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100【二兎】

 バンパイアが巣くう城の中。俺と暁の冒険団たちは、青髪のメイドに案内されながら薄暗い廊下を歩いていた。


 外は日中なのに、城内には太陽光が微塵も差し込んで来ていない。窓はカーテンが閉められ日差しが遮られている。流石はバンパイアの城と言った雰囲気であった。


 赤い絨毯が敷き詰められた廊下のところどころには、フルプレートの甲冑が飾られている。おそらく警護用のリビングアーマーだろう。今にも動き出しそうで不気味である。


 そして、俺たちは客間に通された。そこにはマホガニーの机が置かれており、豪華な座席にはヴァンピール男爵が腰掛けていた。その後ろにシアンが立っている。


 部屋の中は暗い。窓からは日差しが入ってこない。シャンデリアを飾るように焚かれた蝋燭が室内を照らしていた。


 俺たちは、部屋の中央に設置されたソファーセットに腰掛けるように言われた。俺たちがソファーに着席すると、メイドたちが紅茶を運んで来る。


 ティーカッブも上品だが、注がれている紅茶からも上品な香りが漂ってきていた。――っと、思う。俺には鼻が無いから香りは分からないのだ。テヘペロ。


 そして、マホガニーのテーブルを前に腰掛けるヴァンピール男爵が言った。


「シロー殿、済まないね。早速、足を運んでもらって」


 俺はソファーに腰掛けながら姿勢を正すと答えた。


『いやいや、構わんよ』


「何より、コア水晶の破壊、ご苦労さまでした」


「「「「「えっ!?」」」」」


 ヴァンピール男爵の言葉に、暁の面々が驚いていた。彼らは俺がコア水晶を破壊した件については知らされておらず、今、初めて知ったのだ。


 俺の隣に座るエペロングが訊いてきた。


「シローの旦那、ゴブリンのコア水晶を破壊したのか……?」


『うん、壊したよ〜』


「相変わらず、仕事が早いな……」


 するとシアンがテーブルの上にコア水晶の破片をいくつか置いた。


「これが、証拠の破片です」


 テーブルの上に置かれた水晶の破片を、マージがじっくりと観察してから言った。


「間違いないじゃろう。この破片には、ゴブリンの気配が残留しているぞい。ギルドに持っていけば、コア水晶の破片だと鑑定されるじゃろう」


『へぇ〜、気配とかで分かるんだ〜。すげ〜な〜』


 するとヴァンピール男爵が述べる。


「本日、冒険者の方々をお呼びしたのは、少しお話がありましてね」


 リーダーのエペロングが問う。


「話とは何ですか?」


「コア水晶の破壊は、パリンオンとモン・サンの町の冒険者ギルドから、捜索と破壊のクエストが受注されていましたよね」


「ああ、両方の町から受注が出ている」


「それを、あなたがたは両方とも受けていますよね?」


「ああ、もちろんだ。そうじゃなきゃ、こんな田舎まで来ないぞ」


 ヴァンピール男爵は、マホガニーの机の上で腕を組みながら言った。


「その依頼は、フランスル王国から出された依頼なのですよ」


「んん?」


 首を傾げる冒険者たちは、ヴァンピール男爵が何を言いたいのか理解できていない。


「我々王国に属している組織が事件を解決しても、冒険者ギルドからは報酬が支払われないのです。何せ、依頼人は我々のようなものですからね」


 そこまで聞いて、頭の回転が速いマージが察する。


「要するに男爵様は、我々冒険団が事件を解決したことにして、報酬を受け取りたいのじゃな」


 ヴァンピール男爵は、薄笑いを浮かべながら返す。


「さすがは魔法使い殿。分かってもらえますか」


「ええ、分かりますぞよ。それで、取り分は?」


 リーダーのエペロングを無視して、マージとヴァンピール男爵が話を進める。他の面々は、それを黙って見守っていた。


 ヴァンピール男爵が微笑む口元を、組んだ両手で隠しながら述べる。


「取り分は、半々。そのぐらいが妥当かと思います」


 マージは大きな胸の前で両腕を組みながら同意する。


「よかろう。こちらとしては、ボロ儲けな話だから問題ないぞよ」


「話が通じる相手で、良かったです」


 ヴァンピール男爵の返答を聞いたマージが、テーブルの上に置かれた水晶の破片を二つ手に取る。そして、そのうちの一つを、向かいに腰掛けるエペロングに向かって放り投げた。それをエペロングは片手でキャッチする。


「リーダーは、パリオンの冒険者ギルドに行って、報酬をもらって来るのじゃ。ワシは、サン・モンの町の冒険者ギルドに報酬をもらいに行くぞよ。この破片が討伐成功の証明になるはずじゃ」


「なるほどね〜。二兎追うものは、二兎とも得るってか。あんたらも、悪よのぉ〜」


「はっはっはっはっ〜」


「かーかっかっかっ〜」


 ヴァンピール男爵とマージの二人が悪どく笑っていた。それを他の面々が呆れながら見守る。


 そして、澄んだ空気を俺の言葉が破る。


 その一言とは――。


『ところで、俺の報酬は?』


 室内が静まり返る。誰も一言も発しない。それどころか、誰も俺と視線すら合わせようとしない。


 すると、暁の冒険団たちがソファーから立ち上がった。


「では、ワシはサン・モンに出発じゃ」


「マージ、俺も同行するぞ。一人だと危ないだろう」


「すまんの〜、バンディ」


 俺から視線を逸らしているエペロングが述べた。


「じゃあ、パリオンには、俺とティルールで向かうぜ」


「さて、善は急げだ。早く出発するぞい!」


 五人は逃げるように部屋を出て行った。そして、俺はヴァンピール男爵を見つめながら、再び問うた。


『俺の報酬は?』


 しかし、ヴァンピール男爵は、霧となってどこかに消えて行った。どうやら逃げたようだ。



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