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114【嫉妬の嵐】

 俺はクロエに現実世界で晩御飯を食べさせると、異世界に戻ってきていた。


 俺は食事を取らないのでクロエにご飯を奢るだけだったのだが、クロエにコンビニ弁当を食べさせながら彼女の生い立ちを聞いてあげていたのだ。


 エルフの国での暮らし。レオナルドとの出会い。戦国時代のこと。現代になってからの生活。それらの話は案外と面白かった。もしも俺が小説家だったら一本ぐらい傑作が書けそうなぐらいのネタ話ばかりだったのだ。まあ、ギャグ漫画よりの小説になるだろう。


 さすがに人生二千年も生きていると、いろいろな事件に出会うんだなって思ってしまう。


 特に面白かった話は、レオナルドとの暮らしである。レオナルドは今でもウロボロスの書物の権利者で、魔法使いの書の持ち主らしい。二十二人の中でも古参の幹部であるそうな。


 レオナルドは魔法の研究が好きな人物らしく、ウロボロスの書物が所有する各自の異世界に存在する魔法を研究して、オリジナル魔法を作っているらしい。それで作り上げられたオリジナル魔法は、各自の書物に配布しているとか。


 だから、ウロボロスの書物に記載されている魔法のほとんどが、レオナルドが作り出したオリジナル魔法らしいのだ。ゲートマジックもアイテムボックスもそれにあたる。


 そんなレオナルドとクロエが離れて暮らすようになったのは二百年ほど前らしい。それ以来会ってないとか。


 俺はこたつでクロエと向かい合いながら話す。


「それで、お前はレオナルドに憧れて、権利者を目指したんだな」


「はい。ですが、私には権利者としての才能はなかったらしく、こうして権利者の補佐役となったのです」


「んん〜、まあ、お前は弱っちいしな」


「ズバリと言いますね、四郎様……」


「事実だろ」


「これでもレオナルド様から風系魔法と幻術魔法を学んで、少しは使えるようになったんですよ。ですが、この世界はマナが少なくって、魔法が扱いにくいのです」


「マナ?」


「魔力みたいなものです。自然のエネルギーと言えば分かりやすいでしょうかね。それが、この世界は異世界より低いのですよ。私は精霊使いなので、マナが少ないと魔法の強さも低くなるんです」


「なんか、魔法って、面倒くさいな……」


「ですが、四郎様にはウロボロスの書物があります。ウロボロスの書物はマナが少ない空間でも魔法が使えるように支援してくれる魔道具でもあるんですからね」


「そうなの?」


「それらもすべて、レオナルド様の研鑽で作られた魔法なんですよ。レオナルド様に感謝してくださいね!」


「クロエはレオナルド推しだな。もしも出会うことがあったら、よろしく言っておくよ」


 そう述べると俺は、テレビの横に置かれた時計を見た。時計の針は十九時を指そうとしている。


「それじゃあ、俺は異世界に戻るからな」


「行ってらっしゃいませ。明日の朝ご飯までには帰ってきてくださいね。じゃないと私は朝食抜きになってしまいますから」


「朝飯ぐらい自分でなんとかしろよ……」


「自力でなんとかできるならば、してますよ!!」


「キレるな。まあ、早く寝ろよ」


「は〜い」


 そう捨て台詞を残すと、俺はゲートマジックをくぐって異世界に戻った。ゲートマジックは家の台所に繋がる。俺が台所に出ると、朝食の準備をしていたチルチルと出会う。


「あら、シロー様。おはようございます」


『やあ、チルチル。おはよう』


 言いながら俺は恵比寿の仮面を嵌めると、ウェアのフードを被って髑髏を隠した。


『なあ、まだブランは起きてこないのか?』


「ブランさんは、朝から森に薪を集めに行きました。それよりも……。クンカクンカ……」


 唐突にチルチルが俺の衣類の臭いを嗅いできた。もしかして、体臭が臭いのかな?


『なんだよ、チルチル……?』


「クンカクンカ……」


『んん……?』


「シロー様から知らない女性の臭いがします……」


「ええ?」


「しかも、これは生娘の香り。乙女の匂いですわ!」


『ええっ!!!』


 たぶんクロエの匂いだろう。胴締めスリーパーとかしたから彼女の匂いが移ったのかもしれない。


 に、しても、あれが乙女なのか……。


「シロー様、誰の匂いです。どこで遊んできたのですか!?」


『いや、これは誤解だよ……』


 くるりと背を向けたチルチルが竈門のほうに歩いていく。そして、おもむろに薪の一つを手に取った。それは棍棒のように太い木の枝である。


 再び振り返るチルチルが、怪しくも目を光らせながら言う。


「どのように誤解なのか、説明してもらいましょうか、シロー様」


 ペチンペチンと自分の手の平に薪を叩きつけるチルチルは感情の無い笑みを浮かべていた。明らかな威嚇が見て取れる。


『こ、怖い。なんかチルチル怖いよ!!』


「そのようなことはございませんよ。チルチルは何も怒ってませんから。ゴォゴォゴォゴォォオオオ!」


『怒っていない娘が、ゴォゴォゴォゴォォオオオって効果音を立てないと思うんだけど!』


「そうですかぁ!」


 この誤解が晴れるのに一時間ほどかかってしまう。


 俺は現実世界で雇った新しい事務職員の話をチルチルにした。チルチルは不満げだったが、それをなんとか納得させたのだ。


 危うく頭を薪でカチ割られるところだった。危ない危ない。


 最近なんだかチルチルが嫉妬深いような気がするのだが、気のせいだろうか?


 それとも女の子って、全員こんな感じなのだろうか?


 とにかく、女の子って難しいと思う。脳筋の馬鹿男子には難題過ぎる。


 今度から現実世界から異世界に戻る際は、パブってから来ないと危ないだろう。匂いには気を付けなければなるまい。チルチルの鼻は侮れない。



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