、危ないよ〜。もっと慎重に行かないと、バカ虎やバカ兎のようになっちゃうよ〜」
「オカユンは、失言がひどいよ。もう少し言葉を選ぼうね」
「も〜、コロネは真面目だな〜。もっと気楽に行こうよね〜」
すると鉢割れ猫の背後からゴリラアームの拳骨が降ってくる。オカユンの頭を叩く摂関の注意が入った。
「こら、オカユン。もっと真面目にやりなさい。仲間が行方不明になっているんだぞ!」
「ごめんなさ〜い、ソフィア〜。そんなに怒らないで〜……」
そこに割って入ったのはプレートルだった。
「まあまあ、ソフィア殿。そんなに慌てないでくだされ。まだ行方不明になった二人が命の危機に陥っているとは限りませんゆえ、冷静に行きましょうぞ。ただ道に迷っているだけかもしれませぬし」
ソフィアは俯きながら言う。
「ティグレスだけなら迷子もあり得ますが、ラパンが一緒で迷子はあり得ないでしょう……」
おいおい、ティグレスって、そんなに信用がないのかよ……。
「どちらにしろ、上に上がって捜索しないとならないわよ。どうするのさ?」
『ちょっと待ってくれ』
「「「「「「???」」」」」」
皆の視線が集まる中で、俺はアイテムボックスから現代の代物を取り出した。それは、四つのプロペラが装着された飛行型のドローンである。
クワッドコプターと呼ばれるタイプらしく、全長は30センチ×30センチほど。重さは100グラム未満らしい。最大の特徴は、カメラが搭載されており、送られてくる映像を見ながら操作できることだ。コントローラーにはモニターが付いている。
数年前に13万ほどで買ったのだが、日本では飛ばすのに許可が必要らしく、ほとんど使用していなかった。それを異世界に持ってきたのだ。異世界なら許可など要らないから、飛ばし放題である。
「シロー殿、それはなんですか?」
問いかけるプレートルに、俺は答える。
『以前バイクを見せただろ。あれの仲間みたいなものだ。空を飛ぶ機械獣だよ』
「これが、飛ぶのですか?」
『飛ぶだけじゃないぞ』
俺は機体の電源を入れ、コントローラーを使ってドローンを離陸させる。ドローンは鳥とは違う軌道で浮かび上がった。
「うわぁ、飛んだ!!」
浮き上がったドローンを見て、プレートルやメイドたちが驚いている。俺は空中でドローンを静止させながら言った。
『こっちを見てみろ』
「ええっ!!」
メイドたちはコントローラーに付いた画面を見て、さらに驚いた。その画面には、自分たちの姿が映っていたからだ。
「こ、これは!?」
『あの機械獣が見ているものを映し出すモノリスだ』
「す、すごいです!」
モニターという技術を初めて見たメイドたちは仰天していた。仕組みはいまいち理解していないようだったが、「魔法の一種だ」と説明すると納得してくれた。魔法という言葉は便利である。こうした時に面倒な説明を省いてくれるのだ。
『まずは、こいつを頂上まで飛ばして様子を見よう。闇雲に登るよりも安全だろう』
「さすがはシロー様。賢明な判断です!」
「偵察ですな」
俺はソフィアに煽てられて気分を良くし、ドローンを操る。機体をフラン・モンターニュの上層部に向けて飛ばした。
しゃがみ込みながらコントローラーを操作する俺の背後に、メイドたちが回り込む。全員が興味津々でモニターを覗き込んでいた。
ドローンは坂道をなぞるように登り、やがてフラン・モンターニュの頂上にたどり着いた。モニターに映し出されたのは、岩場と森の景色だけだった。
「シロー様、森の奥に何かありますよ」
「うわ〜、本当だ。何かの建造物っぽいよ〜」
さすがは目の良い獣人たちである。モニター越しに小さな異変を見つける。俺は、そちらの方向にドローンを進めた。
「これは、何でありましょう?」
モニターに映った建造物を見ながらプレートルが首を傾げると、ソフィアが言った。
「門、かしら?」
四つの丸太で組まれた四角い門。それは、日本で見られる鳥居によく似ていた。
『鳥居に似てるな……』
「なんですか、それは?」
俺はプレートルの質問に答える。
『鳥居ってのは、俺の国の代物だ。こちらで意味が通じるように言えば、教会に通じる道の入り口に建てられるゲートみたいなもんだよ』
「じゃあ、これはシロー殿の国の物ですか?」
『まだ、分からん……』
俺はドローンを進めて鳥居をくぐる。そして、さらに奥へと向かった。
すると、ピラミッド風に積み上げられた2メートルほどの高さの岩山を見つける。その岩山の上には、小さなお堂が祀られていた。
『あ〜、これ、俺の国の物だわ……』
「やはり、そうなのですね」
そう、プレートルが口にした刹那だった。ドローンの映像が乱れ、機体が墜落する。墜落したドローンは地面を映し出しながら、やがて水平線の先を映すような角度で止まってしまった。カメラは生きているが、ひっくり返ったドローンの復旧は叶いそうにない。
「どうなされました、シロー様!?」
『機械獣が墜落しちゃった。瞳は生きてるけど、動けない』
「なぜ墜落したのですか?」
『たぶんだけど、何かに襲われたのかもしれない。だとしたら、上に何かいるぞ』
その次の瞬間であった。墜落したドローンのカメラに、黒い何かが見切れる。
『何か居るぞ!』
それは、ゆっくりとカメラを覗き込んできた。
「黒猫……?」
『黒猫、だな……』
黒猫である。
ドローンを襲ったのは、どうやらこの黒猫のようであった。まだ、墜落したドローンに戯れている。




