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97【無限の拷問】

「やれやれだ……」


 すでに四度も巨大ゴブリンを殺しているヴァンピール男爵が、呆れたように肩をすくめた。不死の巨大ゴブリンが、不老不死のアンデッドを呆れさせている。


 巨大ゴブリンは死なないのだ。殺しても殺しても生き返る。


「畜生が。殺しても殺しても生き返りよってからに……。むむむむむ、くどい!」


 愚痴る男爵。すると後方で観覧していたシローが、ヴァンピール男爵に問う。


『どうします、男爵様。こいつ、殺しても死にませんよ』


「はぁ……」


 深いため息を吐いた後、ヴァンピール男爵は答える。


「死んでも死なない輩は、昔から処置が決まっています」


『処置って?』


 呆れ顔のままヴァンピール男爵が右手をかざすと、薬指にはめていたアメジストの指輪が光った。すると、巨大ゴブリンの足元から順に紫水晶の結晶が現れ、巨大な体を包み込んでいく。やがてその全身が爪先から頭までもアメジストの塊に覆われた。


『宝石の牢獄か……』


「死なない魔物は封印に限ります。時が、彼を忘れさせてくれますよ」


 しかし、すぐに巨漢を包んでいた紫水晶の表面に罅が走る。結界が破壊された。


「ええ……まさか……」


『これは、アカンやつや……』


 呆れ果てた二人の目の前で、巨大ゴブリンを閉じ込めていた紫水晶の封印が結解した。アメジストが粉々に砕け散り、巨大ゴブリンが何事もなかったように歩み出てくる。


「くそが……。閉じ込めても駄目なのか」


『ねえ、男爵様?』


「なんです、シロー殿?」


『そろそろ、俺と交代してくれないか』


「何か、こいつを倒す作戦でもあるのですか?」


『作戦っていうか……死なないなら、死にたくなるまで追い詰めてみようかなって』


「なんです、それは……?」


『いいから、交代交代!』


 そう言って、シローが首の関節を鳴らしながら前に出た。代わってヴァンピール男爵が後方に下がる。


 両手を上げてバンザイの姿勢を取るシローが、ゆっくりと腕を下ろす。そして、下ろしながら拳を強く握りしめ、顔の前に並べてファイティングポーズを築いた。空手の構えである。


『レディーー……Go!!』


 弾丸のようなダッシュだった。わずか一歩の跳躍で、巨大ゴブリンの懐に入り込んだシローが、超接近の間合いからマグナム弾のような強烈な正拳突きを腹部に打ち込む。


『スキル、スマッシュ!』


 それは新しく覚えたばかりのスキル技だった。いつの間にかウロボロスの書物に記載されていた戦闘技である。


 なんでも攻撃速度と、破壊力を僅かに増幅して放てるスキル技らしい。それを正拳突きに乗せて放ったのだ。


 スパーーンっと爽快な音が鳴った。それに続いて拳を受けた腹部が、太鼓のような激音を響かせる。その激音は巨大ゴブリンの背中から抜けると、その振動で洞窟内が僅かに揺れた。


「ガ……ガァ……ア……」


「もう一丁ッ!」


 前のめりに姿勢を崩す巨大ゴブリン。その顎先に、下から上段前蹴りを打ち上げるシロー。踵は天を蹴り上げるように鋭く振り抜かれた。


『スマッシュキッーーーク!』


 再びスマッシュスキルを乗せた蹴り技を放ったのだ。顎を下から蹴り抜いた。


 スキル・スマッシュは現在のところレベル2である。計二回放てるのだ。これですべて使い切ったことになる。


「キャイン!!」


 上段前蹴りに蹴り上げられた3メートルの巨体が、洞窟の天井まで跳ね上がり、顔面を鍾乳石に激突させる。そして落下した。


 落ちてきたその頭部を、今度は着地と同時に後ろ回し蹴りで蹴り飛ばす。


「せいっ!」


「ブゥホォオオオオ!!」


 空手界で最強の破壊力を誇る後ろ回し蹴りが頭に直撃し、巨大ゴブリンの体が真横に吹き飛ぶ。地面を数メートル滑って止まった。


 だが、その止まった場所に、シローがジャンプで飛び込んできた。片膝を立て、体重を乗せながら勢いよく降ってくる。


『ジャンピングニードロップだぁ!!』


 そのニードロップが、巨大ゴブリンの腹にめり込んだ。ハンマーのような重々しい膝が内蔵を押し潰す。


「グゥヘェエエ!!」


『マウントポジション、ゲット!』


 巨大ゴブリンの腹をまたいで乗りかかったシローが、馬乗りの体勢で笑みを浮かべる。そのまま、倒れている巨大ゴブリンの顔面に拳の雨を降らせた。


『オラ、オラ、オラ、オラ、オラ、オラ、オラ、オラ、オラ!!!』


 マウントポジションからのパウンド。それは格闘技界では難攻不落のポジショニングだ。その体勢に持ち込まれたら、下の者は逃げられない。降伏するか、気絶するか、死んでも殴られ続けるしかない。


 その体勢のまま、シローは巨大ゴブリンにパンチを休むことなく打ち込み続けていた。勝ちの確定の状態だ。


 しかし、相手は不死身の怪物。ただボコボコにのした程度では終わらない。


 だが、休む暇もなくシローは、ただただ拳を打ち込み続けた。そのまま時間が進んでいく。


 やがて、時が過ぎた――。


 シローが巨大ゴブリンにマウントポジションを取ってから、一時間が経過していた。その間にもシローは休まずにパンチを打ち続けていた。


 パンチを長時間にわたって喰らい続けている巨大ゴブリンの顔面は、腫れては回復し、腫れては回復しを繰り返すばかり。気絶してもパンチで起こされ、死んでもリジェネレートで生き返る――その繰り返しだった。


 それは、無限の拷問。しかも、死んでも終わらない。さらには拷問官の体力も無限大のアンデッド。即ち、この拷問はシローが飽きるまで続けられる。


「ヒィェエエ、モウ、止メテクレ〜!!」


『い、や、だ、ね!!』


 どうやら拷問は、まだまだ続くようだ。





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