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11【ゴールド商会】

 テーブルを挟んで向かい合いながら腰を下ろしている両者。だが、両者の間で殺気が冷たくも静かにぶつかり合っていた。


 先ほどまでニヤけていた鬼頭二角は鋭い眼光に変わり、鏡野響子は絶対零度のような冷たい視線に変わっていた。


 二人は着席しているが、隙がない。


 俺には見ただけで分かるのだ。長年、空手や数々の武道を嗜んできた経験が知らせている。


 この二人はできる。しかも、かなりの強者。おそらく二人と同時に戦ったら100パーセント負ける。おそらく一人ずつでも手強いだろう。


 体格や格闘技の経験年数では、俺のほうが圧倒的に上回っているはずなのに、武道家の見立てでは、そう出ていた。


 鏡野響子が述べる。


「もしも貴方がゴールド商会に入社しなければ、貴方を殺すしかないわ……。すべては秘密保持のためよ」


 鬼頭二角が述べる。


「俺たち二人は、今日、そのために来た。俺たちだって悪党じゃあねえ。無駄な殺しはしたかねえからよ、いいから仲間に加われ……」


 俺は殺気を押さえながら訊く。


「ゴールド商会に入社して、俺に何か得があるのか?」


「今まで通りにウロボロスの書物が使えるわ」


「それに不老長寿が手に入るぜ〜」


「その他にも特権がいくつかあるわよ」


「特権とは?」


「まずは黄金の提出により、経験値と給金がもらえるわよ」


「給料も出るのかよ……」


 意外だった。


「そりゃあ会社だもの。働けば給料が支払われるのは当然よ」


「それに経験値はうまいぞ。ウロボロスの書物の成長に使える。それは、自分の強さをアップさせられるんだ。好きなスキルを覚えて、好きな魔法を取得できるぜ〜」


「なるほどね。金塊を経験値に変えて自分を強くできるのか……。さらには、給料まで……」


 鏡野響子がアイテムボックスから自分の書物と異国の金貨を取り出してテーブルに置いた。その書物の上に金貨を触れさせると、金貨は書物に吸い込まれていく。


「これだけで経験値と給料を貰えるわ。金塊は、そのグラム数によって、こちら側の金塊価格で買取されるの」


「まあ、大概は現実世界のほうが金の相場は高いからよ、大きな儲けになるってわけだ」


「例えば、こちらの世界から塩を持っていっただけで、金貨一枚ぐらい稼げちゃうのよ」


「塩だけで……?」


「大概の異世界では調味料が貴重品だ。だから高く売れるぜ。そして、金貨を手に入れたら書物に献上する。それだけで高額の給料が貰えるって仕組みだ。なあ、簡単なお仕事だろう〜」


 もう既に二人の警戒心は解けていた。俺が揺らいでいるのが分かるのだろう。


「さらに戸籍問題も解決するわよ」


「戸籍問題?」


「私たちは不老不死。少なくとも不老長寿なの。だから姿が変わらないまま、いつまでも生きるの。そうなると、どうなると思う?」


「外見的に歳を取らないから、一般人に怪しまれるのか……」


「ピンポーン、正解だ〜」


「そうなった際の戸籍操作や住む場所の手配も、ゴールド商会の事務がやってくれるわよ。これは、不老長寿に欠かせない案件になってくるわ」


「なるほど……」


 ゴールド商会に入社するのは、悪いことだけでもないようだ。むしろ都合が良すぎる。すべてのシステムが構築済みのようだった。


 だから怪しい……。


 うますぎる話には必ず裏がある。戸籍を操作し、経験値を得て、不老長寿が手に入る。すべてが整いすぎている。俺は知らず知らずのうちに、抜け出せない底なし沼に足を突っ込んでいるのではないか……?


 しかし、逆らえば本当に殺されるかもしれない。ここはこいつらに合わせるしかないだろう。


「分かったよ。ゴールド商会に入るぜ」


「よ〜〜し、話はまとまった〜。それじゃあ俺は帰るぜ〜。響子さ〜ん、あとは任せたぜ〜」


 そう述べると鬼頭二角は部屋を出ていった。玄関に向かう。


 俺は残った鏡野響子に訊いてみた。


「それで俺は、これから何をしたらいいんだ?」


「金塊を集めて本に献上しなさい。それだけでOKよ。金は金の延べ棒でも金貨でも何でも構わないわ。月々30グラムは納めなさい。それだけで十分よ。もちろん、多く納めて悪いことは何もないから頑張りなさいね」


「その月々30グラムを納めきれなかったら、どうなる?」


「一ヶ月で一年分の歳を取るわ」


「地味に嫌なペナルティーだな……」


 一ヶ月サボれば一年分も老いる。たった一年? そう思うかもしれないが、それが十年続けばどうなる。


 もし二十年サボれば、俺は白髪の老人になっているかもしれない。いや、下手をすれば死ぬのではないだろうか。これはまるで緩やかな死刑宣告じゃないだろうか。


「だから最低限は頑張りなさい。一年サボって、十二歳も歳を取りたくないでしょう」


「ああ、分かった……」


 俺は一口だけお茶を啜ると、最後に質問を投げかけた。


「最後の質問をさせてくれ……」


「何かしら?」


「ゴールド商会ってのは、何を目指しているんだ?」


 鏡野響子がウィンクをした。


「人が生きるのに、理由は必要なのかしら?」


「………」


 こうして俺の新たなる人生が始まったのだ。その目的は金塊集め。異世界から金塊を持ち出す仕事である。


「それと、言わなくっても分かってると思うけど、ウロボロスについては絶対に秘密よ。一般人にバレたら、消されるわよ。貴方も、知った人もね」


「了解した……」


 本当に脅しが多い会社である。ブラック企業だな。



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